Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
「それよりも…よりにもよって最適解が"ヴィクスン"に頼るだなんて…情けない限りです。」
「でも貴方はそれさえも利用しようとしている…喰えないわ。」
これが、ユウキとクリスが2人きりでする最後の会話となった。
◇◇◇
15分後。
キャシー自室。
キャシーはつい先程為された話を未だ理解しきれずにいた。
いや、頭では理解できていた。感情が追い付かないのだ。
―私達はアメリカにとって捨て駒。でも少佐は私達を生かそうとしている。同時にアメリカに反旗を翻すような指示を私達に出した…
元々キャシーはG弾について懐疑的であった。重力場を変動させ、ハイヴ及びBETAを掃討する。異星起源種を"叩く"だけならば確かにそれで良いかもしれない。しかし"叩いた"後はどうするのだろうか。重力場が元に戻る保証はない。BETAを駆逐出来ても、其処に人が住めなければ意味がないのだ。
しかしそれは忠誠を誓ったアメリカに対して反対することになる。
相容れない感情。どうしていいのか分からない。
挙げ句に少佐と大尉は自身の死を前提に物事を進めている。
そんな事が赦されていいのか。
堂々巡りの思考の末にふとクリスとの会話が思い出される。
―私はあの明るい街を守りたいわ。人々が笑って暮らしている世界を壊したくないもの。失ったものを取り戻すのは、大変なことだし。
―何かを守ろうとする意志は貴女をもっと強くするわよ。ゆっくりでいいから見つけてみなさい。貴女にしか守れないものを。
「あ、ああ…」
キャシーはクリスの真意に気付いた。
何かを守る強い決意。それさえあれば"自分の命さえ道具として扱える"。それが何かを守るために必要な"ピース"の一部ならば。
恐らくユウキも同じ考えなのだろう。
―どうして…どうしてそこまで強いの…?守りたい物があるから?分からない…分からないよ…
キャシーは再び涙を流す。だがそれと同時に1つだけ、心に決めたものがあった。
―ユウキやクリスの事ではもう泣かない。彼らに対して泣く事は彼らの誇りを無下にすることだから。
―私もいつか、何かを守るために闘う。貴方達のように…!
―夜が明けていく。
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia