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LOST ③ 前編

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 商店街を三人で並んで歩く。両端に木手兄妹、真ん中に甲斐という並びになったのは、余所見をしてはどこかへ行こうとする甲斐を引き戻すためだった。あまりにも、フラフラしては道を逸れるので最後には木手の妹に「迷子にならないでね」と手を繋がれている始末だった。木手は兄として、やや複雑な心境でその様子を見つめていたけれど。
 目当ての店の前に来ると、甲斐と妹が駆け出すように中に入っていった。その後ろをゆっくりと歩きながら店に入る。店の中はバレンタイン一色で、ピンクや茶色、赤に白といった色で溢れかえっていた。場違いな雰囲気にやや居心地の悪さを感じて、早く甲斐達に合流しようと売り場を探していると後ろから声をかけられた。振り返ればそこには平古場と、木手達よりも年上の女性が並んで立っていた。
「お友達?」
「そう。わりぃ、先にレジ済ませてて」
 女性は了承した後、木手の方へ軽くお辞儀をしてからレジの方へと歩いていった。その姿を視線だけで見送っていると、すぐ近くまで来ていた平古場が、不思議そうな声で木手の名前を呼んだ。どうしたのか、と問われれば特に後ろめたいことなど無いはずなのに、妙な焦りが心に生まれて曖昧な返事しか返せなかった。平古場は少し首をかしげただけで、特に気にした様子はなく別の質問をしてくる。
「何でこんなとこいるんだ?」
「妹の付き添いです」
「あ、永四郎もか~!お互い大変だな!!」
「君も誰かの付き添いですか?」
 軽い笑い声と共に同意された言葉の意味を問えば、二度の頷きと共に肯定を返された。ふと、平古場の姉弟関係を思い出した木手は、先ほどまで平古場の傍にいた人物が誰だったのかを理解した。
「姉貴の荷物持ち。材料の中にわんの分も含まれてるからだってさ~、何か理不尽だろ」
「そう……。先ほどの方は、お姉さんだったんですね」
「あれ?気がつかなかったか、結構似てるって言われるけど」
 そう言われれば、目元などはよく似ていた気がする。あまりじろじろと見つめるのは失礼かと思ったなどと言えば、そんなの気にする人じゃないと笑いながら返されてしまった。
「君は、少し無神経すぎます」
「えー!?そんなことないやっし!!」
 平古場との軽口のやりとりを交わしていると、木手はいつの間にか心に蟠っていた靄の様なものが晴れた気がした。心の揺れは少しの間の出来事だっただけに、あまり気に留めることも深く考えることもしなかった。
「ずいぶんと買っていたようですが……」
「ああ、友チョコってやつらしい。どれだけ配るつもりかは聞いてないけどな」
「にーに!やっと見つけた~」
 裾を引っ張られて見下ろした先に、にこにこと笑う妹の姿が目に入った。頭を軽く撫でながら謝罪し、材料の入ったカゴを持ってあげた所で、一緒に店に入ったはずの甲斐がいないことに気がついた。まさか、こんな店の中で迷子になったのかと頭を抑えている傍らで、平古場と木手の妹が挨拶などを始めていた。
「へぇ~、永四郎にこんな可愛い妹がいるなんて知らなかったな」
 視線を合わせるように膝を折り曲げて屈み、お互いの名前を言い合う。礼儀正しい挨拶の仕方に、流石に木手の妹だと平古場は納得した。
「もう少し大きくなったら、俺と遊んでよ……ね?」
 秘密の約束でもするように、そっと甘く言葉を紡げば、見る間に顔を赤くしていく姿が愛らしかった。木手がしたように頭を撫でようとしたが、その手は勢いよく叩き落とされた。
「人の妹にちょっかいかけるのは止めなさい」
