Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
「んー。どうかな。でも正直な話、軍にいたら偉くなることと、食事位しか楽しみがないじゃない?」
「…と言われても合成食材は…ちょっとね…」
「それは同感。」
目を合わせて失笑する2人。
未だに天然素材を100%自国で賄えるアメリカでは、軍での食事も天然物を使用している。その為、国際標準である合成食材にはどうしても慣れる事が出来なかった。
「にしても、ドーゥル中尉が来るとはねぇ…」
「フィール、知ってるの?」
「ええ。トルコ陸軍のドーゥルと言えば、難民救済の英雄って言われてたのよ。」
「そうなんだ…全く知らなかった。」
「その筋では有名よ?」
「へぇ…」
「でもね、一部の衛士からは批判もあるわ。」
「…どういうこと?」
フィールは声を潜めながら言う。
「難民を救うためなら味方の犠牲も厭わない、味方殺しの衛士だ、って。だから彼の隊に配属されるのを拒む衛士も少なくなかったそうよ。最も、国連に入ってからはそうでもなくなったらしいわ。」
「なるほど…」
キャシーには難民救済にどれ程の犠牲が払われるか想像できなかった。しかし、名もない人々のために自分が命を落とすのは躊躇われた。
―難民だろうが衛士だろうが命の価値は同じ。でも…
頭では完璧に理解できている。しかし実際自分がその場にいたらどうだろう。果たして難民の為に命を投げ出すことができるだろうか―
「…キャシー、大丈夫?」
「…ええ。ごめん。少し疲れが…」
思考の海に漂いそうになっていたところをフィールに引き留められる。
―そうよ。私は私の為すべき事をやる。それが私の遣り方なのだから。
「そう。じゃあ私達もそろそろ休みましょう。明日は気を遣わなきゃならないみたいだしね。」
「そうね。行きましょうか。」
フィールの言葉を切っ掛けに2人はPXを後にし、自室へ戻った。
◇◇◇
同時刻、ブリーフィングルーム。
「今回のテストはあくまでアクティブ・イーグルの実証試験だ。くれぐれも先行しないように。」
「…せっかく久しぶりの実践だってのに、近接戦闘をやらせてもらえないなんて。」
イブラヒムの釘を刺すような言葉にタリサがぼやく。
「タリサ、貴女が暴れすぎて良いことなんてないでしょ?」
「そうそう。機体に負荷ばっか掛けてボロボロにしちまうンだからよ〜」
それに対し追撃をするステラとヴァリレオ。
むむむむっと唸るタリサに構わずイブラヒムは説明を続ける。
「なお、今回のテストで我々の護衛を務めてくれる小隊はインビジブル小隊、マーメイド小隊だ。」
インビジブル小隊とマーメイド小隊の機体がプロジェクターに写し出される。
また同時に3人は手元の資料に目を遣る。
「ウソ、ラプター…!?」
「ほォ〜、見せ付けてくれますねェ〜」
「で、一方はスーパーホーネットと…」
「二個小隊は共に相当のベテランだそうだ。」
3人の驚愕にイブラヒムはなおも続ける。
「でも連中、どうせ砲撃でバンバンBETAを叩こうとしてるんだろ?気が合いそうもないなぁ…」
タリサは更にぼやく。
「でもよォ、中々の美人揃いだぜェ?特に両方の小隊長、こりゃかなりのモンだ。」
「VG、また前みたいに撃墜されないようにね?」
ヴァリレオの冷やかしをステラがたしなめる。
「嫌な事思い出させンなよステラ〜」
と反論するヴァリレオはまだにやけている。
イブラヒムが咳払いをする事でその場は収まった。
「とにかく。各員くれぐれも行動には注意しろ。以上だ、解散。」
イブラヒムの号令と共にアルゴスの面々は席を離れた。
◇◇◇
数分後。基地内廊下。
「あ、あれは…」
「ん?フィール?あっ…」
フィールの気づいた先には先ほど説明を受けた3人の衛士がいた。
向こうも気付いたようで、敬礼をしてくる。
フィールとキャシーも敬礼を返すと、3人に近付いた。
「貴方達は…」
「は。アルゴス試験小隊のステラ・ブレーメル少尉であります。こちらは…」
「いいわ。さっき紹介もあったし。それに、私の事は任務以外はファーストネームでいいわよ。」
「私もよ。」
ステラの言葉を遮り、ファーストネームで呼ぶようフィールは促した。
内心では驚きつつも、キャシーもそれに倣った。
「…じゃあフィール、キャシー。短い間だけどよろしく。」
「ええ、よろしく。世界最高レベルの腕、期待してるわ。」
そう言ってステラ、フィール、キャシーは互いに微笑んだ。そんな中、キャシーは微かな安堵を覚えた。
―少なくとも悪い人達ではなさそうね。
二、三言葉を交わした後、キャシーとフィールはその場を離れた。
そこには話すことに満足したステラ、尚も好戦的なタリサ、鼻の下を伸ばしたヴァリレオが残された。
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia