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Muv-Luv Cruelty Mermaids 1

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7.Unexpected



作戦開始から12日が経過。
アルゴス試験小隊との懇親会を済ませ、その後の試験項目も順調に消化し終えると、また何処かで共に闘える日を願いながら彼らと別れの挨拶をした。

「ん〜。実に有意義だった!」

「まさかレインに匹敵する短刀バカがいたとはね…」

「何か言った?」

「…なにも。」

タリサとレインは他が予想した以上に気が合ったようで、夜通し近接戦談義をしていた位であった。オマケに最後はどちらの技術が上か模擬戦をやる約束までしていた。

「ユーコンってさ〜アラスカだよね〜。寒いのかな〜。」

「あんた…衛士止めて精肉工場行きなさいよ。」

「む☆り☆」

「キャシーさん、姉さんの唯一の快楽を奪ってはいけません。」

「そうよキャシー。あの娘は肉を切り裂くのが趣味の戦闘狂なんだから。」

「おいコラ!」

レインをいじり笑いを交えながら、4人はPXを後にした。




◇◇◇




同時刻。ブリーフィングルーム。

そこには陸海軍の派遣部隊トップ―ユウキとクリスが協議を行っていた。

「…なんてこと…」

「流石にこれは不味いですね。」

いつもは冷静な2人が今度ばかりは驚きを隠せなかった。

「タイミングが悪すぎますね。」

「リヨンハイヴはまだ理解できるわ…でも…」

「はい。ミンスクハイヴまでが動き出すとは…予想外です。」

「しかも同時に動き出すだなんて…」

「今彼らが動き出したら橋頭堡は…瓦解します。」

「…国連軍はどの様な対応を?」

「試験部隊は即時撤退。実戦部隊が臨戦態勢に入ったようです。」

「東欧州の連中は?」

「元々慢性的な戦力不足ゆえか、ツェルベロスに応援要請したようです…形振り構ってられないのでしょう。」

「で、私達は?」

クリスは訊ねる。
ユウキはそれには応えず、変わりに別の話を切り出した。

「アメリカ議会は今後の対BETA戦略を決定したようです。」

「…え?」

「G弾によるハイヴ及びBETAの一掃。残されたハイヴからG元素を回収し、再びG弾を生産…というサイクルを行うようです。」

「…」

「つまり。我々は最早要らないんですよ。」

「…!でもその戦略は10年前に一度凍結されたはず!」

「はい。ですがオルタネイティブ4反対派が再びG弾運用を主張し始めました。また、その間に複数のハイヴを建設されたため、議会もG弾運用ドクトリンを採用したようです。まあ、活発なロビー活動もあったようですが。」

「じゃあ、幹部陣は…」

「ええ。この期に及んで未だに命令を出していません。恐らく、ドクトリンに会わない者達をあわよくば一掃出来たら占めたものと考えているのでしょう。」

「そんな…」

クリスが絶句する。無理もない。味方に見殺しにされるようなものだからだ。

「ですが…そんなことはさせません。」

「どういうこと?」

「上層部が必要としていないのは、主に私の部隊とフェニックス、そしてクリス、貴女の部隊です。」

「…」

「私の部隊が必要ないのは、まず私自身が必要ないから。フェニックスが必要ないのはブラックウィドウがドクトリンに合わないから。そして貴女の部隊が必要ないのは…」

「私が必要ない…から。」

「そうです。寧ろ邪魔と言ってもいいでしょう。私達はG弾運用反対派ですから。」

「じゃあ…どうすれば…」

「私達は恐らく帰還命令など下らないでしょう。ならば私達は此処に止まる他はありません。ですが、私達に関係の無い部隊はその限りではありません。」

「つまり…他に託す、ということかしら?」

「はい。私は既に宛があります。貴女は?」

「…1人だけ、いるかもしれないわ。」

「分かりました。後程呼びましょう。」

「ええ。」

「…すみません。この様なことになってしまって。」

「ユウキ…」

「ですが…貴女の命、私に下さい。」

決意を持った眼。
進むことを決めたユウキに、クリスは静かに従することにした。

「もちろんよ。貴方が望む世界を創りましょう。」

「…はい。ありがとうございます。…では後継者を呼びましょう。」

「そうね。」

クリスは内線をコールした。




◇◇◇




15分後。

キャシーとフィールはユウキによって(正確にはクリスのコールによって)ブリーフィングルームに呼び出されていた。
ユウキは前述の内容を総て伝えた。

「…ということです。故に私とトール大尉は生きて還れない公算が高い。そこで、貴女方に万が一の事態に直面したときのその後の行動を指示しておきます。」

「そんな…少佐が…」

「なんて…」

余りの事の大きさに2人は理解しかねる様子を見せていた。そんな彼女達に対してユウキは柔らかな口調で続ける。

「私達の事は忘れてください。ただ、貴女達に伝えた事を覚えていてくれさえすればいいんです。」

「でも…」

フィールは涙ぐみながら何かを言おうとしたが、言葉が続かない。
キャシーも何を言えばいいのか分からなかった。

「2人共、しっかりしなさい。私達は貴女達を信じているわ。…これからも貴女は大切な人を失うことになるかもしれない。でもね、貴女達が私達を忘れないでくれれば私達は貴女達の中で生き続けられるの。それを忘れないで。」

クリスは母か姉のような調子で2人を諭す。
まだ気持ちの整理がつかない。でも彼らの言葉を聞く。それが彼らの"命令"なのだから。
そういった気持ちでフィール、キャシーはユウキとクリスに次の言葉を促した。

「ではフィール・マクトニー中尉、貴女には―」

「キャシー、貴女にはね―」




◇◇◇




20分後。
ブリーフィングルームは再びユウキとクリスだけとなった。

「お互いに良い部下を持っていたようですね。」

「そうみたいね。…でも貴方がフィールを指名したのは意外だったわ。」

「何故ですか?」

「彼女はラプター乗りよ?ラプターはG弾運用ドクトリンに従って作られた機体。そんな彼女に話をするなんて…」

「なるほど。ではお話しましょう。彼女を選んだのには理由があります。まず、彼女はラプター乗りであるが故にG弾運用を画策する上層部から消される可能性は低い。可能性は相対的にラプター搭乗者の中ではベテランに入りますから。また、ラプターから他の機体へのいきなりの転換も無いでしょうから消される可能性も低い。加えて、彼女が上に行けばもしかしたらG弾運用ドクトリンを潰すことが出来るかもしれません。」

「でも、貴方に入れ知恵されたことが明るみに出たら…」

「可能性は0ではありませんが、低いでしょう。今回、彼女は予備戦力指定をしています。私と密に連携を取る事が少なかった分、上は怪しみません。寧ろ、彼女を予備戦力指定したのは上への当て付けだと取るでしょう。」

「…なるほど。」

「でも、貴女も同じように考えたんじゃないですか?わざわざフォード中尉を指名する辺り。」

「…降参よ。流石は"黒の策士"ね。」

「止してください。その呼び名、好きじゃないんですよ。」

「あら、ごめんなさい。でも言い得て妙ね。」
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia