Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
「上陸予定区域BETA全滅を確認。ジュゴンズは強揚せよ。」
まずは第一関門。ここが成功しなければ何ともならない。
「BETAは集団を形成中。規模予測は不能。ジュゴンズ、マナティーズは可能な限り早く任務完遂せよ。」
操縦桿を強く握りしめていることに気付いたキャシーは自嘲ぎみに笑った。
―修羅場なんて今までで何回も切り抜けてきたはずだというのに…
「…慣れないわね。」
「あら、キャシー?」
オープン回線に入り込んできたのはセリーナだった。
「セリーナ…驚かさないでよ。」
「我らの残虐な人魚隊長はどうしてるのか気になっちゃってね。」
「…成長してないわね。私も。」
小隊長となる前からセリーナはキャシーのメンタル面のフォローをしていた。
セリーナとしては克服したい事の1つだったが、セリーナは気にしない様子で話しかけてくる。
「そんな簡単に成長なんて出来ないわよ。一度コツをつかめば後は早いけどね。戦術機の操縦と同じよ。経験がモノを言うわ。」
「…セリーナもそうだったの?」
「もちろんよ。最初なんて泣きながら操縦桿を握っていたわ。」
「…意外ね。」
「そう?」
「ええ。何か最初から光線級吶喊とかしてたのかと思った。」
「キャシーじゃないんだからそんなことないわよ。」
「セリーナ…」
「あらあら。…そろそろね。」
「えっ?ああ、そうね。…ありがとう。」
「…またね。」
セリーナとの通信を切ると、一息。大分楽になれた気がしていた。
間もなくHQからの通信が入る。
「HQよりオールアメリカンズ。ジュゴンズが強揚。並びにドルフィンズ、シーホース、マナティーズが支援砲撃開始。」
まずは地上に上がれたようだ。今はドルフィンズ、シーホース、マナティーズがジュゴンズをサポートしつつ、支配域を拡大しているだろう。
キャシーは自分以上に緊張しているであろう仲間に通信を入れた。
「―フェミニ?」
「あ…中尉。」
「どう、調子は。」
「まぁ、なんとか。」
「やっぱ、緊張する?」
「…はい。」
「でしょうね。ついさっきまで私も緊張してたし。」
「…えっ?」
「意外だった?」
「はい。中尉はいつも堂々と闘っているので…意外です。」
「慣れないわ。何度経験しても。でもね…」
キャシーはフェミニに、そして自分に言い聞かせるように続けた。
「ゆっくりと慣らしていけばいいわ。それまで私達は貴女を守る。だから貴女も私達を信じなさい。」
「―はい!ありがとうございます!」
「よろしくね。」
そう言って通信を切る。
レインは恐らく大丈夫だろう。自分よりも度胸がある。簡単には物怖じしないだろう。
「―HQよりオールアメリカンズ。ジュゴンズ、ドルフィンズ、シーホース、マナティーズによる制圧完了。光線級の殲滅を確認。カイザーズ、フェニックス、スパイラルズ、ジョーカーズは上陸に備えよ。」
どうやら強揚部隊は成功を収めたようだ。
「HQよりインビジブル、マーメイドリーダーへ。強揚部隊が補給に入る。各小隊は指定座標へ向かい、哨戒及び前衛部隊が撃ち漏らした残存BETAを掃討せよ。。」
「インビジブル1了解。」
「マーメイド1了解。」
了解のユニゾンを終え、キャシーは仲間に通達をする。
「マーメイド1より小隊各機。これより強揚部隊の補給に伴い支援を開始する!―行くわよ!」
「「「了解!」」」
インビジブルズのラプター4機に続き、マーメイドのスーパーホーネットが戦艦カタパルトから射出され、死地を生地に変えるべく空を駆けていった。
◇◇◇
「うわ…すごい…」
凄惨な光景に思わず声を漏らすフェミニ。
「…これ、要塞級の顔?」
「そうね。にしても凄まじいわねぇ。」
「…ホントね。」
レインの声に賛同するセリーナ。それに追随するキャシー。
今彼女達の前には海の獣達に喰い尽くされたBETAの残骸が転がっていた。
「インビジブル1よりマーメイド1。そちらはどう?」
「…なんというか、圧巻ね。」
「そっちも?なら似たようなものなのね。これじゃ私達、必要ないんじゃないかしら?」
「ホントそうね。」
「ま、やるからにはきっちりやりましょう。後でね。」
通信を入れてきたのはフィール。脅威がないと踏んだのか、余裕の口調でキャシーと話をしていた。
キャシーも通信後、幾らかの残存BETAを撃破したものの、前衛部隊の撃ち漏らしも少なく暇を持て余していた。
また補給を行っていた部隊も戦線復帰し、キャシーの部隊はお役目御免となろうとしていた。
―あっけなかったわね。
しかし曲がりなりにも戦線に出張り生還する。これはやはり素晴らしいことだ。
程無くしてHQからの通信が入る。しかしそれはキャシーの予想しないものだった。
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia