二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Wizard//Magica Wish −10−

INDEX|5ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 


「あぁ~腹減った…」
「さっきお菓子食べてたのに、まだお腹空いてるの?」
「ば~か、お菓子は別腹、あたしは朝食が食べたいんだ」

街中を歩いていると杏子ちゃんが何度も大きな空腹音を鳴らせてお腹を空かせた事をやたらと強調してきた。残念ながら今はお互い持ち合わせがあまりなく、いつもみたいにコンビニで買い食いをするという行為ができなかった。何か食べるにはマンションに帰るしか方法はない。だからといって盗むという行為をするわけにはいかない。

「お腹すいた~、ハルト、マミの家まであたしを担いでくれ」
「何言ってるの、人の目をもっと気にしなよ」
「別にどうでも良いよ、そんなこと」
「そ、そんなことって…」

杏子ちゃんだって女の子だ。しかも歳は俺とさほど変わらない。普通の人なら絶対に考えない事を考えてしまうのが杏子ちゃんの特徴だ。
「あともうちょっとで着くから我慢しなよ」
「あぁ…はぁ」
普段とは打って変わってしょんぼりしながら猫背気味で道を歩く。ここまで感情豊かな人物を見るのは嫌いじゃない。本当に犬みたいだ。大きなポニーテールがたまに尻尾に見えてしまう。
そんな中、ふと俺の目に露店が映った。たい焼き屋だ。もちろん、杏子ちゃんも露店を凝視する。

「な、なぁハルト。お前本当にお金無いのか?」
「…と、言われてもなぁ。あれ?」
ポケットを探る。すると硬い円型の固形物が人差指に引っかかった。銀色の円形、100円玉だ。
「あ、百円あった」
「おお!!でかしたぞハルト!たい焼き一個買えるじゃねぇか!!」
金額を見ると…一個百円、なんという偶然だろうか。杏子ちゃんは俺の手に持つ百円を取り、一目散に露店に向かっていった。俺は呆れ気味にため息をしながら、近くにあったベンチに座った。

「ふぅ…魔力を使いすぎたかな」

身体がやけに重く感じる。最近、やけに眠る回数が増えている気がした。気がつけば寝ていた…なんて今じゃ当たり前になっている。今日の早朝だってそうだ。魔女が近くに来ていたことにすら気づかなかったのだから。どうやら、インキュベーターの言っていたことが次第に現実になってきているみたいだ。このまま俺は戦い続ければ、消化しきれない穢れが俺という個体に収まりきらなくなり…最後は…。

「魔女化…か」

あの時、語られた死刑宣告のような一言。あの言葉だけがずっと自分の心の奥に引っかかっていた。もちろん、打開策なんてものはない。あるとすれば、これ以上の魔法の使用やウィザードリングの生成をやめること。無論、そんな気は一切ない。俺は戦うことに誇りを持っている。一人でも多く、魔法少女を救うために…。

「いずれその時が来たのなら…覚悟はできてる。その時は、自分の命は、自分の手で…ん?」


『みゃぁ~』
『み~み~』

「ねこ…可愛い!」

自分の視線の先に、白と黒の子猫の背中を触っている女の子が目に映った。緑色のロングスカートにその服に合わせたかのような緑色の髪、ツインテール?いや、ちょっと違うな。背丈を見る限り、小学校低学年程度の女の子だ。親が近くにいないのか、一人で野良猫と戯れていた。全く、まだ物心もつかない自分の子供をよく一人に出来るものだ…。

『み~み~』
「猫、飼い主いないの?」
『みゃぁ~』
「そうなんだ!じゃあ ゆま が親になってあげる!」

「ははっ…ちょっと違くない?」
ゆま、という少女に俺は小声で軽くツッコミを入れる。まぁあの子の歳ならそのぐらいの発想は当たり前だろう。俺は目の前にいる少女に興味を持ち、そのまま観察することにした。

