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嘘つきへーくんと壊れた×× 『真実の証明は嘘』

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 でも毎日夜が来るたびに、そんな風に壊れていたんじゃ、社会復帰なんて到底できない。彼女はきちんとした手順を踏んで精神病院から退院しているわけだから、一応普段の生活ではそのトラウマに耐えることができる。気を紛らわせるとか、素早く寝てしまうとか何とかして。
 そんなわけで彼女はものすごく早い時間にベッドに向かうらしい。夕方の薄暗くなる時間には既に。
 目を閉じて、その暗さは大丈夫なんだろうか。彼女にとっての暗さというのは、周囲の総合的な状況なのか、網膜に映る光の量なのか。どんなクオリアを得たら、あーちゃんは恐れるところの暗さへと繋がるのか? そんな深い部分の心理なんて知らないが、多分、眠っている彼女は大丈夫じゃない。だからこのぐらいの時間に、一度目を覚ます。
 そしてふらふらと夢遊病者のようにして外に出ていってしまう。
 もちろん今日も出ていった。心配だ。またその辺で流血沙汰になっているかもしれない。既に何らかのご近所迷惑かもしれない。
 だったら出て行く前に止めればいいと思うかもしれないけど、それはそれで抑圧された彼女のストレスが蓄積されてくかもしれないので、気が引けるわけだ。言い訳だけど。
 深夜徘徊がここのところの彼女にとっての大きなストレス発散であるのは間違いないようなので、泳がせておく。
 そして頃合いを見て、様子を見に行く。場合によっては救急車やお巡りさんを呼ぶ。彼女の脛に不要な傷が付く前に。事が面倒にならないように。こんなに献身的なストーカー、そうはいないだろう。
 しかしながら、ストーカーを自称するおれだが、実際のところのストーキングはこのように深夜が主であり、昼間、学校での行為はお遊び程度のものである。四六時中張り付いているわけでもないし、無限FAXもしないし、携帯の着歴を自分の番号で埋めることもしないし、ドアの前に夥しい数の鳩の死体を置いたりもしないし、望遠鏡は持ってないし、カメラも持ってないし、はっきり言ってストーキングその筋の方から言わせればヒヨッ子以下である。未熟者めとの謗りも甘んじて受けなくてはならない。正しいストーキングの作法のご指導もいただこう。とはいえ、おれはちゃんと理性に基づいて言い返すだろう。「でもそれって犯罪ですよね」
 そんな未熟なストーカーではあるが、あーちゃんの最近のお散歩コースは把握済みだ。だから慌てることはない。
 とはいえちょっとゆっくりしすぎたかもしれない。テレビに見とれていた。実はあの女子アナの大ファンで、自分の起こした凶悪事件をニュースで解説してくれるのを楽しみにしていたのだ。彼女の優しい低い声で、おれ陰惨さを事細かに暴いて欲しかった。人には言えない猟奇的な趣味。嘘だけど。そんなこと、考えたことはない。
 あーちゃんは閑散とした住宅街を出て、閑散とした駅前を通りすぎて、また別な閑散とした住宅街へ向かう。田舎だし深夜だから閑散としてない場所がない。
 あーちゃんが住んでいる住宅街は、新興の住宅街だった。十年前に、新しく計算された美しい住宅街という計画で開発が始まったらしいけど、未だに入居者が少なくてマンションも、建売の一戸建ても土地も余っている。それはおれにとって好都合だった。
 おれはそんな閑散とした住宅街から、最寄りの駅に向かう。これはあーちゃんが通ったであろう道をなぞっている。途中で追い越しちゃうと面倒なので。
 最寄りの駅は徒歩で三十分ぐらいかかる。かなり急いで三十分。あーちゃんが家を出たのが、おれが家を出る二十分前。駅を通過するより前に、とりあえず追いついておきたい。
 やっぱり少し出遅れた。走れば追いつくだろうけど、深夜に走っている少年は結構目立つと思うので、自重する。
 駅前のスーパーを通過。夜十時でシャッターの降りたスーパーは薄ら汚れて廃屋にも見える。不気味なほど誰もいない。昼間にはあんなにうじゃうじゃ溢れているくせに、なんというか理不尽さを感じる。
 この少し先に、二十四時間営業のファミレスがある。そこが最大の難関である。
 何しろ犯罪者とそのストーカーなので、目撃証言にはとても弱い。有罪、無罪の分かれ道。目撃証言さえあれば、他にどんな物的証拠も必要ないわけだから。
 田舎のファミレスなので、深夜に客なんていない。でも全国的に二十四時間営業で展開している建前、いくら暇でも店を開けて置かなければならないのが田舎のフランチャイズ店の悲しい所。無駄遣いの電力と人件費で店全体が四角く煌々と光っている。
 店内にはウェイトレスが一人と厨房に男が一人。二人は暇そうに、厨房のカウンター越しに喋っている。一応、ウェイトレスは入り口に視線を向けている。店の前を通る人間は、誰であろうと彼女の視界に入るだろう。ちょっとした記憶に残るだろう。なにしろ、夜に歩く人間なんてほとんどいないんだから。
 店の少し前で、追いついた。あーちゃんは目撃者への警戒など全く頭にないようで、ファミレスの前を何の造作もなく通りすぎていく。昼間みたいに明るい一角を、薄い緑色のジャージを着た彼女が通りすぎる。それはパジャマですか?
 ウェイトレスが、ふと厨房の方を向いた。何か言っているのだろう。すると厨房の男は顔を上げカウンターから少し首を突き出し、ガラス張りの壁の向こう、通りの方を眺めた。物珍しく思っているに違いない。きっとこの後の二人の話題になるだろう。目撃者二人。
 おれはそういうリスクは嫌いなので、素早く店の裏側へ迂回する道へ入った。表側の無意味な明るさがバカみたいに思える、真っ暗な住宅街の裏道だ。食用油の匂いがする。
 裏道から通りに出る交差点で、おれは少し足を止めた。建物と電柱の影に隠れて、彼女が目の前を通過するのを確認。
 あーちゃんは前だけを見ていて、おれがこのような至近距離にいることには気が付かない。
 そうしてやり過ごした後、おれはさらに距離を詰めて、彼女の背後を追い始める。
 彼女の足取りははっきりしている。したがって夢遊病なんかじゃ、ない。起きているように淀みなく行動する夢遊病患者もいるらしいが。
 あーちゃんの深夜徘徊には、目的地がある。
 無言で歩き続ける彼女。無言で追うおれ。気がつくと、周囲はまた非常に閑散とした住宅街へ変わっていた。一応さっきの駅前はこの辺では栄えているということになっている。それでも深夜に人影なんてないけど。
 この辺りは、あーちゃんの家がある所とはまた別な田舎具合で、畑とか林とかが小規模にいくつか点在している。並んでいる家も、大きくて古い。そしてどの家も、電灯は消えている。幸せなご家庭は眠っている時間だから。街灯も少ない。とても暗い。幸せな人々には、夜の街灯なんて必要ない。
 あーちゃんは、懐中電灯で足元を照らしながら、歩いていた。
 実はおれも持ってきてる。準備がいいので。でもおれは結構夜目がきくので、この程度の暗さは気にならない。従って懐中電灯は使わない。自分の存在をわざわざ周囲に知ら示すような行為は、今のところ必要ない。
 そして彼女は、畑と古い大きなマンションと並んでいる雑木林の中へ進んでいった。