Wizard//Magica Wish −10−
「それで、…連れて帰ってきちゃったの!?」
「はぁ…あなたたち、それを世間でなんて言われているか知ってる?見知らぬ子供を連れて帰ることを、『誘拐』っていうのよ」
「しょ、しょうがねぇじゃないか!慌てていたんだから…」
「身寄りがないなんて…予想外過ぎるよ」
「ねぇねぇハルト!キョーコ!次は何して遊ぶ!?ゆま はおままごとしたい!」
結局、あのあと ゆまちゃんをそのまま連れ帰ってきてしまった。今思えばなんてバカなことをしてしまったのだろうか。あの時警察に連絡して身元を確認すればよかった。しかし下手に警察の元に行けば今度は自分達の身元確認をされてしまう。杏子ちゃんはともかく、俺の素性を知られてしまうのはあまり都合が良くなかった。
「ゆまちゃん、あなたはどこから来たの?」
「えっとね、こじいん!」
「孤児院…あ、町外れにある孤児院のことかな、ほむらちゃん」
「そうね。見滝原には孤児院は一つしかないわ…けどここからかなり距離があるわよ」
既に日が暮れかかっている。今から ゆまちゃんを俺たちだけで孤児院に送るのは色々と危険だろう。魔法は使えてもそんなにほいほいと使うものではない。それとも孤児院の人にここまできてもらうか…。
「ゆまちゃん、孤児院の電話番号知ってる?」
「うぅん、知らない」
「そっか…ほむらちゃん」
「えぇ、もう調べたわ。今から言う番号にかけて頂戴」
携帯を まどかちゃんから借りて ほむらちゃんに言われた番号を打っていく。すると ゆまちゃんは不安げな表情をしながら俺の上着を引っ張ってきた。
「ハルト、何してるの?」
「ゆまちゃんが居た孤児院の人に迎えにきてもらうんだよ、ちょっと待っててね…」
「やだ!帰りたくない!」
「え、ちょっと!」
「ぜったいに帰りたくない!やだやだ!」
ゆまちゃんは必死に俺にしがみついてきた。だが、ゆまちゃんの反応はなんというか、あまりにも大きすぎる。まだ遊び足りないから帰りたいなんて生易しい感じではない。本当に帰りたくないみたいだ。すると杏子ちゃんはそんな ゆまちゃんの必死さにいち早く気がついたみたいだ。
「どうしたんだ、ゆま。そんなに帰りたくないのか?」
「だって、あそこに帰ったら…」
「…っ…もしかして、虐められたりされているのか?」
「…うん」
「え…」
杏子ちゃんは ゆまちゃんの表情を見ただけで何を考えていたのか悟ったらしい。別に魔法を使っていたわけではない。俺が驚いたのは、一発で ゆまちゃんの悩みを見つけだした杏子ちゃんの感の良さだ。何故解ったのだろうか?
「そっか…なら、ちょっとの間、ここにいろよ!」
「え?キョーコ、良いの?」
「ちょっ…佐倉杏子!」
「まぁまぁ固いこと言うなよ ほむら!」
(流石に警察事になってきたらなんとかするからさ、ちょっとの間だけ良いだろ?)
「…はぁ…」
(全く、…何があっても私は知らないわよ?)