「ほら、えっと…あ!キャンディ!」
『みゃぁ~』
「いらない?美味しいよ、なんで?」
『みぃ~』
「ゆま はもう何も食べ物持ってないよ?」

ゆまちゃんは必死にポケットを探るが、本当に飴玉しか持っていないらしい。あの子猫達の様子を見る限り、どうやらお腹を空かせているみたいだ。そんな時、茂みの中から大きな白と黒が混じった猫がやってきた。…見た感じ、あの子猫達の親みたいだ。
『みぃ~!』
『みゃぁ~!!』
「え、なに!なになに!?」
親猫は口元にどこかのゴミ捨て場からくすねてきた魚の骨を加えている。きっと、お腹を空かせた子猫達の為に食べ物を探しにいっていたのだろう。ところが ゆまちゃんはその親猫が別の野良猫と勘違いしたらしく、警戒し始めてしまった。
「しっし!あっちいって!!しゃ、しゃぁ~!!」
『シャーっ!!』
「ひっ!しゃぁ~!!きぃ~!!」
変な威嚇声を上げながら子猫達を守るように抵抗する。もちろん親猫も負けじと ゆまちゃんに威嚇していた。

『みゃぁ~!』
「あ、猫!」
二匹の子猫は ゆまちゃんの足をすり抜け親猫にすがり寄った。そのまま猫達は離れることなく、そそくさと茂みの中へ消えていった。ゆまちゃんは残念がりながらずっとその後ろ姿を凝視していた。

「お母さんだったんだ。はぁ…」
「親猫を威嚇しちゃ危ないよ?」
「え?んん?」

しょんぼりしていた ゆまちゃんに俺は自然と話しかけてしまった。ゆまちゃんの透き通った綺麗な緑色の瞳が俺を不思議そうに見つめていた。
「俺の名前は操真 ハルト、君の名前は?」
「えっと、ゆま!千歳ゆま!ねぇハルト、猫にお母さんいた!」
「残念だったね ゆまちゃん。あの子猫達は親猫と一緒にいるほうが良かったみたいだね」
ゆまちゃんを慰めるように俺は頭を撫でてあげた。くすぐったかったらしく、目を閉じながら気持ちよさそうな表情をする。

「猫はお腹空かせてたからお母さんのとこにいっちゃったの?」
「まぁ、そうかもしれないね」
「お母さんと一緒にいたほうが幸せ?」
「そりゃまぁ…うん、そうだと思うよ」

一瞬、ゆまちゃんは悲しげな表情をしながらうつむいてしまった。けどその時、ゆまちゃんのお腹から可愛い空腹音が聞こえてきた。どうやら、ゆまちゃんもお腹を空かせているみたいだった。

「むぅ…お腹空いた」
「さっき飴玉を子猫にあげようとしていたよね?もう子猫達はいないし、食べちゃえば良いじゃん」
「でもこの飴を食べるために戻ってくるかもしれない!」
「いや、それはどうかな…ははっ」


「へへっ美味そうだな!お、ハルト!どうしたんだっ…て、なんだそいつ?」
タイミング良く、杏子ちゃんがたい焼きを一つ片手に持ちながら帰ってきた。ゆまちゃんはまた一人見知らぬ人を見て身体がビクついていた。

「この子は ゆまちゃん。ついさっき出会ったばかりだよ」
「ハルト、この人だれ?」
「この女の子は杏子ちゃん、俺の友達だよ」
「キョーコ?」
−ぐぅ~−
「うぅ…」

「っ!お前、お腹を…」
また、ゆまちゃんのお腹から空腹音が聞こえてくる。それを聞いた杏子ちゃんは ゆまちゃんの目線まで腰を下ろし、何のためらいも無くたい焼きを差し出した。
「ほら、ゆま!お腹空いているんだろ?」
「キョーコ、良いの!?それもらって良いの!?」
「あぁ!ほら、冷めないうちに食べろよ!」
「わぁぁ!ありがとうキョーコ!」
ゆまちゃんは杏子ちゃんから差し出されたたい焼きを手に取り、がっつき始めた。それほどお腹を空かせていたのだろう。

「へぇ~、たまには良いとこあるんじゃない」
作品名:Wizard//Magica Wish −10− 作家名:a-o-w