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桜色の告白

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四月、桜舞い散る綺麗な季節だ
ロサンゼルスでは見られなかった薄いピンク色の並木通りに僕と光は眼を奪われる
「ふふふ、なんだか光、日本人形みたいだね」
金髪も碧眼も真っ黒に仕上げ、黒い学ランの前を全開にした光は
外人の整った顔立ちもあり、はしゃいだ人形のようだ
「それ、日本では褒め言葉らしいな」
少し馬鹿にしたつもりが嬉しかったらしい、無表情がモットーの光の頬が綻んだ
「僕たちは転入生って扱いなんだよね?友達できるかな」
「中三だぞ?受験とかいうのがあるから誰も俺達みたいなのに構ってられないだろ」
「・・・そっか」
変な時期に転入してしまった悪運に思わず視線が落ちる
「落ち込むな、俺達はそんな事のために来たわけじゃないだろ」
「とはいえこの一年、何をして過ごそっかな」
辺りは登校中の中学生がひしめいてる、この地域を何度か探索したことはあるが自分達の通う学校にはまだ行っていなかった
行き先が分からないので僕達はとりあえず、一つの群衆になりかけている学生の集団に紛れ込んでいる
「火種となる情報が無いと俺も動けないしな、あのナイフも調べ尽くしたし」
「社長からの依頼を待つしかないのかな・・・」
「その点は追々考えていけばいいだろう、それより今は始業式?だっけ?ほら学校見えたぞ」
「へーあれが日本の中学校か!レトロな感じがするね」
桜並木を通り抜けると外装が少し黒ずんだ年季の入った建物が見えた
「ロサンゼルスと比べてやるなよ・・・」
「僕達同じクラスになれるかな?」
「日本のクラスは十近くあるって聞いたことがある、十分の一じゃあ、しんどいかもな」
新しい生活の期待感と不安感、その両方を抱いて僕等は門をくぐった

「やっぱりこうなるよな」
「隣なだけいいじゃないか」
下駄箱に張り出された大きな紙には
三年A組高波紅葉、三年B組矢畑光と書かれていた
「うまくやり過ごせよ」
「光こそね、じゃあ放課後ここに集合ってことで」
そして互いに自分のクラスに向かった

「ロサンゼルスから引っ越してきました、高波紅葉です。よろしくお願いします」
教卓の前に立ちながら、スパイ事業で身につけた営業スマイルを振りまく
「かわいー!」
「日本語上手ね」
などなど、クラスの女子が騒ぎ立てるが、僕はあまり嬉しくはない
「ねえ高波くん、彼女とかいるの?」
「い・・・いやまだ引っ越してきたばかりだし」
「部活とか決めた?」
「あ・・・特には・・・」
始業式が終わり、教室に戻ってもこの有様だ、クラスの大半が珍しいモノでも見るかのように寄ってくる
「隣のクラスの矢畑君も帰国子女らしいけど、友達?」
「ああ・・・光は親戚だよ」
「二人ともカッコイイわね!あ・・・高波くんは可愛い方かな?いいカップリングだわ!」
「カップ・・・・?」
日本の女の子はやたらと難しい言葉を使うみたいだ
「ほらお前ら席につけ、テストを始めるぞ!」
「えー初日から!?」
「軽い実力テストだ、三年生なんだからもっと気を引き締めたらどうだ?」
こんなに騒がしいのはこのクラスだけなんだろうか?
僕は早くもこのアウェイ感漂う空気に飲み込まれそうだった

配られた小テストに眼を通してみるとどれも簡単な問題ばかりだった
ドロワーズでこの問題を習ったときは確か・・・・小一あたりだったかな
僕は五十問ある問題を僅か十分で埋め尽くした
よし、全問正解間違いなし。
だがふと気づく
もしテストで満点なんかとったらまたクラスの人にはやし立てられるのではないだろうか
僕は全ての問題を書き直し、十五点分くらいに抑えておいた
「時間だ、後ろの奴は一列分集めて持って来い」
キンコンというチャイムの音と同時に担任が大きく叫ぶ
ズドンッ!
大きな音が隣から聞こえた
僕は何が起きたのかと反射で首を回す
そこには一人の少女が転んでいた
「ご・・・ごめんなさい!!」
顔を上げた彼女は大きな丸眼鏡をくいっと持ち上げ立ち上がった
綺麗な髪の毛を左右で三つ編みにしてお下げにしている、眺めのスカートからは白いソックス
そんな地味、というか文学少女の様な彼女だったが一際目立つ点があった、髪の色だ
僕は今朝通った桜並木を思い出していた、彼女の髪はまるで桜のような薄いピンク色だったのだ
日本人でもこんな髪の人がいるんだな・・・。
「あ・・・あの、テスト・・・。」
透き通った純度の高い声で催促してくる、だが僕の思考は停止していて彼女の言葉は脳みそまで届かなかった
それほど春の日差しの下で輝く彼女の桜色の髪は綺麗だった
「──綺麗な髪ですね」
無意識に呟いていた、彼女は頬まで桜色に染め、慌てた風に何か言葉を発していたようだが僕には何も聞こえなかった
近くに座っていたクラスメイトの声も、窓の外で囀る小鳥の声も
全ての情報が僕には届かず、時間が止まったように彼女の髪を眺めていた


作品名:桜色の告白 作家名:世界観