Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
5.Disquiet,Suspicion and Expectation
作戦発動より1週間。アメリカ派遣部隊は担当区域のおおよその制圧を終え、橋頭堡建に力を注いでいた。そのため戦術機部隊の稼働率は下げられ、現在は
カイザー中隊
ジョーカー中隊
ドルフィン中隊
シーホース中隊
がローテーションを組んで前線でBETAの迎撃を行い、ジュゴン中隊が防衛線を構築していた。
そのためキャシーを含む非番の戦術機部隊は束の間の休息をとっていた。
今はキャシーとフィールが仮設PXで談笑をしているところだった。
「―ホント、キャシー達が近接戦にシフトしたときは驚いたわ。事前に言われてたとはいえ、現実にやってくるとは思わなかった…」
「実は、ドッグファイトをやった自分が一番驚いてたりするわ。」
「…どういうこと?」
フィールによって切り出された先の戦闘の話にキャシーが溜め息混じりに返事をする。それに興味津々といった表情で訊ねてきた。
「…実はまだあの時、私は弾薬残ってたのよ。」
「…は?」
キャシーはレインが弾薬を撃ちまくって弾倉を空にした話をする。
「…へぇ。中々アグレッシブな娘がいるのね。」
「さあ。本人に訊いてみたら?私達と同い年よ。…でも怒らせると自慢の短刀で切りつけられるかもよ?」
「あら怖い。」
やがて話は戦術機の話へ移る。
「それにしてもラプターって凄いのね。航行速度にしても三次元機動にしても。」
「そうね。ブラックウィドウとの競合開発でできた機体だけど、ブラックウィドウとは違って地上でのBETA完全制圧を目的としているのよ。だから柔軟性の高い機動が出来るの。でもね、ブラックウィドウの方が性能は上だったりするのよ?」
「嘘…」
ラプターの現実離れした機動を見せられたキャシーにとって、更なる性能を持つブラックウィドウは驚異にすら感じた。
「でも貴女達の機動も中々のモノだったわよ。スーパーホーネットとは思えなかったわ。」
「あれは…生きるために身に付けたモノなの。大して自慢できるものじゃないわ。」
称賛に慣れていないキャシーは照れながらも応える。同時に苦い思い出も甦っていた。
―独りで闘ってきた…あの時…
感傷に浸っていたのも束の間、すぐさまフィールに現実へ引き戻された。
「いいえ、誇っていいことよ?素晴らしいわ。」
「…ありがとう。」
「ところで、話は変わるけど。近い内に国連の試験部隊がこっちに派遣されるそうよ。」
「…試験部隊?」
キャシーは眉を潜める。
「いわゆる新機体の実践検証よ。私達の担当区域の戦況は安定してるし。」
「…でも、足手纏いにならないかしら?」
「さあ。でも噂ではその機体、第二世代機の改修型にも関わらず、性能は第三世代機並みだそうよ?それを駆る衛士も世界最高レベルみたい。」
「へぇ…それは興味あるわね。」
高性能の戦術機にそれを駆る世界最高レベルの衛士。これに興味を持たぬ衛士などいない。
「まぁ、後のブリーフィングで説明があるだろうし、楽しみにしてしましょう。」
「そうね。」
試験部隊に少なからず期待しつつ、2人はブリーフィングルームへと向かった。
◇◇◇
1時間後。
ブリーフィングルーム。
「…以上で状況説明を終わります。何か質問はありますか?」
ユウキの丁寧な状況説明が終了し質疑応答の時間に入る。
特に質問もなく、本来ならばここで解散の号令がかかるところなのだが。
「では、ブリーフィングは終了します。次に、国連からの通達を皆さんにします。」
国連という単語に場にいた者が嫌悪感を示す。国家間調整という大義名分を翳して自国を虐げる国連に好感を持つアメリカ軍衛士は少ない。
「現在の我々の戦局安定を鑑みて、国連は我々の担当区域に試験部隊を派遣することを決定しました。」
試験部隊派遣の決定を聞くや否やざわめき始める衛士達。無理もない。前線衛士にとって、試験部隊は足手纏いになる可能性が高いからだ。
「それに伴い、国連軍より派遣された衛士を紹介します。」
そう言ってユウキは外に目配せする。どうやら既に準備してきたようだ。
期待と疑惑の眼差しの中、その衛士達はブリーフィングルームに入室してきた。
体つきもよく、前線で闘い抜いてきた雰囲気を漂わせる褐色肌の男性衛士。
やや背は低いがその目は好戦的で、活気のある同じく褐色肌の女性衛士。
長髪で長身、人当たりの良さそうな男性衛士。
豊満な体つきで、どこか優しさを感じさせる女性衛士。
4人はやがてユウキの横に立ち、最初に入ってきた男性がユウキと握手を交わす。
その時点で既に小さなざわめきが生じていた。嘘だろ、という声も聞こえる。
「紹介しましょう。国連軍より派遣されたアルゴス試験小隊の方々です。」
一斉に敬礼がなされる。
「トルコ陸軍、イブラヒム・ドーゥルだ。短い間だが、よろしく。」
「同じくッ、タリサ・マナンダル少尉ですッ!」
「同じくヴァリレオ・ジアコーザ少尉でありま〜す。」
「同じく、ステラ・ブレーメル少尉であります。」
4人の軽い挨拶を終えると、イブラヒムは端の席に着く。
「次に、試験部隊が主に試験を行う機体について、説明します。」
ユウキの一拍と共にプロジェクターに戦術機のイメージが投影される。
「F-15・ACTV、ストライクイーグルの改装強化された実証機です。呼称はアクティブ・イーグルです。これは―」
ユウキの口より専門的な説明がされていく。しかし、前線の衛士に取っては何の事かさっぱりであった。
キャシーも例外ではなく、ポイントのみを理解しようと試みていた。キャシーなりにまとめてみると、
・従来のイーグル機よりも出力が高い
・準第三世代機並の機動性
・稼働時間が少ない
・搭載可能な兵器がすくない
というものだった。
―前線で稼働時間が少ないだなんて…それに兵装も貧弱…使い物になるのかしら…
キャシーは、フィールから事前にリークされた情報から、過度に期待しすぎたのかと疑念を募らせていた。
「―なお、今回の試験部隊の編成は
アクティブ・イーグル1機
ストライク・イーグル3機
となっています。また、試験部隊の護衛は予備戦力のインビジブル小隊、マーメイド小隊にお願いします。試験部隊派遣の間、カイザー中隊は基地内待機とします。」
いきなりの指名にキャシーは反応を取る事が出来なかった。カイザーの衛士達が歓喜の声を上げることで、ようやく返答することができた。
「ブリーフィング終了後、マクトニー中尉とフォード中尉は残ってください。私とドーゥル中尉で打ち合わせを行います。」
「「了解!」」
キャシーとフィールの声がユニゾンを奏で、ブリーフィングは終了した。
―試験部隊のお守り?冗談じゃないわよ…
暗鬱な気持ちを押さえ込み、キャシーは調整をすべくユウキの元へ向かった。
◇◇◇
調整終了後、PX。
「…疲れたわ…精神的に…」
「情けないわねぇ。偉くなれないわよ?そんなんじゃ。」
疲労の色を見せてぼやくキャシーに対し、フィールは何処吹く風といった調子で席に着いた。
「フィールは偉くなりたいの?」
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia