Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
Gによって肺から押し出される酸素を噛み締めながらキャシーはオーダーを出す。
「マーメイドリーダーゆりインビジブル、マーメイド全機に告ぐッ!今から5秒間、BETAを後ろに流せっ!イントルーダーが吹っ飛ばしてくれるわッ!」
「「了解!」」
一瞬の空白。キャシーは素早く機体のステータスを確認した。
既に両足の電磁伸縮炭素帯は天に召され、機体の振動がもろにキャシーの身体を叩いている。右メインアームは小破、左メインアームはエラー無し。
HQからの通達によると、爆撃部隊が既に出撃しており、BETA群殲滅は時間の問題だった。
しかし同時に、キャシーの機体が戦闘不能になるのもまた時間との勝負だった。人間でいう所の全身骨格にヒビが入った状態である。加えて、弾倉も心許なくなりつつあった。
程無くして爆音が響く。イントルーダーが砲撃を開始したようだ。
「マーメイドリーダーよりインビジブル、マーメイド全機!後続を吹っ飛ばすわよ!」
「「了解!」」
爆撃機の出撃に加え、ジョーカー、スパイラルが決死の防衛ラインを敷いていたため、後続は次第に減少していった。
更に、光線級吶喊から帰還し、補給を済ませた部隊(と言っても5機であったが)も戦線に復帰し、BETA殲滅にあたった。
「HQより戦術機各機。爆撃機の第二波が出撃。ジュゴン中隊を除く戦術機部隊は直ちに帰投せよ。」
「「了解!」」
待ちわびた帰投命令。クリスがオーダーする。
「混乱を避けるために、インビジブル小隊、マーメイド小隊、ジョーカー中隊、スパイラル中隊、光線級吶喊部隊、ドルフィン中隊の順に帰投しなさい!」
「「了解!」」
先ずはラプターが帰投を始めた。しかし直ぐ様レインが異変に気付く。
「…1機…足りない…」
そう。帰投したラプターは3機。機影が足りないのだ。
「データリンク…帰投中のラプターは…01、02、04…」
キャシーがデータリンクを精査する。今回、ラプターは電子欺瞞を装着していたため、容易に捕捉する事が出来た。
「嘘…クレーが…死んだ…?」
呆然自失といった体のレイン。キャシーが声を掛けようとするが、セリーナに眼で制される。
―今はそっとしておいた方がいい。
そう眼で訴えかけていた。
タイミング良くか悪くか、クリスからマーメイド小隊の帰投命令が下る。
キャシー、セリーナ、フェミニ、レインの順に離脱をする。
思えば、キャシーはレインを看るために最後に離脱すればよかったのだ。しかし所詮は結果論。事が起きた時には総てが終わっていた。
「―きゃあっ!」
オープン回線に響くレインの悲鳴。マーメイド機がレインを見やると、戦車級が2体、レインのスーパーホーネットにむしりついていた。
先行していたキャシーには間に合わない。咄嗟にフェミニに向かって叫ぶ。
「フェミニ、戦車級を潰してッ!」
フェミニも、相手がレインでなければまだ冷静に対処できたのかもしれない。しかし現実は姉。実戦経験も少なく、まともな思考が出来なかった彼女は、36mmをレインのスーパーホーネットに浴びせていた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
「フェ、フェミニ!?」
半狂乱になりながら叫ぶフェミニに驚くセリーナ。
幸いにも36mmは直ぐに底を尽きた。フェミニは弾倉を変えようとする。が、セリーナの極精密射撃によってフェミニの機体の右腕をパージ。
その瞬間を狙ってキャシーはフェミニの一次操縦権を剥奪した。それと同時にレインのバイタルをチェックする。
―しかしチェックは出来なかった。
「レイン・ルコーニ少尉…バイタル…ロスト…」
「ドルフィン1よりマーメイド各機!行きなさいッ!彼女は後で拾うわッ!」
瞬間、クリスの怒声が飛ぶ。キャシーは慌てて了解、と言うと、フェミニの機体を自立制御モードに移し、帰投体制に入った。
「あ…う…うあっ…」
途中、幾度となくフェミニの声が聞こえたが、セリーナ、キャシー共々流すことにした。
唐突に秘匿回線がキャシーの元に入る。セリーナからだった。
「キャシー。レイン…もしかしたら…」
「…覚悟はしておいた方が良さそうね。」
幾ら36mmと言えど、同じ場所に当てられ続けたら搭乗者には一溜まりもない。間が悪いことに、戦車級はコックピットブロックにいた。必然、フェミニはコックピットブロックを狙撃し続けていた。
「…そうね。それに…フェミニも…」
「ええ…もしかしたらもう使い物にならなくなっているかもしれない。とにかく、帰投してみないことには何も分からないわ。」
「そうね…早く帰投しなきゃね…」
セリーナの声は幾分か沈んでいた。
暗鬱たる気分で3人の人魚達は帰路を辿った。
作戦終了後、クリス達はボロボロになりながらも無事に帰還した。
しかし、そこにレインの姿は無かった。
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia