機動戦士ガンダムRS 第23話 マン・マシーンの恐怖
これがイザーク・ジュールという人だということは、ニコルも百も承知だった。
ニコル大尉は、イザーク大尉を見て少しため息をついて彼も廊下を歩き始めた。
※
食堂にサイがやってきた。
彼らは、軽い挨拶をした。
「フレイの船酔いは、大丈夫?」
ミリアリアがサイに聞いた。
「うん。
薬飲んだしまだ唸ってるけど」
サイがフレイの状態を説明した。
「やっぱりミリアリアに交代したほうがいいんじゃないかな?」
キラがサイに提案した。
「それは、俺も言ったんだけどフレイが俺の看病のほうがいいって言ってたから」
サイがキラにどこか得意げに説明した。
その説明にキラは、少なからず傷ついた。
サイは、飲み物をとると食堂を出た。
「キラ」
それにミリアリアが気づいた。
「いいさ。
どうせサイには、敵わないし」
力勝負では、おそらくキラはサイに勝てるだろう。
しかし恋愛勝負では、キラはサイに完敗していた。
キラは、モビルスーツデッキに向かった。
※
キラ少尉は、モビルスーツデッキにやってきた。
「どうした、キラ。
疲れた顔をして」
フラガ少佐が怪訝そうにキラ少尉を見た。
「少しショックなことがあって精神的に疲れてるんです」
キラ少尉は、恋愛問題のことは口に出さないようにフラガ少佐に説明した。
「なるほど。
お前みたいな若者は、悩みがつき物だからね。
誰かに相談は、できないのか?」
フラガ少佐は、キラ少尉に提案した。
「できません」
キラ少尉は、否定した。
所詮相談しても「割り切れ」といわれるのがおちだとわかっていたからだった。
「よし、いい機会だ。
ここは、体を動かして心のもやもやを打ち消そう」
フラガ少佐がキラ少尉に提案した。
「体を動かす?」
キラ少尉は、フラガ少佐に真意がわからなかった。
「そうだ。
深い悩みがあったら体を動かしてそれを和らげる。
一種の荒治療というやつさ」
フラガ少佐がキラ少尉に説明した。
「でも運動ってあまりやったことがないんですけど」
キラ少尉が告白した。
「だったらなおさらだ。
どんなに優れた操縦技術があっても体力がついてこなくちゃ正しい判断もできないからな。
まずは、小手調べに艦内一周。
展望デッキまで行って戻って来い。
制限時間は、2時間だ」
フラガ少佐は、メニュー内容を説明した。
「本当にやるんですか?」
キラ少尉が確認した。
「やるっていったらやるんだ。
とっとと走る」
フラガ少佐がキラ少尉をおした。
「わ、わかりました」
キラ少尉は、走り始めた。
※
静かな通路には、キラ少尉の足音と息遣いだけが響いていた。
時折すれ違う人がキラ少尉を怪訝そうに見ていた。
(アークエンジェルって思った以上に広いんだな)
キラ少尉は、改めてアークエンジェルが大型艦だと思い知った。
(真剣にランニングするのっていつくらいだろう)
キラ少尉は、自分が最後にランニングを行ったのか覚えていないほど久しくやっていなかった。
そのとき大量の袋を持ったミリアリア二等兵とすれ違った。
「あら、キラ」
ミリアリア二等兵がキラ少尉を呼び止めた。
「どうしたの、ランニングなんかして」
キラがだいの運動嫌いだということは、ミリアリアも知っていたため汗を流し艦内を走っているキラに違和感を感じた。
「トレーニングしろってフラガ少佐にしごかれて艦内を1周するんだ」
キラがミリアリアに事の経緯を説明した。
「艦内を1周するんだったらこれをお願いしていいかな?」
ミリアリア二等兵がキラ少尉に袋を渡した。
「これは、何?」
キラがミリアリアに聞いた。
「クリーニングした軍服よ。
これをそれぞれの部屋においておけばいいの」
ミリアリアがキラに説明した。
「コラ。
何サボってるんだ」
どこから見ていたのかフラガ少佐が怒鳴って現れた。
「す、すみません」
キラ少尉は、フラガ少佐に謝った。
「罰として制限時間を30分短縮」
フラガ少佐がキラ少尉に罰を下した。
「そ、そんな」
キラ少尉は、信じられなかった。
「口を動かす前に足を動かす」
フラガ少佐が怒鳴った。
「わ、わかりました」
キラ少尉は、再び走り出した。
「がんばって。
スポーツドリンクを冷やしておくから」
ミリアリア二等兵が走り去っていくキラ少尉に叫んだ。
キラ少尉は、まず居住区にカズイ二等兵の制服を持ってきた。
そこには、カズイ二等兵がいた。
「キラじゃないか。
どうしたの?
汗がびっしょりだよ」
カズイ二等兵は、キラ少尉の姿を見て驚いた。
「実は、ランニングしながらクリーニングした制服を配達することになったんだ」
キラ少尉は、カズイ二等兵に事の経緯を説明した。
「な、何言っているのかわからないよ」
カズイ二等兵は、キラ少尉の説明を理解できなかった。
「と、とにかくカズイの分はこれだね」
時間も限られているためキラ少尉は、早々に制服の入った袋を渡した。
「ああ、ありがとう。
でもなんだか汗のにおいが移ってそう」
カズイ二等兵は、洗濯したばかりの制服にキラ少尉の汗のにおいが移ってないか心配した。
「急がなくちゃならないからまた」
キラ少尉は、時間がなかったのでまた走り出した。
「あ、ああ」
カズイ二等兵は、そんなキラ少尉の姿を怪訝そうに見ていた。
キラ少尉は、次にノイマン少尉の部屋に袋を置いた。
次にキラ少尉は、私室に自分の分を置いた。
最後に隊長室にクルーゼ大佐の袋を持ってきた。
部屋には、クルーゼ大佐がいた。
「あ、あの制服を持ってきました」
キラ少尉は、ノックして部屋に入った。
「ご苦労。
それにしてもどうした?
汗だくでは、ないか」
そういうとクルーゼ大佐は、部屋にあったタオルをとった。
「これを使え」
そういうとキラ少尉に渡した。
「フラガ少佐にトレーニングを行うように言われて艦内を走っていたら制服の配達の手伝いも言われまして」
キラ少尉は、事の経緯をクルーゼ大佐に説明した。
「そうか。
フラガ少佐は、ああ見えて後輩の面倒を見るのが好きでね。
君は、気に入られたらしい」
クルーゼ大佐は、フラガ少佐のことを話した。
「そうだ。
君にだけトレーニングをさせるのは、上官としても悪い。
ほかのパイロットたちも誘おう。
悪いがフラガ少佐に伝えてくれないか?」
クルーゼ大佐が皆を誘おうと考えた。
「わかりました。
伝えておきます」
キラ少尉は、敬礼して部屋を後にした。
※
キラ少尉は、モビルスーツデッキに戻ってきた。
「た、ただいま戻りました」
キラ少尉は、疲れきっていた。
「きっちり時間内に戻ってきたじゃないか。
感心、感心」
フラガ少佐は、言われたとおり時間内に戻ってきたキラ少尉に感心した。
「クルーゼ大佐がほかのパイロットたちも誘おうと声を掛けに行ったそうです」
キラ少尉は、クルーゼ大佐からの伝令を伝えた。
「よし、それまでは休憩してていいぞ」
フラガ少佐は、キラ少尉に休憩の許可を許した。
「まだやるんですか?」
作品名:機動戦士ガンダムRS 第23話 マン・マシーンの恐怖 作家名:久世秀一