「やったぁ!まどか、キョーコがここに居てもいいって!」
「え、えと、よかったね?ゆまちゃん!」
「ねぇ杏子ちゃん」
「なんだ、ハルト?」
「杏子ちゃんはさ、さっきなんで ゆまちゃんが孤児院で虐められてるってわかったの?」
「あぁ~あれか、いやほとんど感みたいなものだったんだけどさ、…昔、妹が男の子に虐められていたのを隠していたときの仕草がそっくりでさ、なんとなくわかったんだよ」
「そうだったんだ…」
「なんか ゆまを見てると昔を思い出すんだよ。なんか一つ一つの仕草や行動が妹そっくりで…へへっ何言ってるんだろ、あたし」
杏子ちゃんは、いつの間にか ゆまちゃんの姿と、かつて昔は傍にいた妹の姿を照らし合わせていたらしい。彼女は ゆまちゃんと まどかちゃんが戯れている姿を見つめる。どこか、遠くを見ている目だった。
・・・
「じゃあ私達は一旦家に帰るね!」
「まどかは私が送っていくわ」
「また明日な!まどか、ほむら!」
「まどか!ほむら!ばいばい!!」
まどかちゃんと ほむらちゃんは学校帰りの為、家へと帰宅していった。ここには俺と杏子ちゃん、そして ゆまちゃんと眠っているマミちゃんの4人だけだ。そろそろ夕食の時間なので見送りを終えた俺はそのままキッチンに直行し慣れない手つきで夕食を作り始める。
「ハルト、何を作っているの?」
「ん?今日は炒飯とキャベツの千切りだよ」
「すごい!ハルト、ご飯作れるんだ!!」
「まぁ人並み以下の腕前だけどね…ははっ」
玉ねぎやピーマンを細かく刻み、フライパンに火をかける。ゆまちゃんはそんな俺の姿が珍しかったのか、目を輝かせながらじ~っと調理を観察していた。
「卵は…おっと危ね、今日が消費期限だった」
「じ~っ…」
「塩コショウは…これぐらいかな?」
「じ~っ…」
「あの、ゆまちゃん…そんなに見られちゃ調理しづらいんだけど…」
あまりにも真剣に見てくるものだから少々調理に抵抗があった。何度も説明するが俺はそこまで料理は得意ではない。他人に見せられる腕前ではないのだ。
ゆまちゃんの頭を軽く撫でながら俺は全ての素材を一度にフライパンの中に一気に突っ込み軽く炒める。そのまま3つの皿に出来上がった炒飯を盛りリビングへと運んでいった。杏子ちゃんはソファに寝っころがり、あくびをかいていた。
「ふあぁ…お、ハルト。できたか?」
「今日は上手くできたよ。ほら ゆまちゃん、そこに座って」
「ここ?」
「うん、スプーンと箸持ってくるからもうちょっと待ってて」
かつて、マミちゃんがよく座っていた場所に ゆまちゃんを座らせ、俺は駆け足気味に3人分のスプーンと箸を準備する。最後に俺が座り、ようやく夕食にありつけた。
「いただきます…はむっ…美味しい!ハルト、今日も美味しいぞ!」
「ありがとう、杏子ちゃん…うん、昨日よりはマシかな」
「美味しい!!ハルト、すごい!!」
ゆまちゃんは感動しながら俺の作った炒飯を休むことなく口の中へと運んでいた。ぽろぽろこぼしたご飯粒を杏子ちゃんがやれやれ…と全てティッシュで回収する。
「おい ゆま。ご飯はもっと綺麗に食べろよ?」
「ん、なんで?」
「このご飯粒一つは農家の人がたっくさんの汗をかいて苦労してできた一粒なんだぞ?だから残さず綺麗にたべろよな?」
「わかった!」
「ぷふっ…おほん」
思わず声を出して笑ってしまった。なんだかこうして見ると本当の姉妹のようだ。ゆまちゃんは杏子ちゃんが言った意味を理解したのかどうかはわからないが、言われた通りに丁寧に口の中へと運ぶようになっていた。
綺麗に食べられた後の皿が3つ、俺は全て回収しそのまま綺麗に洗い始めた。杏子ちゃんと ゆまちゃんはじゃれあっているのか楽しそうな声が俺の耳に聞こえてくる。洗った皿を今度は付近で水気を拭き取り食器棚の中へとしまった。
「ゆま、今日はあたしと風呂入ろっか」
「うん!キョーコとお風呂入る!」
「杏子ちゃん、バスタオルは洗面台に置いておいたから」
「わかった、さて、行こっか」
「はぁい!」
二人はそのままバスルームの中へと入っていき、俺はソファに座って一息ついた。シャワーの音がリビングまで響く。
「ふぅ…疲れた…あれ…」
作品名:Wizard//Magica Wish −10− 作家名:a-o-w