二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

LOST ③ 前編

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「一言多いぞ!!残念でした~!今日は木手に用事があって来た訳じゃないやっし~」
「ああ、そう」
 片手を腰に当てて、もう片方は木手へと指を突きつけてくる。靴を脱ぎ終えた木手は、その指を払うようにして甲斐の横を素通りした。軽くあしらわれた甲斐は、慌てた様に後ろをついてきた。
「木手~、怒った~?」
「怒る?どうして、そうなるのですか?」
 心底不思議そうな声で聞いてきた木手に、甲斐はどこか言い面そうな困った表情を浮かべた。
「えー……、木手に用事がないって言ったからさ~」
「別に、そんな理由で怒りません。それより、用事が済んだら寄り道せず真っ直ぐ帰りなさいよ。迷子になっても迎えに行きませんから」
「あー!また馬鹿にした!!」
 呆れたような視線を向ければ、頬を膨らませて怒る甲斐の表情が見て取れた。今も昔も相変わらず手のかかる幼馴染は、いくら注意しても直す気配を見せないから、もうずっと昔に木手の方が諦めていた。それでも、口うるさく注意するのは余計に悪化させない為でもある。放っておけば許されていると勘違いして、どこまでも調子に乗るからだ。
 特に甲斐は、平古場とは気が合うらしく、部活でも学校内でも騒いでは説教をせれている。煩さが3倍ほど跳ね上がった二人を、黙らせるのは中々に骨が折れることだった。最近ではもっぱらゴーヤを使って黙らせているが、そろそろ根本的に躾直したほうがいいだろうかと真剣に考えていた。
 そんな恐ろしい計画を立てているとは知らず、甲斐は文句を言いながら木手の後へとついてきた。リビングへと続く扉に手をかけ開ければ、ふわりと甘い香りが二人を包み込む。
「にーに、おかえり~」
「ただいま。この匂いはどうしたの」
 木手の妹が二人を出迎える。甘い香りの元はキッチンからで、何かお菓子でも作っているのかと問えば、ニコニコと無邪気な笑顔で甲斐と視線を合わせた。不思議に思い二人をそれぞれ見返せば、甲斐が笑いながら雑誌を見せてきた。
「バレンタインのチョコを作ってるやっし!!」
「一緒に作ってるの」
「たまたま、チョコレートの材料買ってる所に出くわして、それで一緒に作ることにしたんだよ」
「「ねー」」
 声を合わせて首を傾げあう姿は仲の良さが窺えて、木手としても別に文句が有るわけではなかった。元々、甲斐にも妹がいてお互い家族同士で交流もあるから、二人が一緒に何かすることも不思議ではない。
 ただ、一つだけ、どうしても納得できないことがあった。
 木手の妹がキッチンへとお菓子作りを続ける為に戻っていく後ろを、追いかける甲斐を捕まえて、一番気になっていたことを聞いてみた。
「お?」
「君が、どうしてチョコレート売り場にいたんですか」
「ああ、それは……これこれ!!」
 小声で聞いた言葉は、同じく小声で返された。先ほどまで開かれていた雑誌の別のページをめくって木手へと記事を見せてきた。
 そこには、『今年は逆チョコでアプローチ!』という謳い文句が書かれてあった。得意そうな表情の甲斐は記事の内容を説明していく。
「ほらここ。……ここによく読んでみろよ?"男性からチョコを貰えたら好きになる可能性がある"って!」
 「やばいよなぁ~」と嬉しそうに木手の肩をバシバシと叩きながら同意を求めてくる。そのお目出度い様子を見ながら、ヤバイのは君の頭でしょうと心の中でだけ突っ込んでおいた。
「"可能性がある"というだけですよね……」
「ふらー、ここ読めよ!」
 指差した先には、"男性からチョコレートを貰えたらうれしい"、"気が利いてる"などの言葉が書かれてあった。
「男なら!その可能性にかけろよ!!」
 がしりと木手の両肩を掴み、真剣な眼差しを向けてくる。その残念なまでの眼差しを受けながら、木手は雑誌の下の方に書かれてあった『でも、渡す人を選ばないと、逆に引かれるかも』という文字を見逃してはいなかった。きっと、甲斐の様子からその部分を読んでいないことは明白で、けれど指摘した所で話を聞くようなタイプではない。どうなろうと甲斐の責任だ。そこまで面倒を見てやる義理は無いと頭を切り替える。
「そのやる気を、もう少しテニスにも発揮してほしいのですが……」
「それはそれ!これはこれ!!」
「まったく……。君も、平古場クンも無駄な努力が好きですね」
「ん?凛がどうかしたのか?」
「……いえ、何でもありません」
「二人とも、どうしたの~?」
 心配そうにこちらに戻ってきた妹に、何でもないと笑いかける。
「ちょっと、木手はむっつりだって話をしてただけやし~」
「誰がですか!」
 反射的に手に持っていた雑誌で甲斐の頭を殴れば、大げさに痛いと騒ぎ出す。甲斐は妹に宥められながらキッチンへと向った。その後ろ姿を見送った後、自室へ上がり着替えてもう一度リビングへと顔を出すと、焦げ臭い匂いが部屋の中に充満していた。
「どうしましたか!?」
 焦って調理中の二人の所へ行けば、チョコレートが入っているだろうボウルから異臭がしていた。泣きそうな顔で見つめてくる二人から話を聞くと、電子レンジでチョコレートを溶かそうとしたら焦げてしまったらしい。どうしてと嘆く二人に、木手自身もお菓子など作ったことがないので答えを返すことが出来なかった。
「ちょっと待ってて下さい」
 そう言って、リビングにあるパソコンで電子レンジを使ってチョコレートの溶かす方法を調べる。いつのまにか、泣きそうな二人も傍に来て一緒に手元を覗き込んでいた。
「……少しずつ加熱しないと焦げるみたいですね」
「時間が長かったのかな?」
「そうみたいやっし。どのくらいがいいんばぁ?」
 そんな会話をしながら作り方を調べて、再挑戦しようと材料を見るが明らかに足りなくなっている。買出しに行こうという段階で、木手の妹の様子がどこか不安そうなのに気がついた。
「どうしました?」
「……うん……あの、あのね。さっきチョコレート買ったから、その……おこずかいが……」
 少ないお小遣いでチョコレートの材料を買ったのだろう。チョコレートぐらいならそれほど高いものでもないかと思いながら妹の頭を撫でてやる。
「それなら俺が買ってあげますよ」
「でも、にーにのチョコも作りたかったから…。買ってもらったら意味ない……」
 意外な言葉に面食らった。甲斐を見れば、そんなことも分からなかったのかとでも言いたげな表情だ。木手は少し悩んだ末、目線を妹と合わせるとゆっくりと言葉を告げる。
「俺からのバレンタインプレゼントです。受け取って貰えますか」
「え、でも……」
「今、逆チョコが流行っていると聞いたのですが……、男の俺が渡すのはやっぱり変でしょうか」
「う、ううん、ありがとう!」
 にこりと微笑めば、ぎゅっと首に抱きついてきた。その背中をそっと抱きしめ返して、頭を優しく撫でる。
 宥め終わって三人で出かける準備を終えて、家の外へと出る時に甲斐がこっそりと呟く。
「逆チョコもいいもんだろ?」
「まぁ、悪くはないですね」
 その少し悪戯っぽい甲斐の笑みを受けながら、門の傍でこちらを振り返る妹を見つめて穏やかに笑う。誰かが笑顔になるのなら、逆チョコも悪くないかもしれないと。

作品名:LOST ③ 前編 作家名:s.h