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にぎやかな休日

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 憎まれ口を叩くが本当は気づいたら虎徹の分まで口にしていたというのが正しい。食べすぎて苦しいくらいだが、アルコールは別腹らしくいくらでも受け付ける。
「それなら、トランプしようぜ」
「はあ?」
 棚の奥からワインを取り出して、一応グラスを2個、手にしたバーナビーは自分の声がひっくり返っているのを気まずく思った。脇に挟んだビール缶がすべり落ちそうになり慌てて脇をしめるが、今度はワイングラスを落としそうになってヒヤリとする。
「お前、最近、トランプやった?」
 大雑把にテーブルの上を片付けて― と言っても食べた残骸を横にしただけだったが ― 立ったままのバーナビーを見上げた。
 バーナビーはワインをボトル半分飲むまでトランプをすることを拒絶していたが、結局虎徹のずうずうしさの前に負けた。虎徹はバーナビーが「嫌だ」と言っている最中からカードを配り、自分の分から同じカードを抜き出してはテーブルの上に放り投げた。今ならわかる、ババ抜きだ。
 バーナビーが拒絶していたのはトランプゲームを知らなかったからで、両親がいた頃はもちろん、トランプというものでゲームをしたことがない。バックギャモンなど名前は知っていてもどうやってやるのか知らないし、賭け事に興味はなかった。
「こてっちゃんが教えてやるよ」と嬉しそうなおじさんの顔に自分の無知さが恥ずかしく感じられたが、トランプゲームを知らなかったからと言ってそれがどうしたとも思い、なんだか複雑だった。
 そんなこんなで、昼食後に飲みながらトランプを始めた。
 虎徹は口癖の「面倒くせーなぁ」を口にすることなく驚くほど丁寧に教えて、バーナビーが知らずにルール違反を犯しても「今回だけだぞ」と笑った。昼間からアルコールが入ってご機嫌だったんだろうか。
 やると決めればなんでも真剣になるバーナビーはそのうちババ抜き、七並べ、神経衰弱、スピード、戦争などのルールを理解して、一番単純なババ抜きと速さを競うスピードが気に入った。戦争は時間がかかりすぎ、単調なやりとりにそのうち飽きる。相手をちょっと困らすような意地悪ができる七並べも気に入ったが、ババ抜きの単純さに勝るものはない。
 考えてみれば缶ビール6本、ワイン1本半をあけていたバーナビーは日頃の疲れがたまっていたことも手伝って酔っていたかもしれない。虎徹もビールを途切れることなく飲み続け、ストックしていたビールもほとんどなくなっていた。虎徹が酔いつぶれて昼寝をしたり、それを見たバーナビーもうとうとしたりと何度も休息を挟みながらも、かれこれ5時間以上もトランプをしていた。
 陽が長くなっているとはいえ、さすがに室内が薄暗くなり慌ててシーツを取り入れる。部屋の電気をつけたところで、部屋の惨状に呆れたバーナビーだった。
 ビールの缶は床に転がり、ふたが開きっぱなしのピザの箱にはひからびた玉ねぎと固まったチーズがくっついて、ワインのつまみにと冷蔵庫から袋ごと出した干しぶどうがテーブルの上に数個散らばっていた。
 ワインを2本あけ昼寝をしてしまった後からは飲むのをやめていたバーナビーの酔いは完全に醒めている。
 相変わらずおじさんは帰るそぶりも見せずに、勝手につけたテレビに釘付けだ。海水浴場でビキニ姿の女がインタビューを受けていた。あからさまに鼻の下がのびている。醜い。
「夕飯も食べてくつもりなら、買いに行くかテイクアウトしないと何もないですよ」
 シーツを抱えながら言ったバーナビーに虎徹は振り向きもしない。
「んー」
 聞いているのかいないのかわからないような生返事が返ってくるだけだ。
「ほんとにないんですからね」
 ワインはともかくビールさえない。ビールがなければ帰るかなとも思ったが、その拍子に『それはちょっと』と思い、腹がいっぱいなのに勝手に夕飯を算段し始めた自分にぎょっとした。『ちょっと』の後に何て続けようとしたんだ。混乱する思考とは別に口は勝手に動く。
「まだ飲むんだったらスコッチくらいしかないですよ」
「んー、いいねぇ」
 それは返事なのか、水着女への賞賛なのか、どっちだ。問いただそうとしたが、ばかばかしくなって止めた。別にどうでもいいことだし、そこまで気にすることもないと強く思い込む。
 バーナビーはシーツをきれいにたたんで寝室に持って行った。寝乱れたままのベッドのシーツと枕カバーを代えて布団を整える。枕元においていた読みかけのファッション雑誌を片付けて部屋を出た。
 リビングに戻るとおじさんがいない。
「バニー、お前、どんな食生活だよ」
 勝手に冷蔵庫をのぞいている虎徹にバーナビーはため息をついた。
「今朝の分までは何かしらあったんですよ」
「ろくなもんねぇな。卵と牛乳か。・・・・・・ホットケーキ、焼いてやろうか」
「粉がないですけど」
 子供の食べ物を買った覚えはない。自分の部屋なのに所在無くバーナビーは虎徹の後ろに立っていた。
「前に俺が持ってきただろ」
「そうでしたっけ」
 記憶にないがおざなりに棚を探してみる。手軽なものしか作らないため棚は汚れるわけもなく、ざっと見れば何があるかないかわかる。キッチン下にはないので、上かと扉を開けた早々目に黄色の袋が目に飛び込んできた。
「あぁ、ありました」
 袋を手にとって虎徹に差し出す。虎徹は勝手に見つけていたボウルに袋のまま入れ、キッチンに置いた。
「じゃ、夕飯はホットケーキにしよう」
「まだ腹減ってない」
「うん、俺も。飲みすぎたかなー」
 うーん、と伸びをする虎徹の隣でバーナビーは複雑だ。他人の部屋とも思えないリラックスぶりに思わず口を尖らしそうになり慌ててやめる。コソッと隣を伺ったが気づいていないようでホッした。こんなところを見られたら、ここぞとばかりに散々からかわれてケラケラ笑われる。ちょっと年を食ってるからっていつでもガキ扱い。腹が立つ。
 なんでこうなるんだろう、結局一緒に夕飯を食べることになっている。追い出すはずなのに。引き止めるかのように夕飯のことなんか口にしたりして。いつもなんだか知らないうちにずるずると一緒に休日を過ごしているなんて笑えない。それにホットケーキって・・・・・・。いつ以来だ?
「少し片付けるか」
 ふーっと大きく深呼吸した虎徹がキッチンを出る。テーブルタオルを手にバーナビーはその後ろに続いた。
 テーブルの上に散らばった干し葡萄の茎やピザの空き箱を虎徹は素早く片付けると、床に散らばった空き缶を集めてキッチンに持って行った。バーナビーはテーブルを拭くことは虎徹にまかすことにして、軽く掃除機をかける。それほど酔った気はしなかったが、食べこぼしがあるところを見るとそこそこ酔っていたらしい。
 片付けが終わると虎徹はさっそくテレビをつけてソファに横になった。またしてものリラックス振りに、いやどう見ても厚かましい姿にバーナビーは呆れる。少しは他人の家だと遠慮する謙虚な気持ちはないのか。
作品名:にぎやかな休日 作家名:かける