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にぎやかな休日

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「いいか、バニー。そういう憎まれ口は今すぐ慎め。まったくかわいくねぇったら」
 ぶつぶつ言うおじさんは子供がいるくせして、他人の下半身事情に興味があるらしい。
「あなたとコンビを組んでから、まったくそれらしいことはしてません」
「げっ、お前、溜まらないの?」
「別に」
「はあっ?! 老人か! 仙人か! 枯れ木か!!」
「あー、うるさい。世の中の男全部があなたと同じじゃないんですよ」
「俺、お前を尊敬するわ」
 本当にしみじみと言われてバーナビーはアホらしくなる。
「もう帰ったらどうですか」
「いやいや、お前の枯れ具合に興味がある。俺も仙人になるにはどうすればいいかな」
 腕組みしてまで人に聞くことか、こんなこと。もっとまともなことに頭を使えよ。
「あそこをチョン切ればいいんじゃないですか」
 バーナビーは適当に答えた。このおっさん、馬鹿を超えた。つきあってられない。
「おっ前! 馬鹿! アホ! 人類の敵! 何考えてんだ!」
 叫ぶおじさんはなぜか股間を押さえている。
「何って。少子化は俺のせいじゃないですよ」
「んなこと聞いてねーよ! セックスは最高だ! 気持ちいいだろうが」
「そうですか?」
「そうですよ!」
 顔を赤くして力いっぱい頷いた虎徹を少々白けた気分でバーナビーは眺めた。どうでもいいし、と思ったのが顔に出たのか。
「どうでも良くないぞ!」
 虎徹の言葉にぎょっとした。この人は時々、人の思考を読むという迷惑行為をやらかす。
「お前は快楽の半分を損している」
「へぇ」
「馬鹿にすんな」
「してません」
「よし、脱げ!」
「は?」
 ビシッと指された指を反射的に振り払う。馬鹿だ、馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だとは。
「ああ、安心しろ。おかしなことはしない」
「もう十分おかしいです!」
 睨み付けると虎徹は口を尖らせた。そんな仕草をおっさんがやっても薄気味悪いだけだと、露骨に顔をしかめたバーナビーにもめげることはない。
「だぁってよー、その年で枯れ木なんてありえねぇよ。おじょーさんたちと遊べよ」
 ワイワイキャッキャッチュッチュッとだなぁ、と続けた虎徹に容赦なく手刀をくらわせてバーナビーは「汚いですよ」と言った。頭に手刀をくらった虎徹が口付けていたスコッチをこぼしたからだ。
「いってーな。あー、俺も女の子と遊びたい!」
「遊べばいいじゃないですか、俺のところにおしかけてこないで」
 邪魔だし! 
「んー、でもお前、なんか面白いんだもん。ババ抜き知らないとかカワイイっつーかさぁ」
 犬猫を褒めるかのように言われ、さらにプププと笑われてもそれが馬鹿にするものではないのが余計に何かを刺激してバーナビーは思わず叫んだ。
「はぁ?! キモイキモイキモイ! 黙れ!」
「おまっ、黙れっ・・・・・・て・・・・・・」
 そう言って虎徹は口をつぐんだ。二人の間に沈黙が落ちる。いまさらながら両手で耳をふさぐが自分でも何をしたいのかわからない。何も言うな、喋るな、やめてくれ、と思うバーナビーに無情にも虎徹が問いかける。
「あのー、すんげー顔赤いんですけど?」
 耳をふさいでいても聞こえる声が憎い。真っ赤になっているのなんか知ってます! なんかヤバイ、これはヤバイ、ほんとにヤバイと思っているうちに勝手にカーッと血がのぼったのだから、聞かれたこっちこそなんでだと大いなる疑問でパニック中だ。さらに悪いことにパニックがパニックを呼んで頭がくらくらする。時々こういうことが起きるから、この人は嫌だ。
 その姿を呆気にとられて眺めていた虎徹は気まずげに視線を逸らし、ばりばりと頭をかいた。
「あー、悪かったよ、からかって。なんていうか、お前、いっつもスカしてるだろ? だからちょっと焦ったりしてるのを見るとつい調子のっていらんことまで言っちまうんだ」
「スカしてなんかいません!」
 謝るくせして一言多い。なんて悪癖だ。耳から手を離して反射的に言い返したバーナビーは無意識に口をへの字にして虎徹を睨んだ。
「あー、すまんすまん。『冷静な』だ、いつも『冷静な』バニーは偉い!」
 両手を顔の横まで上げて降参ポーズの虎徹を見やりながら、バーナビーはどうしてこんなに腹立たしいのだろうと思った。
 まず、何を言われても聞き流してきたのに、この人の言葉に限って上手く聞き流すことができない。これが問題だ。神経の上を羽毛で撫でられるかのごとく些細なことが気に障る。いちいち反応してしまうのが悔しかった。そのうえ、冗談として流せなかったこんなとき、虎徹はいつもサッと引いていく。これではいつまでも怒っているほうが子供みたいだ。
「本当にもう帰ったらどうですか」
「いやいや、ここで帰っちゃまずいだろう」
「なんで」
「今、お前は俺にムカついてるよな?」
 ムカついているというよりむやみに恥ずかしいのだが、そんなことを口にするのはもっと恥ずかしいのでバーナビーは頷いた。また顔が熱くなってきた気がしてひやひやする。
「そういうときに俺がいなくなってみろ。次、会うときお互い気まずいだろ?」
「別に」
 図星だったけど、やっぱり悔しくて憎まれ口をたたいた。
「冷たいこと言うなよ。俺なんか小心者だからな、バニーが怒ってないかなーとか藁人形を作ってないかなーとか、悪魔を召還してないかなーとかビビりまくってお前に会いにくいぞ」
「最初はともかく、藁人形とか悪魔召還とか、やっぱりあなた、からかってるんじゃないですか」
「本気だっつーの。お前、なんでもできんじゃんよ! 悪魔にお願いしててもおかしくないっ!」
 ふんっ、と鼻息荒く言い切られても、そんなわけあるか!
「あぁもうっ、あなたと話しているとなんでこんなに突拍子もない話になるんですかね。いっそのこと本当に藁人形作ろうかな。そのほうがすっきりしますよね」
 スコッチの入ったグラスの氷をカランと鳴らしてバーナビーは虎徹の顔をチラリと見た。
「おいっ、ヤメロ。冗談にならん。イライラするのはな、腹が減ってるせいだ。そうだ、ホットケーキを焼こう。『あんこ』を挟んで食うとうまいぜー」
 慌てたように身体を揺らす虎徹にバーナビーはため息とともに言った。
「『あんこ』がどこにあるのか教えてくださいよ」
「えっ、ないの? お前、粒あん、ナメんなよ」
「あるわけないでしょう! 甘いものなんか、あなたが持ってこない限り食べないっていうのに」
「ほほう、そうかそうか。ま、わかってたよ、バーナビー君」
 うんうんと一人で頷く虎徹がますます胡散臭く見え、バーナビーは藁人形か草人形かを作ることを心に誓った。
「おっれは虎徹ー、いぃいおっとこー」とどこかで聞いたようなメロディを口にしながら、虎徹は斜め掛けしてきたかばんをごそごそとまさぐる。
「はい、プレミアム大納言小豆ー」
 右手で高々と掲げた缶詰には確かにプレミアムと書いてある。
「ま、ざっとこんなもんよ。お前がホットケーキを食うだろうと思って『あんこ』を持ってきた。この用意の良さ。惚れ惚れするぜ、なぁ?」
 得意気な虎徹を無表情で見つめながらバーナビーは口を開いた。
「・・・・・・夜の9時を過ぎて、誰が『あんこ』なんぞ食べるんですか」
「お前だよ、お前。あ、俺も」
作品名:にぎやかな休日 作家名:かける