おれの親友
中学2年になって、
サンジはおれに言った。
「おれコックになるよ。」
中2頃のサンジは忙しそうにしていた。
親戚にレストラン経営をしてる人が居ると聞いて、その人に会いに行った。
その人の料理を一口食べて確信したサンジはすぐに弟子入りを志願した。
それからは度々弟子入りを頼みに行き、何故か怪我して帰ってくる。
高校へは行かずに、そのレストランで働くという決意をすると、
週末だけでなく放課後も押しかけるようになっていた。
学校に居る時も授業を聞かずに、料理の本で違う勉強をしていた。
一気に前へ進もうとし始めたサンジにおれは正直寂しさを感じていた。
でも、サンジはおれの弁当は欠かさずに作ってくれた。
コックになったらおれに一番に食べさせてやるとか、
料理の話の合間合間におれの登場を忘れずにいてくれた。
だからおれは寂しいという気持ちを押し殺してサンジを応援した。
中学3年生になり、高校見学などが始まり、
受験のことを嫌でも考えなければならなくなったときだった。
いつものように朝迎えに行くと、サンジがひどく落ち込んでアパートから出てきた。
その落ち込みようにおれが問いただすと、レストランに近づくことも禁止されたという。
おれは、頭にきた。
会ったこともないじいさんだけど、
聞く話ではとても怖いじいさんだけど、
そんなの関係なく頭にきた。
サンジの真剣さをおれは知ってるから。
おれは誰よりも知ってるから。
だからおれはサンジにしてみたら迷惑かもしれないけど、
内緒でそのレストランに乗り込んだんだ。
「なんでサンジを認めてくれないんですか!!!!!」
「誰だお前は、」
「サンジの、サンジの親友ですっっ!!!」
「まぁ誰でもいい、帰れ。邪魔だ。」
いつだったか、誰かも言ったなぁと頭の片隅で思った。
「帰りませんっっ!!!!
おれはっ、おれは毎日サンジの飯食ってます!!!!!
サンジの飯は本当に美味くて、これは贔屓目とかそんなんじゃ絶対なくて、
サンジがおれのために、おれのためにって分かるんだ!!味で!!
おれが言ったんだ。コックに向いてるって、その気持ちは変わらない!!」
「てめぇはあいつの人生背負えんのか?」
「それはコックになる道が間違ってるかもしれないってことですか。
それならおれは背負えます。絶対にサンジはコックに向いてるから。
何も無いって言ったサンジが見つけたものをおれは応援する!!!!!!」
「・・背負い方も知らねぇ餓鬼が。」
「そうだけど・・でもっっ!!!」
「お前はあいつと進学したかねぇのか?」
「・・・そりゃ、高校も同じだったらなって、正直思う。
サンジと一緒に居るのはすっげぇ楽しいから、今までみたいにしょっちゅう会えたり、勉強しあったり、遊んだりってできなくなるのは寂しいさ。
もっとサンジとの思い出欲しいなとか・・でもこれが別れじゃねぇし!!
こんなおれのわがままよりもサンジの夢の方が、サンジの方が大切だから!!!!」
「だとよ、チビナス。」
「・・チビナス?」
「チビナスって言うんじゃねぇよ。」
その声に驚いて振り返れば案の定そこにはサンジが居た。
「なっ・・!!!?なんで!!??」
「お前こそ、何やってんだよ、」
「勝手なことして悪ぃと思ってる。でも、おれっ!!」
「いや、いい。嬉しかった。」
そう言いながらサンジはおれをじいさんから背中に隠した。
その行動がもう余計なことはするな、と言ってるんだと思ったおれは思わず謝った。
「謝ることねぇって。」
「サンジ・・」
「くそジジィ、おれ決めたよ、高校行く。」
「そうか。」
「えっ!!???なんで!???サンジッッ!!!」
「高校卒業してまた来る。」
「勝手にしろ。」
「サンジ!!??」
裏口から店を出たサンジはすたすたと先を歩いた。
おれは一応じいさんに頭を下げて後を追った。
一瞬チラリと見えたじいさんの顔は優しく笑ってた気がした。
今なら、きっとこのときは笑ったんだなって確信できるけど、
このときのおれはそんな余裕は無くて、疑問だらけで不安だらけだった。