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私に帰属せよ

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 気が付くと、シャーロックは夜のプールサイドに、銃を持って立っていた。
 そして目の前にはジョンから離された爆弾と、その向こうにモリアーティがいる。この場面は知っているぞ、とシャーロックは知らず笑みを浮かべた。あの日、ここで自分はジョンを見る。彼は無言で微かに頷き、そうして自分は今モリアーティにつきつけている銃を爆弾に向け、三人で心中を図るのだ。
 だからシャーロックは、記憶通りに、ジョンに視線を向けた。
 そして、ジョンは、いった。

「ごめん、シャーロック。僕は君としねない」

 シャーロックは唖然とした。いや、生きたいと願うのは人間の性だ。これが普通だ。しかし以前はジョンは頷いた。頷いてくれたのだ。じゃあ一体以前のうなずいた時と一体何が違うというのだろうか?
 ジョンは照れたように笑った。

「奥さんと、君が名付け親になってくれた子どもが待ってるしね」

 三度シャーロックは言葉を失った。

「え、なんだいシャーロック、その顔。前にもし僕に子供が生まれたら、シェリングフォードにするようにっていってたじゃないか」
「……ジョン、それは、初めて聞いたぞ」
「え? まだいってなかったっけ? ……あ、そうか! いおうと思った朝にあのベーカー街での爆発が起こって一気にそれどころじゃなくなったんだった。よし、改めて報告するよシャーロック。子どもができたんだ。今妊娠一か月だって」
「……僕らの?」
「何を言ってるんだ僕とミセスワトソンのに決まってるだろう」
「なんだって! おめでとうジョニーボーイ! もし双子だったらジェームズって名前をつけてもいいよ!」
「有難う!却下だ! ……そう、だからここで一緒にしねないんだ、シャーロック。本当にすまない」

 ジョンは立ち上がって、申し訳なさそうな顔をして、真摯にシャーロックに謝罪した。シャーロックの頭はもう、言語機能が反射的に返事しているだけにとどまっている。およそまともな反応をしないシャーロックに肩をすくめて、ジョンはモリアーティに向き合った。

「で、モリアーティ。そういうわけなんだけれど、僕だけ帰るわけにはいかないかな?」
「いいよ! いつもならそんなわけないだろうっていうんだけれど、楽しいものが見れたしね! 僕に名付け親になってほしかったらいつでもいってよ!」
「いうわけないだろう。有難う。じゃあねシャーロック。生きて帰ってこいよ」

 もはや反射的に浮かぶ言葉さえ思い浮かばない。ジョンは普通に歩いて帰ってしまった。彼の妻と、そして彼の子供の待つ家へ。一体どこだ。確実に221Bではないだろう。シャーロックは銃を持ちながら呆然とする。今例え記憶通りにモリアーティの携帯に電話がかかってきて、自分から銃口が外されて、221Bに帰ったとしてもそこにジョンはいないのだ。いや、今までと同じじゃないか。ライヘンバッハ事件以降、ジョンがいなかった生活と同じだ。今までと同じくジョンと何度も呼んでしまって、彼の遅いキーボードをたたく音や下手な鼻歌が聞こえなくて、そのたびに現実に打ちひしがれるのだ。モリアーティがプールに響き渡るぐらいに腹を抱えて笑っている。すごく面白いものが見れた、ありがとう、今なら死んでもいいなあ。さぁ、そこの爆弾を撃っちゃってよ。僕と心中しよう! 一体何がそんなにおもしろいんだそして誰がお前なんかと心中したいと思うんだ。だって彼はいつでも僕を優先してくれたじゃないか。彼がデートのときも、事件が起きたとあったらそっちを優先して、事件現場に駆けつけていたのはジョン自身だ。でも今回は違う。彼には家族が、守るべきものができた。彼はここではしねないのだ。僕と一緒に滝壺に落ちてはくれないのだ。もちろんその方がいい。彼が生きてくれる方がいいに決まっている。それなのに何故こんなにも僕は打ちひしがれているんだ。どうしてこんなにも動揺しているんだ。なんで彼が一緒にしんでくれるものと思っていたのだ。それは、だって、彼が僕の親友だからだ。しかし彼は今でも僕の親友で、それでも同時に夫で一児の父になったのだ。彼はしぬわけにはいかないのだ。そう思えば思うほど、彼は途方に暮れた。目の前でまだモリアーティが笑っている。笑い声と思考が頭と目玉の中でぐるぐる回る。シャーロックは、持っていた銃を、


作品名:私に帰属せよ 作家名:草葉恭狸