おれの親友
それからサンジはポツリポツリと自分のことを話し出した。
産まれてから今まで父親の顔は見たことがないこと。
4歳の頃に母親が事故で死んだこと。
母親の姉に引き取られたのだが、しばらくすると追い出されたこと。
今は1ヶ月毎の仕送りで一人で生活していること。
どれもがおれには想像もつかないことだった。
おれの両親は健在だし、世話好きの親戚やら、じいちゃんやばあちゃんなんかも居る。
朝起きれば朝ごはんが出てくるし、洗濯された着替えが出てくる。
追い出されるように学校に来て、帰れば「おかえり」と言ってもらえる。
夜ご飯は何と聞けば、答えが返ってくるし、気づけばあったかいお風呂が沸いてて、「おやすみ」と言って「おやすみ」と返されて眠りにつく。
それが当たり前だと思っていたし、これからも当たり前だと思っていた。でも、目の前でこんなときばっかりうっすら笑いながらしゃべるサンジは、そのどれもを知らないという。
なんで?
どうして?
おれは疑問だらけだった。
納得いかなかった。
おれが幸せなんだと思ったこともないことが途端幸せで満ち足りたものだと気付いた。
でも、なんでそれがサンジにはないんだろう。
どうしてサンジは一人なんだろう。
どこにもぶつけられないもどかしさで胸がいっぱいだった。
サンジは真っ白だけど、もしかしたら少しだけ色を塗った事があったのかもしれない。
でも、母親を亡くしたときにそれが全て消されてしまったんだと思った。
おれは手に持っている絵具で何も気にせず好きな色を使ってきたけど、その絵具はもしかしたら親とかじいちゃんとか色んな人からもらったのかもしれない。
だから、サンジは一度絵具を捨ててから誰からも新しい絵具を貰うことなく、ただ真っ白なまま居たのかもしれない。
だったら・・だったらおれが。
おれがサンジのその手を絵具でいっぱいにする。
おれは話を聞きながら涙を流し続けた。
泣かないサンジの代わりに泣いてるんだと言い訳しながら、溢れるままに泣き続けた。
話が終わるとサンジはおれに向かって馬鹿だ何だと言ってたけど、それでも泣きやまないおれの手をそっと握ってくれた。
「幸せなんだろ?ったくいい加減泣き止め。」
おれはおれに誓った。
サンジの色を一緒にみつけるんだって。