「ちょっかいじゃねーよ。可愛い子には当然の対応だろ!!」
「……まさか君、誰にでもそんなこと言ってるんですか?」
「可愛い子と美人限定」
「そんなだから、軽いって言われるんでしょう」
「可愛い子に可愛いって言って何が悪い!!!」
 そこから平古場との言い争いが始まって、掴みかかる一歩手前で木手の妹に止められて、しぶしぶとだが一応お互いに謝罪をしあった。
 そこで甲斐のことを思い出し、妹に聞いてみればやはり木手を探す途中ではぐれたらしい。木手は呆れたとばかりにため息をつき、平古場はあいつらしいなと笑い飛ばした。
「でも、何で裕次郎も一緒なんだ?」
「ああ、一緒にチョコレートを作ってるんですよ」
「……ふぅーん」
 一気に温度を下げた声色に、不思議そうに見つめていると木手の妹が甲斐を見つけたらしく、傍を離れて甲斐の元へと走っていく。後を追おうとした所で、平古場に腕を捕まれた。
「なぁ、裕次郎からチョコ貰うの?」
「は?そんな訳ないでしょう。何言ってるんですか。それより、妹にもうちょっかい出さないで下さいよ」
「んー……。だったら、永四郎が遊んでよ?」
「君、眼科いったら?俺は可愛い女の子じゃありませんよ」
「知ってる。俺、ちゃんと可愛い子と『美人』限定って言っただろ?」
「俺が当てはまる余地は皆無だと思いますが」
「永四郎って意外に鈍い?まぁ、分からないならそれでいいけどさ」
「どういう意味ですか」
「言葉の通りだけど……。わん、そろそろ行くわ。姉貴待たせてるし」
 掴んでいた腕を離してから軽く一度だけ叩いて、レジの方へと歩いていった。その後ろ姿を見送っていると、何時の間にか傍に来ていた甲斐が背中を叩いた。
「今の凛だろ。帰ったの?」
「ええ、お姉さんを待たせてるので帰るそうです」
 じっと、何かをいいたそうな顔でこちらを見つめる甲斐に「何ですか」と問えば、予想外の言葉が返ってきた。
「木手もさ、チョコレート作ろうぜ」
 その発想の意味が分からず、まじまじと見つめ返せば困ったような表情をする。
「最近さ、凛と何かあっただろ?ほら、友チョコとかあるし、仲直りする切欠になるって!」
「喧嘩なんてしてませんよ。今だって普通に話していたでしょう」
「そうだけど……、でも何か前と違う。言わないつもりだったけど、やっぱり何か変だよ。他の皆だって思ってる。だって、凛が時々すごく辛そうな顔するんだ……。なぁ、仲直りできない?二人が今のままだと嫌だ」
 どこか切羽詰まった様な、それでいて真摯な瞳で訴えてくる。周りが、特にあまり深く物事を考えない甲斐がここまで言うのだから、他のメンバーはもっと気にしているのかも知れない。平古場と仲のいい甲斐だからこそかも知れないが。
「君に心配されるなんて、俺もまだまだですね」
「木手!」
「分かりました。本当に、喧嘩をしている訳ではないのですが……。そうですね、平古場クンとちゃんと話ます」
 良かったとばかりに笑顔を輝かせた。チョコレートを渡せば仲直りが出来るようなことではないが、甲斐達がそれで安心するというのなら安い話だと思った。
 追加のチョコレートを買う為に、甲斐は木手の手を引っ張って少し先で待つ木手の妹の所まで歩いていった。


 賑やかな声に振り返れば、木手達が歩いている姿が視界に入った。平古場はその仲の良い風景に苦笑していると、傍にいた姉にどうしたのかと尋ねられた。
「幼馴染っていいなぁと思って」
「凛にだって、知念くんがいるじゃない」
「そうやしが……」
 きっと、平古場が本当に羨ましいと思っているのは幼馴染という関係ではない。それは、もっと歪んだ泥の様な感情が導き出すエゴと傲慢だ。
作品名:LOST ③ 前編 作家名:s.h