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Muv-Luv Cruelty Mermaids 1

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3.Beginning



翌日09:00、イギリス軍ドーバー基地ブリーフィングルーム。

ブリーフィングルームは適度な緊張感が保たれていた。

「本日昼より作戦が決行されることが決まりました。これより我が派遣部隊に与えられた任務を説明します。」

ユウキの静かな声。ブリーフィングルームのメンバーの顔には緊張が見え隠れしている。マーメイド小隊の衛士も例外ではなかった。

「まずは水上艦隊による艦砲射撃、AL弾による光線級無力化を国連軍並びに東欧州社会主義同盟軍、我々アメリカ軍で展開します。次に強襲上陸部隊がカレー周域に強襲。我々の担当区域はダンケルク周辺です。この区域のBETAを間引きしてもらいます。これはイントルーダーが配備されているジュゴン中隊にお願いします。」

「了解!」

ジュゴン中隊の声が重なる。緊張の色が見て取れた。

「イントルーダーによる強襲終了後、戦術機及び艦砲射撃でイントルーダーを支援、獲得領地を維持、拡大します。この時、万が一打ち漏らした光線級の存在が確認された場合は、即座に光線級吶喊を行ってください。これはドルフィン、シーホース、マナティー中隊にお願いします。特にシーホース、マナティー中隊はフェニックスミサイルの光線級吶喊の可能性も念頭において行動して下さい。」

「了解です。」

「了解!」

中隊を代表してか、クリスのみが応える。余裕の表情だ。
一方、シーホース、マナティー中隊はやる気充分といった具合に唱和した。

「BETA第一波を掃討後、第二波に備え、陸軍部隊が全面展開します。この間、強襲部隊及び支援部隊は推進剤と弾薬の補給を行ってください。補給時は予備戦力が哨戒に当たります。部隊配置ですが、フロントは我々カイザー中隊及びフェニックス中隊、ライトにスパイラル中隊、レフトにジョーカー中隊が展開してください。予備戦力はインビジブル小隊、マーメイド小隊とします。作戦開始は5時間後。それまでに機体の整備を終わらせてください。」

「「「了解!」」」

全部隊が呼応したため、今までで一番大きいシンクロだった。
キャシーも応答したが、正直複雑な心境であった。

予備戦力は基本的に実力のある部隊が指定される。緊急時に縦横無尽に即戦力として投入するためだ。

反面、基本任務が待機もしくは哨戒だ。衛士としては退屈な任務である。
かと言って、出撃命令が出されたら遣り甲斐を感じることが出来るだろうが、それは作戦の危機を意味しているので素直に喜べない。

キャシーは同じく予備戦力指定を受けたインビジブル小隊を一瞥した。

インビジブル小隊の衛士達とは昨夜のパーティーで唯一の小隊同士として息があっていた。皆涼しい顔をしている。

―これがベテランとの差なのね…

無意識のうちにキャシーは拳を握りしめていた。




◇◇◇




ブリーフィング終了後。

「キャシー、何怖い顔してるのかしら?」

「いや、予備戦力指定なんて受けちゃったから、何か緊張しちゃって…」

まさか戦場で暴れたかったとは言えない。基地司令とも全員生きて返せと命令されている。むしろ小隊としては幸運と言える。

「そうね。でも本当は支援部隊に廻りたかったんじゃないのかしら?」

「…ッ!」

図星を指されて黙り込むキャシーにセリーナが優しく微笑む。

「仕方ないわ。それは貴女の性なの。残虐な人魚さんなんだから。」

「セリーナ!?」

「あら。やっと元気になってきたわね。」

「…」

セリーナは自分を勇気づけるために話を振ってきたのだ。

「そうね。私がこんなじゃみんなが不安になるわよね。ありがとう、セリーナ。」

「貴女はマーメイド小隊の隊長よ。もっと堂々としていなさい。」

セリーナの気遣いは母や姉が娘や妹を慈しむような温かさがあった。




◇◇◇




2時間後、格納庫。

マーメイド小隊は機体チェックのため強化装備で確認に当たっていた。

「フィードバックも…よし。」
キャシーが確認を終わらせ機体を出ると、他のメンバーは既に確認を終わらせ、キャシーを待っていた。

「結構かかったね?」

待ちくたびれたようにレインが切り出す。

「システム部分を念入りに見てたし。みんなはどう?」

「私は大丈夫でした。」

「同じく〜」

「問題なかったわ。」

「了解。じゃあ後は出撃を待つだけね。」

「…ちょっといいかしら?」

4人が確認を終えると、1人の女性衛士が声をかけてきた。

「あ…フィール。」

「そちらも確認が終わったみたいね?」

「ええ。」

「まだ出撃までには時間があるし、少し話さない?」

「いいわよ。」

「皆さんもどう?」

「是非参加させて?」

「もちろんよ。」

話しかけてきたのはラプター小隊―インビジブルズの小隊長、フィール・マクトニーだった。彼女とは昨夜のパーティで話をしていたため、小隊間での面識があった。

「ハンガーでっていうのも味気ないけど、仕方ないわね。」

困ったように笑うフィール。そうね、とキャシーも返した。程なくしてインビジブルズのメンバーも集まり、ちょっとした雑談が行われた。




◇◇◇




「さて、そろそろ私達は作戦の最終確認をするわ。続きは仮設基地で、ね?」

「ええ、楽しかったわフィール。また後でね。」

簡単に挨拶を済ませるとインビジブルズはその場を去っていく。

「私達も最終確認…って、レイン、何で顔が緩んでるのよ。」

「クレー…カッコよかった…」

「ちょっ、姉さん!?こんなとこで倒れないでよ!」

「あらあら。レインは恋の病かしら。」

「…何でもいいけど、作戦中に倒れないでよ?頼むから。」

呆れたようにいなすキャシーだったが、本音をきっちり混ぜた。

「もちろんよぉ〜」

そういう顔はまだ緩みっぱなしだ。

「…はぁ。とにかく、私達の任務を確認するわよ。まずは発艦待機。その後はシーホースとドルフィンの補給時の支援。支援終了後は即応体制で待機。いい?」

「「「了解!」」」

「じゃ、各自コックピットブロックにて待機。以上!」

「「「了解!」」」




◇◇◇




数分後、コックピットブロック内。

網膜投影によって写し出された情報を元にキャシーは情報整理を行っていた。

「真ん中が東欧州の連中、右翼が国連軍が展開…ね。にしてもおかしい…」

東欧州のブリッツが明らかに少ないのだ。東欧州の担当区域はカレー。今回の作戦の心臓部でもある区域を担うには貧弱と言える。

―私達は私達のプランがある。彼らには彼らのプランがあるのだろう。

そう気を取り直すとHQから通信が入った。

「HQよりオールアメリカンズ。只今より作戦を開始する。繰り返す。作戦を開始する。」

「始まる…」

1人呟くキャシー。
地球外生命体への反抗が始まった。



「艦砲射撃開始。」

HQからの情報にモニター画面を引き出す。出だしは良好のようだった。

「上陸予定区域内BETA漸減を確認。ジュゴンズは強襲準備せよ。」

強襲、強揚はスピード勝負となる。BETAのいないうちに上陸、次波に備えた臨戦体制を整えなければならない。
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia