おれの親友
それから、相変わらず無視されたおれにサンジは放課後少し一緒にいてくれた。
今まで、クラスメイトを悉く無視してきたサンジは決して冷たい奴ではないと分かった。
だからおれは、あの行動には何か理由があったんだって、そう思った。
でも、その理由に踏み込んでいいものか、と思い、
ずっとそのことは聞かないでいた。
放課後の二人きりの時間。
別に何するでもなく、ただ二人で教室に残った。
サンジが帰らずにいてくれるからおれはサンジの斜め前の席の椅子を借りて座った。
真ん前はなんだか緊張したし、真横も落ち着かなくてそうなった。
サンジはおれが話すことに相槌をうってくれた。
あんまり表情を変えないことに変わりはないけど、無表情ではなかった。
それが嬉しかった。
おれだけが知ってる。
サンジの表情。
そんな優越感に浸ってたんだ。
おれはある日、
お前優しい奴だなって言った。
それは本心だったし、嘘はこれっぽっちもなかった。
でもサンジはありえないと首を振った。
そういうことが何度かあった。
おれがサンジってああだよな、こうだよなって言うと、
サンジはいつも分からないっていう顔をする。
おれは最初は所謂謙遜なんだろうなと思ってた。
でも、だんだんとその違和感が募り始めた。
だから、おれはサンジに聞いたんだ。
「お前の好きなものってなんだ?」
返ってきた答えは、
「何もない。」だった。
このときのサンジは真っ白だったんだと思う。
皆誰もが、自分の色をもってる。
でも、サンジはこのときはまだ真っ白で、
手には何色もの絵具を持っているのに、それを使おうとしないんだ。
おれは、それが当然だと言わんばかりに何もないって言ったサンジが許せなかった。
「なんでっっ!!!!!」
当然、いきなり立ち上がったおれにサンジは僅かながら驚いた顔をした。
「無いものはない。」
「何かあるだろ!?好物とか、
これやってる時は楽しいとか、幸せな時だよ!!」
「…幸せ、ね。」
「幸せ感じたこと…ないのか?」
サンジだから、今まで聞かなかった。
でも、サンジだから今、聞かなきゃと思った。
サンジだから、聞きたいと思った。
おれしかサンジの言葉を聞いてやれないと思ったから。
サンジの答えはおれの予想通りだった。
まさかと思った方の、予想があたっちまったんだ。
「なんでお前がそんな顔すんだよ?」
おれは今にも零れそうな涙をこらえて、話を続けた。
「たとえばな、たとえばだ。」
「・・・。」
おれはサンジの前に立ち、サンジの手を取った。
その手を自分の手とぎゅっと繋ぐ。
「おれはこれで幸せになる。」
「…これで?」
「そうだ。」
「これで…」
「サンジと会えて幸せだ。」
「おれと?」
「おれはサンジの後ろの席になれて幸せだった。
サンジの髪を一番近くで見れて幸せだった。
サンジと話せて幸せだ。サンジと手を繋げて幸せだ。
おれはサンジのおかげですっげぇ幸せ貰ったんだっっ!!!!!」
「・・・・」
おれとサンジの温度差はこれでもかって程、明白だった。
サンジはどうしてこんなに興奮して声を荒げているのか分からない。そんな顔だった。
でも、おれは、サンジにとっては当たり前のように話したことが、辛かった。
辛くて辛くて仕方がなかった。
おれは放課後が大好きで、サンジとの二人の教室が大好きで、
あの日、「お前は悪くねぇよ。」と言われて、おれは救われた。
だから、サンジを救いたかった。
救いたいのにやり方が分からないことが悔しかった。
悔しくて悔しくてとにかく思ったことを次々とぶちまけちまった。
ぶちまけたら、一緒に涙も溢れて鼻水もたれた。
でも、おれは繋げた手を離さなかった。
「・・・・・っぷ・・っあははっ」
おれは目の前の出来事が信じられなかった。
サンジが声を出して笑ってる。
あのサンジが笑ってたんだ。
「・・・サン・ジ・・」
「お前、これで幸せになるんだよな。」
「・・・あっ・・あぁ。」
「面白い奴。」
「・・そりゃぁ、褒めてんのか?」
「おれにも幸せに出来るものがあんだな。」
サンジはそう言うと、
空いてたもう片方の手でおれの涙を拭った。
汚れちまうと慌てて、止めようとすると、
「涙だけは拭いてやる、鼻水は自分でなんとかしろ。」と言うから素直に頷いた。
おれは馬鹿な奴と笑われても幸せだった。