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嘘つきへーくんと壊れた×× 『真実の証明は嘘』

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 ちゃんと、自分の手で刃物を握って、立ち上がれば良かった。おれが全部終わらせてしまえばよかったんだ。
 それだけを後悔している。

□九、踊るプリインストール絵文字、加えて何かしらの面目躍如
 今更ながら気がついたことがあるんだけど。
 学校って楽しい。
「今日も元気に七時限中六睡眠。おはよう、兵助くん」
 飯も食える。
 本も読める。
 立派な服を着ていい。
 トイレにも行ける。
 とりとめのない会話が自由にできる。
 喋っていい。好きに喋っていい。
 親友のような感じの相手もできた。
 楽しい。
「目を開けて?」
「起きてはいる」
「さっき授業中殴られてたのに」
 そうだ、一つ前の社会の授業中、居眠りを咎められて教鞭で引っ叩かれた。
 痛くなかった。その場では目が覚めた。
 さして痛くない。この程度でいいのか。非情に喜ばしい。
 教師は、「ちゃんとやれよ」と怒るように茶化すように言った。恐ろしくもない。優しい。嬉しかった。この程度でいいんじゃないか。相手に命令するっていうのも。これが普通のやり方なんだ。
「そしてまた寝る」
 さっきから鬱陶しい勘右衛門が、何かの角でおれの頭を叩いた。
 痛くない。
 そうだよな。痛くなくてもいいんだよ。こういう程度のやり取りっていうのが正常か。
 楽しい。
「どうしてそんなにいつも眠そうなの?」
 授業は全て終了しましたっていうのに、勘右衛門がしつこく絡んでくるのはいつもアレだ。
 担任命令により面倒な経歴な上に実は不真面目だった転入生の世話を行なっているのと、ご自身の誰からも強制されない自由な激しい欲望、野次馬根性。
 何度も言うけど。
 これも、おれは楽しい。
「今日はテンションが高い」
「は? お前が?」
 机に突っ伏したまま、おれは喋った。
「眠いのは長年の乱れきった生活リズムを修正しきれていないからなんだけど」
「ほー」
「眠くてもテンションが高い」
「なんで」
「世紀の大発明をしたような気分」
 勘右衛門が首をかしげた。そりゃそうだ。おれのテンションが高い理由はおれにしか判らない。
「発作みたいなもん」
「ああ」
 何故か深く頷いた。
「そういう……アレ?」
「どれ?」
「お薬?」
「うん。依存性がある」
 おれは流石に頭を上げた。本当に勘右衛門はそこにいるだろうか、と不思議に思った。聴覚だけたった一つの情報なんて、ちょっと不安定じゃないか。
「まじで」
 勘右衛門は薄ら笑っていた。まあ、馬鹿な冗談を言い合っている空気なんだ。
 現状の、今の、この多幸感というのは、正にトラウマの逆発作って感じのやつだ。地球は美しく人類みな友達で世界平和を乱す相手は見つけ次第一列に並べて順番にぶっ殺してやる。なんだってできるなんだって君のためならなんだってできる。
 鎮静剤が必要なほどの状態じゃない。医者のお墨付き。
 昔の、監禁から開放された直後は、この世の地獄から開放された反動で、何もかもが素晴らしく見えた。目も当てられないほどハイテンションな子供だったのではないだろうかと思う。そんな昔のこと覚えてない。
 塞ぎこむような子供ではなかった。とにかく何もかもが嬉しくて、何もかもを知りたかった。
 一応時間の経過とともに、それなりのお年ごろとして落ち着きを身に着けてはきたんだけど、まあ、たまにこういう発作はある。
 世の中素晴らしくって、どうしよう。
「帰んないの?」
「悩んでる」
「何を? 帰るかどうか?」
 勘右衛門はおれの机の上に勝手にカバンを置いている。さっきおれの頭を殴ったのはこの薄い通学カバンの角だろう。
「友達から変なメールが来てて」
 おれは額の下に置いていた携帯を開いた。つまりさっきまで携帯を枕として使用していた。
 さっきまで寝ていたいおれが枕に使っていた携帯には、大量のメールが届いていた。
 さっきまで寝ていたので、一通も返信していない。返信していないにもかかわらず。
 恐らく奴が朝起きた瞬間から、本日最後の七時間目の終了時点で四十四通。内訳。一行のみメールが二十七、画像つきのが最初のを含めて六。おれが返した返信が一。
『うるさい』
 もちろんこれは嘘で、学校にいる間はマナーモードにしているので別に煩くはない。
 で、その返信が六行。内容は割愛。
 送られてくるメール全てが、絵文字を駆使した賑やかな仕上がり。とてもじゃないがおれと同程度の文明レベルの人間とは思えない。この二週間ほどの短い期間での、奴の現代若者的メール技術の習得ぶりには、驚きを隠せなでいる。
 奴は恐ろしく暇なのか、依存症か何かなのか、それとも何か考えがあるのか。
 勘右衛門はいつもの通り前の奴の椅子に後ろ向きに座り、おれの前に居座った。白々しく光る携帯を覗きこむ。
「相談なら乗るよ」
 相談だとは言っていない。まあ、勘右衛門に話題を提供してしまったら、そういう反応になるなんて判り切っていた。
「迷惑メールを振り分けたい」
「説明書を読め」
 生憎手元にない。
「まあ、そういう設定はいじってりゃその辺から出てくるって。機械苦手なの」
「これ買うまで触ったこともなかったから」
「今時珍しい奴ね」
 また受信中の画面が出てきた。机の上で本体端に埋められた発光ダイオードが青、白、緑の順に点滅している。これは非生命的な色で好きだ。それから目を離さずにいると、勘右衛門は少し息を呑むような真似をした。そのゆるい動きが視界の端に入った。
 驚いた。奴は、気まずく思った。鈍いタイミングだが、どうもそうらしい。罪悪感? 仕草はわざとらしく――でもない。
 考え過ぎ。お互い様で。
「つうかさ、おれはお前のメアド知らないよ」
 話が切り替わる。しかしながら依然としてバツの悪そうに、言った。
「先週の頭に買ったばっかりだし」
「転校初日だな」
 先週の頭のことだ。おれがここに戻ってきてから、既に十日近く経過している。何とか無事生き延びている。世間様に感謝。
「貸して」
 言いながら、勘右衛門は自分の携帯を取り出し、おれの携帯を奪って何やら操作し始めた。
 何をやっているのか理解できないので、取り敢えず観察。
 両方の携帯の頭をカチンとぶつけた。外枠の隙間に、濃い赤紫のプラスチックが嵌め込んである辺りだ。
「赤外線通信?」
「そうよ。おれのアドレス入れてあげたからね」
「ふーん」
「殺人犯に遭遇したら真っ先にメールか電話かしてくれよ」
「警察の次にする」
「そりゃそうだ」
 と、頷いた。
「で、これが友達?」
 再び机の上に置かれたおれの携帯の画面の上を、勘右衛門の指がなぞる。
 受信メールの差出人に斉藤タカ丸、との表示。
「知らない?」
 意外だったので、疑問で返した。
 奴は、そこそこの有名人である――と思っていた。少なくともこの地元では、おれと同じぐらいのレベルに。
「いや、全然知らない」
 勘右衛門はあっさりと答える。
 そういうものか。そういえば、おれも奴の名前を知ったのはつい先日の話だった。存在は記憶してたけど、あまり実名で報道はされていなかったからだろう。