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寂しがり屋なうさぎさん

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『寂しがり屋なうさぎさん』



音無の部屋に着いて音無をベッドに座らせると俺も隣に座った。

「それで?どうしたんですかね、音無サンは」

「記憶が…戻ったんだ…」

「っ!」

突然告げられたそれになんて返そうか迷った。良い事…なのかもしれないが素直に喜べはしない。この世界に集まる俺達を見れば分かることだ。

「覚悟はしてけど…結構キツイよな…」

「音無…」

どんな前世だったか、なんて聞けない。今の音無を見て胸が苦しくなった。

「元気出せとは言わないけど、辛くなったら言えよ?俺はいつでも音無の味方だからな」

「…日向なら、」

「ん?」

「日向ならそう言ってくれるんじゃないかって思ったから日向のところに行ったんだ。」

「いや、来るのは構わないけどいきなり抱き付かれるのはちょっと…」

「あっ…悪い。日向の顔を見たらつい…気づいたら身体が自然と動いてた」

「自然と、って…お前まさか前世がコレだったとか言わないよな…」

「ばか、違うよ。日向の顔見たら安心したっつーかさ」

「はいはい。俺は信頼されてるな」

そう言ってにっこり笑うと音無は微笑んで再び抱き付いてきた。なんか子供みたいで可愛く思えてきた。

「よしよし、俺がお前の過去も何もかも受け止めてやんよ」

「…なんか、日向ってお母さんみたいだな」

「俺はお前の保護者じゃねっつーの」

「なんだろうな。さっきまで辛くて悲しくて仕方なかったのに、日向の顔見たら落ち着いた。日向って凄いな」

「俺はなんもしてねーよ」

背中をさすってやり、出来るだけ優しい声で応える。こんな弱った音無はそう簡単に見る事はない。なんだか自分が音無の特別みたいで嬉しかった。

「ごめんな音無。話は大体ゆりっぺから聞いてた。でも俺にはどうしようもないんだ。これはお前自身の問題で俺がどうこう言えるもんじゃない。」

「…」

「自分の過去は自分自身で受け入れなくちゃいけない。そしてその結果からお前がどっちの道を選んでも俺はお前を責めたりはしない。だって俺達親友だろ?」

「日向…」

「でもこれだけは言っておく。お前は良い奴だよ。だからあまり自分を非難するなよ?親友の俺が言うんだから間違いない」

「ははっ、サンキュ」

「直井みたいにお前は人の心を強く動かす力があるんだ。それってさ、真似しようとしても簡単には出来ない事だと思う。お前はすげー奴だよ」

目を瞑ると音無と出会った時から今までのことが走馬灯のように蘇ってきた。俺達はいつでも一緒に居た。まぁ半分は俺が勝手に世話焼いてたのが多いけど、最近では音無から俺を呼び止める事が多くなったし今だってこうして俺を頼ってくれてる。

「日向って頭弱そうな顔してちゃんと周りを見てるよな」

「うわひっで、人がせっかく慰めてやってんのに」

「冗談だよ。…日向は優しいよな。その名前の通り、暖かくてホッとする。多分お前が居るから、俺は今自分の前世を受け入れられてるんだと思う」

「そっか、お前の役に立ててるなら嬉しいよ」

「なぁ…日向」

「んー?」

「なんか俺泣き疲れた…このまま肩貸してくれないか…?」

「ん、いいぜ。俺の肩で良かったら貸してやんよ。ゆっくり休めよ、なんかあったら起こしてやっから」

「ん…やっぱり…日向は優し…な…」

音無の声が途切れた時、落ち着いた寝息が聞こえてきた。

「…おやすみ、結弦」


作品名:寂しがり屋なうさぎさん 作家名:静香