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嘘つきへーくんと壊れた×× 『真実の証明は嘘』

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 他の部屋のドアノブには、全部埃が積もっていた。どの部屋も長期間使ってない証拠。高校生の少女一人が暮らすには、一軒家なんて広すぎる。
 事件後にあーちゃんを引きとったっていう親戚の人は、どうして彼女をここで一人暮らしさせているんだろう。
 調べようと思っていたけど、まだ手が回らない。その前に、あの死体が出てしまったから。
 一人なんて寂しすぎる。それにこの部屋は、なんだかあの時の部屋に似ているよ。おれは空寒い。眠れない。

 おなかがすいていた。ぐったりとつかれているのに、ねむれなかった。
 おれは口を半分あけたまま、となりでよこ向きにたおれているあーちゃんの背中をながめていた。
 真っくらな中に、あーちゃんの白いはだがうきあがって見える。
 あーちゃんはさっきの最後のかっこうのまま、ゆかにほほをくっつけて動かない。うすいワンピースの布きれ一枚から、白い両足が生えている。
 あーちゃんは眠っている。きぜつしているのかもしれない。太ももをなんどもこすり合わせている。きっと眠っている。さっきの悲鳴が耳の後ろにきこえてくる。
 おれは立ち上がって、あーちゃんの顔の向いている方に、回りこんだ。
 あーちゃんはじっと目をつむっている。
 苦しそうに、はなと口とむねが動いている。
 おれはあーちゃんの顔にむかって手をのばした。
 おなかがすいていた。
 おいしそうだと思った。もちろん、人間は、食べ物じゃないけど。だから食べないけど。
 食べたらあいつはよろこぶんだろうな。さっきも、あーちゃんをいじめるように命令したあいつは、そのようすを見ながら、ほんとうに楽しそうに笑っていた。
 またあいつは笑っている気がする。笑っているこえがきこえる。
 いないのに。いないのに。
 耳がいたい。あいつのきーきー笑う声がこわい。

 眠れない、と思いながら眠っていた。
 変な体勢で寝たから体中が痛い。主に筋肉が痛い。この間までの病室の堅いベッドも、大の字になって寝れるという意味では、本当にありがたいものだったんだなあ、とか今更になって実感する。
 雨戸を閉め切った部屋でも、不思議な事に朝が来たのはなんとなく判る。空気が変わる感じがする。簡単に言うと、慣れという経験値による感覚。閉めきった部屋に閉じ込められた記憶から形成されたもの。子供の頃に身につけた感覚は、一生抜けないって話だし。
 ソファの背を這い上がるようにして起き上がり、壁にかかった時計を見て朝を堪能する。丸い文字盤に蛍光塗料の塗られた緑色の針が三本、鬼ごっこをしている。
 六時。二時間半しか寝てない。
 昨日の深夜の事件のことを考えると、しかたがない。
 あーちゃんの寝息がかすかに聞こえてくることに安心を覚えた。
 おれは朝が好き。それはずっと小さな頃からの習性で、朝が来ると色々リセットされるような気がする。テンション上げて、今日もがんばろうって気になる。これはたぶん、毎日朝早くから必要もないのにシャッターを開けてしまうオヤジの教えの賜物。
 これから、やることがたくさんある。ひとまず今日を開始するために蛍光灯を付けると、部屋が白々しく明るくなった。
 泥の散らばった床が明るみに出る。まずは掃除。この家、雑巾はあるのかな。
 その後に朝食を作って、着替えを準備して、あーちゃんを起こして、シャワーでも浴びてもらって、着替えて、御飯食べて、学校。
 手順を考えながら、同時進行で床を拭くのだ。雑巾は洗面所の棚の中にあった。洗面所に行ったついでに顔も洗った。素早く。
 何しろあーちゃんが起きる時間まで、三十分の猶予しかなかった。その筋の情報によると。そうなると、起きてくる前にご飯と着替えの準備ぐらい終えて、「朝だよ、僕のあーちゃん」とかやってみたいとか、思いついちゃったりして。
 完璧主義も過ぎるんじゃない、とはたまに言われる。それ以上に、おせっかいだよねって言われる。しかしそんな自分も嫌いじゃない。
 次は朝食の準備。手持ちの食料は何一つ無いので、勝手にこの家の冷蔵庫の中身を使うことにする。
 おれの予想に反して、あーちゃん一人暮らしの冷蔵庫の中には、結構な量の食べ物が入っていた。そもそも一人暮らしなのに、家族用の大型冷蔵庫があるのも不思議で、この些細な不思議の中に事件のヒントが……なんて考えてみたけど、とりあえず中身全てを漁ってみた結果、人肉のようなものは入っていなかったので安心している次第だ。
 昨日バラしてた死体の一部が入ってたりしたら嫌だなって思ってさ。
 杞憂でよかった。まあ、加工してあったら判んないんだけどね、肉。
 朝ごはん用には、パンと卵とベーコンを盗用することとした。このベーコンは多分人肉ではない。なぜならスーパーでよく売ってる小分けの真空パックに入ってるから。裏にも原材料豚肉って書いてあるし。
 ところで、料理をするのは今朝が生まれて初めてだというのは絶対誰にも内緒の話にしておきたい。
 単に今までは機会がなかっただけです。できないってわけじゃない。
 トースターの使い方はトースターに書いてあるし、バターでも準備しとけばいいんだろうし、目玉焼きの作り方ぐらいテレビとかで見たことあるし、ベーコンも焼けば食えるってことぐらい当然知ってるし、そもそも食ったことならいくらでも有るわけですし。自分で言うのもなんだけど、かなり器用な方なので、料理ぐらい。
 と思ったけど、パンは焦げた。
 焦げた部分はおれが食べればいいんでしょ。些細なことだ。それ以外は立派な見栄え。目玉焼きは崩壊したけど。そういう見た目のメニューもあるから別にいいんだよ。白身と黄身が分離気味のスクランブルエッグ。
 うまく取り繕った二枚の皿をソファー前のテーブルに準備して、時間だ。六時半。
 浮かれきった足取りであーちゃんの泥だらけのベッドに向かった。これは××のつもりで、おれは既に心底トリックスター気取りなのだ。
「朝だよ」
 そう言ってベッドを覗き込んだ。
 イメージとしては、洋画の主人公の男。ジャンルはアクションとかミステリーとか。事件が起こる前の穏やかな朝、朝の準備を終えて上機嫌で妻と子供を起こしに向かう優男。統計的に、悲鳴の展開まで数分前。
 現状としては、事件は起こった後だけど。
「だれ?」
 泥だらけのベッドの中で、あーちゃんが大きな目で瞬きをした。眼球だけをぎょろりと動かして、こっちを睨んだ。
 起きてたんだ。いつの間にか。どうやら、あーちゃんは目覚まし時計とか必要ないタイプみたい。
「おはよう、あーちゃん」
「あっ」
 眠そうだった目が、ぱっと明るく光った。
「へーくん!」
「うん」
 おれは努めて冷静に、頭の中で苦労して組み立てた脚本を読み上げた。バカバカしい行為だと笑われるかもしれないが、これが現状と将来を守るのに大切なことだった。
「どうしてここにいるんですか?」
 目をぱちぱちさせている所を見ると、どうやらあーちゃんはこの状況が不思議でしょうがないらしい。
 何でだ? 記憶の整合性がない?
 おれを無理にこの家に連れてきたのはあーちゃんの方だったはず。
「昨日一緒に住もうって言っただろ」
「昨日? 夜中?」
「夜中? 違うな、学校から帰る途中」