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嘘つきへーくんと壊れた×× 『真実の証明は嘘』

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 場所は、あの駅前のファミレスだ。先日、深夜徘徊のち死体遺棄事件を決行するあーちゃんのストーキング時に通りすがったあれ。過疎化が進行するクソ田舎であっても、夕方のこの時間のレストランは混み合っている。幸いなことだ。
「ご注文は?」
 若いウェイトレスが注文を取りに来た。おれの覚え違いじゃなければ、彼女は先日の目撃者の片割れだ。おれの顔は見られていない。
「コーヒー。兵助、お前は」
 名乗ってもいないのに、馴れ馴れしくも名前を呼ばれた。不愉快というか、不気味だ。勘右衛門が口元で笑っていた。笑いをこらえていた。この展開は勘右衛門の望み通りだ。
「なんでも。おごりですよね?」
「ん、まあな。コーヒーでいいか」
「おれはこのハンバーグセット一つ」
「コーヒーおふたつ。ハンバーグセットおひとつ」
 ウェイトレスは無感情かつ怠惰に注文を復唱し、ちろりと目玉だけで客三人の顔を見回すと、返事も聞かずに立ち去った。もう少しまともに店員教育はすべきじゃないだろうか。
「あ、ちょ、ちょっと」
 当惑した弱い声で男は彼女を呼び止めようとしたが、田舎のファミレスってのは家族連れが多く非常に賑やかなものでして、近くの席で泣き叫ぶ赤ん坊の声にかき消されてしまった。
 女の背中に縋って曖昧に伸ばした男の手の行き場がない。
「もっと声張り上げないと駄目っすよ」
「押しが弱いんですね、警察官の割には」
「おれが警察だとか職業がなんだとか押しが強いとか弱いとか関係ないだろうが! 何なんだお前は!」
「ら?」
 一応聞き返してみた。
「ら? は? 何だ?」
「複数形じゃなくて良いんですか」
「つまりさ、兵助、こいつはお前の正体を知っているから、この場合の疑問系は単数で済まされるわけ」
「まあ、そうなんだろうけど」
「名推理?」
「そんなのは事件の関係者を小部屋に集めてからやるもんだ」
「その日は近いな、この流れで行くと」
 呆れ切った顔でやりとりを眺めていた男が、深くため息を吐いた。
「そう、そうだ、お前だ。お前だよ。お前は誰なんだ。何でついてきたんだ。何でよりにもよって一番高いメニューなんだ!」
「一番でもないですよ。上から四、五番目ぐらい」
「お前な、公務員っつってもな、おれみたいな下っ端は悲しいぐらい薄給なんだぞ!」
「あ、奢ってくれるんですかぁ。なんだか知らないけど、ご馳走様です」
 あ、怒っている。俯き気味になった顔の筋肉が小刻みに痙攣している。机の上に乗せた右の拳が固く握られている。
 この人、見た目通りかなり気が短いな。
「何なんだよいったい」
 目の前に二人も人間が存在するというのに、独り言を言った。
「まあ、このくらいの年齢のガキなんて基本生意気なものなんですから、こいつが特別ってわけでもないんで。本気にならないほうがいいですよ」
「どんなフォローだよ」
「はぁ」またため息を吐いた。「で、そっちの少年、君は誰で、何で付いてきたんだ」
「黙秘権が――」
「こいつは尾浜勘右衛門って名前で、同じ高校のおれの友達でクラス委員長で、趣味が探偵ごっこで、住んでるのは学校から徒歩二十分ぐらいの」
「ちょっと久々知くん、人の個人情報を勝手に開示しないで」
「友達、ってのはわかったよ。何でついてきたんだ」
「野次馬精神から」
「そんなにばっさり切り捨てないでよ。まあ間違っちゃいないんだけどさ。おれは、ま、立会人、オブザーバー」
「野次馬、通りすがり、他人、第三者」
「そんな所。何かあったとき、目撃証言が必要でしょ」
「何があるっていうんだ。警察を疑うのか」
 また怒っている。勘右衛門の言い方が屈辱的であるのは理解できる。法に一切かすりもしない程度に。
「こいつがなんかするかもしれないでしょ」
 等と勘右衛門は言い、こっちに人差し指を向ける。
「おれが?」
「お巡りさんもそれを疑っている」
 ぎょっとした。さっきから警官相手に、よくそんなことが言えるものだ。おれは薄笑う勘右衛門の顔を見て、それから眼球だけを動かして警官を見た。奴はおれ以上に驚愕した顔をしていた。
 この人はこんなに感情を顔に出して、仕事は務まるのだろうか。
「いや、ただ、おれは行方不明者の捜索を行なっていただけで」
「捜索願を出したのはおれの父親ですよね」
「そうだ」
 当然。おれに他の身寄りはない。以前は高校にも通っていなかったから、他に失踪を知る人間はいない。生きた人間の中には。
「父親が何か言っていたんですか」
「何かって」
「おれの前でとぼけたって意味無いでしょう。普通、捜索願を出されたからって警察が真面目に人探しをするわけじゃない。捜索対象になるのは、対象の普段の生活とか失踪前後の状況から判断して、犯罪に巻き込まれたとか、そういう疑いのある奴だけ。ということは、何を以ておれが異常な失踪だと判断されたんですか?」
 疑問詞を投げかけられた時、奴の眉間がぴくりと動いた。おれの発言の間中、こっちを凝視していた眼球が右側に泳いだ。
「そりゃ、不審に思うよな」
 独り言ち、視線をおれから逸らしたまま、机の上を右手の人差し指でトントンと叩いた。右利きらしい。
「コーヒーの方お待たせいたしました」
 黙り込んだテーブルに、急にウェイトレスが割り込んできた。注文を取りに来たのと別な女性だった。二つのコーヒーカップを並べながら、不思議そうにおれの顔をのぞき込んだ。目が合う。慌てて逸らされる。逃げるように席を離れる。
「そうだな」
 と、一人で納得したように、警官は頷いた。
「順を追って説明しようか。いや、まず最初に言っておくが、そっちの少年」
「尾浜勘右衛門です」
「お前の発言は不遜で不正解だ。おれは別にこいつを疑っているわけじゃない」
 これは嘘だろう、と推測した。
「別に……なんというか、その、別に久々知少年が家出したことと何かの事件を結びつけているわけではないんだ」
「もっと自然な取り繕い方はありませんか」
「いや、本当に。少なくともおれは。あー、いや、警察としては安易に容疑者を絞り込んだという事実はない」
 下手な嘘というのは、聞いている側をいたたまれない気分にさせるものだと判った。
 誰も事件がどうとかそんな話はしてない。
「面白いなあ」
 勘右衛門がおれの耳元で言った。結構なことだ。
「警察がおれを疑っても疑わなくても何を考えているのでもなんでも別に構いません。そういうのには慣れてます。おれは父親についての話を聞きたい」
「一つだけ言わせてくれ。おれだけは本当に、お前を疑っていない」
 何についてのどのような容疑に関する話で、一体どうして初対面の赤の他人の男におれは庇われているのか、というのが致命的に抜けている会話なんだけど、前半は予想がつくのでどうでもいい。後半も赤の他人の個人的感情に基づいていることが予測されるのでどうでもいい。
 だから、
「そうですか」
 と、答える他無い。
「お前は親父と似ていないな」
 男はどこか悲しげに言った。おれにとっては喜ぶべき評価だ。
「いいか、お前には捜索願が出ているんだ。出したのはお前の実の父親だよ。失踪時の状況は父親が証言した。といっても、ある日の夜ふらりと外に出ていったきり帰ってこない、ということだけだったが」