機動戦士ガンダムRS 第20話 穏やかな日々
ザラ大統領の言葉では、対話をしたいもののこの状況では不可能だということだ。
「確かに。
ザラ大統領の言っていることは、正しいさ。
反対するクライン副大統領の方が分からない」
ユーリ議員は、ザラ大統領の言葉に賛同した。
「クライン副大統領は、早くに妻に先立たれたから反対できるのだろう」
ユーリ議員は、そういいながら部屋を出て行った。
ニコルもテレビの電源を消し後に続いた。
「車が来ましたわ」
エレベーター前にロミナがたっていた。
「G兵器開発計画。
何としても早急に可決させねば。
ザラ大統領の言うとおり我々には、ダラダラと戦争などをしている暇はないのだ」
G開発計画は、ハルバートン大佐が推奨している新型モビルスーツ開発計画である。
しかしクライン派の反対で今まで可決されなかった。
「ハルバートン大佐もそうおっしゃっていたのを聞いたことがあります」
ニコルは、ハルバートン大佐の訓示で似たようなことを聞いたことがあった。
「可決されればお前は、行くのだな。
すまないと思う」
ユーリ議員の気持ちは、議員としての心情と父親としての心情の板ばさみ状態だった。
「いえ」
ニコルは、なんとも思っていなかった。
「お前を誇りに思うよ。
家にいる間は、ゆっくりと好きなことをしなさい」
それがユーリ議員が息子にできる最大限の思いやりだった。
「はい」
ニコルが返事をした。
「下までお送りしてくるわね」
ロミナがユーリ議員の後にエレベーターに乗りドアが閉まった。
ニコルは、2人を見送ると自室に入りピアノの前に座った。
そしてピアノを弾き始めた。
戻ってきたロミナがピアノを聴いた。
ニコルは、プロのピアニストであり将来はその道を期待されていたがコペルニクスの悲劇で祖国と同胞を守らねばならぬという純粋な義務感から地球軍への入隊を選んだ。
ユーリ議員は、車に乗り込みホワイトハウスに向かった。
※
ホワイトハウスには、続々と有力議員が集まってきた。
※
ホワイトハウスの1室では、一足早く着たザラ大統領が公開するナチュラルが行ったテロの映像の最終チェックをしていた。
「そんなものを見せて刷り込みでもしようと言うのかね」
そこにクライン副大統領が入ってきた。
「正確な情報を提示したいだけですよ」
そこには、うそ偽りの加工など確かにされていなかった。
「正確に君の選んだ情報をか?
君の提出案件であるG開発計画といくつかの案件は、本日可決されるだろう。
世論も傾いている。
もはや止める術は、ない」
クライン副大統領も反対したところで否決は、不可能だろうと感じていた。
「我々は総意で動いているのです、シーゲル。
それを忘れないでいただきたい」
ザラ大統領は、まるで独裁者呼ばわりするクライン副大統領の言い方が気に入らなかった。
「戦火が広がればその分憎しみは、増すぞ。
どこまで行こうと言うのかね、君達は」
クライン副大統領は、どこまでお互いを食い合うのかわからなかった。
「そうさせない為にも早期終結を目指せねばならんのです。
この戦争は、レノアのためにも勝って終わらねば意味がない」
ザラ大統領は、モニターを消し部屋の電気をつけた。
「やつらは、私からレノアを奪った。
そんなやつと貴様は、信じて対話をしろと?」
ザラ大統領は、レノアの復讐以外頭にはなかった。
「お前には、早急にやらなければならないことがあるだろ?
婚姻統制を敷いてみても第3世代の出生率は、下がる一方なのだぞ?」
現在コーディネーターの出生率は、下がる一方だった。
「それなら問題は、ない。
コーディネーターの英知は、そんな問題などすぐに解決するだろう」
ザラ大統領は、出生率低下にさほど危険性を感じていなかった。
「パトリック。
命は、生まれいづるものだ。
作り出すものでは、ない」
クライン副大統領は、あくまでコーディネーターも人類の1種であるにすぎないと考えていた。
「そんな概念や価値観こそがもはや時代遅れと知られよ。
人は、進む。
常により良き明日を求めて」
ザラ大統領は、クライン副大統領の考え方を時代遅れと一蹴した。
「そればかりが幸福か」
クライン副大統領は、前に進むだけが幸福か疑問だった。
「ザラ大統領、お時間です。
議場へお越し下さい」
会議の時間を知らせる案内が聞こえた。
「これは総意なのです、クライン副大統領。
我等は、もう今持つ力を捨てナチュラルへ回帰することなどできないのですよ」
ザラ大統領は、そういうと部屋を出た。
「我等は進化したのではないぞ、パトリック」
クライン副大統領は、コーディネーターもナチュラルもそう変わらないと感じていた。
議会では、軍の方針が話し合わされようとしていた。
「これより最高評議会提出案件について協議を始める。
各委員方には、十分に論じられた上での採決を。
では、案件1。
G兵器開発計画承認について」
ユーリ議員が仕切った。
※
クルーゼは、自宅でシャワーを浴びていた。
そして浴び終わり自室に戻ると電話が鳴った。
電話に出るとザラ大統領だった。
「これは、ザラ大統領。
このお時間では、まだ評議会の最中では?」
クルーゼは、時計を見てそういった。
「こちらの案件は、通った。
まだ2、3あるが。
終わったら夜にでもハルバートン大佐を交えて細かい話がしたい。
どうかね?」
ザラ大統領から食事に誘われた。
「分かりました。
お伺い致します」
クルーゼは、快く快諾した。
「我等が本気になればやつらを絶滅させることなどたやすい」
ザラ大統領は、本心をあらわにし電話を切った。
※
アスランは、ガウンを羽織り帰る仕度をした。
「残念ですわ。
夕食をご一緒下さればよろしいに」
ラクスは、残念そうに言った。
「すみません」
アスランは、謝った。
アスランもまた食事をできればしたかった。
「議会が終われば父も戻ります。
貴方にもお会いしたいと申しておりましたのよ」
婚約相手の父であるシーゲル・クライン副大統領にも会いたいところでは、あるがそうもいかなかった。
「やることもいろいろありまして。
軍には、いろいろやるべきことがありますから」
アスランもまだ地球とコロニーが戦争を行うとは、思ってもみなかった。
「そうですか。
では、仕方ありませんわね」
ラクスは、うつむき残念そうに言った。
「時間が取れればまた伺いますので」
アスランは、あわててまた会う約束をした。
「本当に?
お待ちしておりますわ」
ラクスは、打って変わってうれしそうに言った。
アスランは、そのうれしそうな笑顔を見せるラクスを素直にかわいいと思った。
2人は、別れ際にキスをした。
「では、おやすみなさい」
アスランは、そういって玄関を開けて外に出た。
「おやすみなさい」
ラクスもそういった。
「大変そうですわね、アスランも」
ピンク色のハロを手に取るとラクスは、そういった。
※
作品名:機動戦士ガンダムRS 第20話 穏やかな日々 作家名:久世秀一