桜色の告白
「おお、遅かったな紅葉」
待ち合わせの下駄箱には既に光の姿があった
「ごめんごめん、なんかボーッとしてて」
「へえ、珍しいな」
「学校どうだった?」
「どうもなにも、やたら話しかけられるわテストは簡単すぎて間違うのが難しいわで面倒くさかったさ」
「あはは、僕と一緒だね、日本の学校は賑やかだよね」
「なんかあったのか?いつもより更に間抜け面になってんぞ」
丁度桜並木に差し掛かった
「すごく綺麗な人がいたよ」
「・・・は?」
この日は未来永劫僕の一番の思い出になるだろう
両親の鮮やかな赤色の思い出を塗り替えてしまうくらい、彼女の桜色は強烈に、鮮明に僕の脳に刻み込まれた
スパイ行為にて僕の仕事は、周囲に溶け込んで物事を観察することから始まる
そんな生活を小さい頃から仕込まれてきたんだ、この習性はそう簡単に抜け落ちるものではない
転入から一週間、この短期間で僕と光は完全に日本の学校、自分のクラスに溶け込んでいた
帰国子女という話題はすぐに収まりきらなかったが《至って普通のクラスメイト》というベストポジションに落ち着くことができた
次に観察だ、この場合は観察する対象がないという事で光は日々怠惰に任せ生きているらしいが僕は違う
僕の興味を引力の如く引き寄せる後ろの席の彼女
名前は佐伯咲結というらしい。僕が観察した限りクラスでの立ち位置は《髪の毛以外は何か地味な子》だ
眼鏡に三つ編みという古い容姿からなのか勉学を共にする友達もいないらしく
授業中も昼休みも放課後も、誰かと一緒にいるところを見たことがない
それどころか声を聞いたのが始業式の時だけという、隠キャラを極めたような人だった
そして今日は観察を止めて実践に移ろうと思う
まあつまり・・・会話だ
「佐伯さんって、眼悪いの?」
二時間目終了のチャイムと同時に振り向いて勢い任せに尋ねてみる
「・・・えっと!・・・・そんなに・・・・!」
佐伯さんは驚いたように手を左右に振り否定する
「てゆうことはダテ眼鏡って奴かな?」
「そ・・・そうです!」
「なんで?」
「あんまり目立つのが嫌・・・だから・・・」
「そのお下げも同じ理由?」
「はい・・・この髪の色が昔から好きじゃなくて、どうにか目立たないように・・・」
「そんな勿体無い!せっかく綺麗な髪なんだからもっと見せつけてやればいいのに!」
思わず声が高ぶった
「綺麗だなんて・・・そんなことないです・・・よ」
何故だか佐伯さんは塞ぎ込んでしまった
これ以上の追求は嫌がられそうだったのでその場は退いた
だが僕は諦めていない、どうしようもないくらい彼女の素顔が見たかった
キーンコーン
昼のチャイム、クラスの人達は持参した弁当を出し数人で机を囲んでいたり、一階の購買に買い出しに行ったりしている
佐伯さんはいつものように一人机に小さな弁当を取り出していた
「ねえ屋上いかない?」
「わ・・・私ですか?」
「僕の後ろには佐伯さんしかいないけど」
「・・・あ・・・・いいですよ」
断ろうとしても理由が見つからなかったのだろう
苦笑いを浮かべて彼女は立ち上がった