二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

私に帰属せよ

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「……君は同性愛者か?」
「違う、僕はエイセクシャルだ。仕事と結婚している!」
「……この世界には、あの女はいないのか」
「『あの女』?」
「『あの女』」
「……」
「……」

 二人は見つめ合って、同時にそっと視線を外した。

「……くそっどうせいつもみたいに相手に騙されてるんだろう!」
「それには同意できないね。私の世界の親友の妻は、できた人だからな。本人には口が裂けても言わないが」

 シェリングフォードの言葉で、シャーロックはまるでたった今迷子になっていることに気付いた子供のような顔をした。そして慌てて彼の優秀な頭脳を回転させて、先ほどシェリングフォードがいっていた一つの言葉に追いすがった。

「それにさっき『大体どの世界でも』といったじゃないか。つまり全ての世界ではないんだろう!? なら僕のジョンは結婚しない! ずっと僕と221Bにいる!」
「ああ、一つの世界に一組、ホームズとワトソンがいるらしくてね。つまり君と私の関係は平行世界のホームズというわけだが――」
「そんなことは聞いていない!」
「わかっているとも。ホームズ君。確かに全ての世界のワトソンが221Bを出て行っているわけではない。現に腹立たしいことに、私にこの伝言ゲームを託したシェリングフォード氏の同居人は出て行っていないらしいからね。ああ、今でも彼の勝ち誇った笑みを思い浮かべることができるよ。やはり私も殴られるの覚悟でバリツで一発殴っておくべきだったか……」
「成程」

 シャーロックは、先ほどまでの取り乱したのが嘘のように落ち着いた様子を見せた。興奮で腰が浮きかかっていたのをしっかりと座らせると、余裕綽々といった様子でシェリングフォード氏に告げた。

「忠告有難うシェリングフォード。結論は出た。ジョンは結婚しないし、僕らの221Bを出ていかない」
「……私も不安に思っていたことは事実だが、最終的に君と同じようなことをいった。その結果がこれだよ、ホームズ君。彼は私に結婚したい女性がいるから紹介したいといってきた。私は様々な予定をたてて彼女と会うことを避けたが、結局会ってしまったよ。そして彼は、221Bを出て行った。聞いてくれホームズ君。この前は彼の結婚式だったんだ。僕は彼のバッチェラー・パーティを主宰し、次の日結婚式まで彼を送り届け、新郎付添人として務めを果たした。花嫁と腕を組んだ彼はとても幸せそうだったよ。そしてそのすぐ後、私と彼を巻き込んだ事件が起きて、渋る彼を僕に付き合わせる最後の事件だと言い募ってようやく一緒に事件を追えるようになったんだ。……けれど、その事件も終わってしまった今、完全に僕と彼の間の探偵とその助手といった間柄は切れてしまっただろうな」
「それは君の助手の話だろう。僕の助手は違う。彼は出ていかない。僕の隣にいる」
「そうかもしれない。しかし、そうじゃないときのためにも心の準備をと」
「ジョンは結婚しない!」

 そう叫ぶと、彼はソファーの方に移動して、膝を抱えてシェリングフォードに背を向けた。あからさまに拗ねて会話を拒否したシャーロックの姿に、シェリングフォードは呆れて物もいえない、といったようにため息をついたが、もし彼の相棒がここにいたら、「自分も同じようなものだろう」といって小突かれるだろう。

「仕方がない。ここまではしたくなかったんだが」
「セリフが完全に悪役だぞヴィクトリア朝のコンサルト探偵」
「私は『諮問』探偵だ。……ここまで拒否しているということは、逆に言えば彼の親友がいなくなってしまうの想像してその上でショックを受けているともいえるんだから、私の言葉を受け入れているともいえるのではないか?」
「違う! 受け入れていない! しつこいぞシェリングフォード、何度もいっているだろう、ジョンは結婚しないし221Bを出ていかない! 女ではなく僕を選ぶ!」

 言いたいことだけ言ってまたくるりと向こうを向いてしまったシャーロックを見て、今度こそシェリングフォードは決意を込めて彼の背中を見つめた。

「じゃあやっぱり、体験してもらうしかないな」
「何をするつもりだ」
「次のシャーロック・ホームズによろしく、未来のコンサルト探偵」

 シャーロックの言葉に答えず、彼はニコリと笑ってパチン、と指を鳴らした。
 瞬間、シャーロックの姿が泡になって掻き消えた。それと同時にシェリングフォードの姿も泡になって消えていく。
 シェリングフォードは――シャーロック・ホームズは微笑みを浮かべながら、目を伏せた。

「さあ、ワトソン君、私も今から帰るよ。私たちのロンドンに……」


作品名:私に帰属せよ 作家名:草葉恭狸