「ヘタリア」【プロイセンの一日】
「ああ、ちげえねえ。今はどこにも「敵」がいねえ。貧困とか格差とか、戦う相手を人類は失ったんだ。外敵がいねえならそれを作り出すのが「人」だ」
「・・・・平和的に解決できると俺は思うが・・・・」
「今、独立して自分達の文化を守った気でいる。でもよう、こういう平和は息詰まる。その時、どこが、誰かが「敵」を見つけてそれを一斉に攻撃するようになる」
「・・・・・そんな事にさせないのが俺達の役目だと思うが」
「俺だって戦いたいわけじゃねえよ。まあ、その時が来たら俺はお前を守り通すだけだけどな」
「兄さん・・・・・俺はいつまでも貴方に守られてるだけの「国」ではない・・」
「わかってるって。お前は俺よりも強い。それにお前こそが俺の生きている証だからな」
「・・・・・今日は・・・その話はやめよう・・・・今日俺は兄さんを祝いたい」
「すまねえ、ヴェスト。ちっと感傷的になっちまった。さ、戻ろうぜ。主役がいなきゃあせっかくの祝いもだいなしだろう?」
「ああ・・・・・」
ギルベルトの不吉な予感は当たることとなるのだが、それはまた別の話。
「さあ、プロイセン・ギルベルトの、「国」復活を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
何度目かの乾杯が行われた時だった。
ふと、めまいを感じたギルベルトはグラスをとっさにテーブルの上に置いた。
「酔っちまったみてえだな。ちょっと向こうで休んでくる。楽しんでてくれ」
そう言って隣室に行ったギルベルトは、ドアを開けたとたんに猛烈な頭痛を感じて倒れ込んだ。
どさりと鈍い音がしたような気がしてルートヴィッヒは気になって隣の部屋を覗いた。
「兄さん!」
部屋の中でギルベルトが倒れていた。
すぐに駆けよって助け起こした。
「どうしたんだ?!兄さん!!しっかりしてくれ!!」
「どうしたのドイツ?ああっ?!プロイセン?!」
すぐにギルベルトは意識を取り戻した。
「兄さん!!大丈夫か?疲れたのか・・・」
「横にならせるといいよ。向こうの部屋、暑かったものね。大丈夫?プロイセン」
「・・・・プロイ・・・セ・・・ン?」
「兄さん?」
「プロイセンって誰だ?なあイタリアちゃん」
「誰って・・・?」
「兄さん・・・酔っぱらってるのか?今水をもってくる」
「お前・・・・誰だ?」
「プロイセン?!どうしたの?!」
「プロイセンって・・・なんだよ?俺は「ドイツ騎士団」だぜ。なあ、イタリアちゃん」
「き、騎士団って・・・・どうしよう・・・ドイツ!」
「兄さん・・・・・ふざけてるのか酔っぱらってるのか?いい加減にしないと・・・」
「お前・・・誰だ?えらくごつい奴だな?おいイタリアちゃん、こいつ誰だ?」
「・・・・・・お前の弟なんだよ!!プロイセン」
イタリアが思わず叫んだ。
「何を言って・・・・」
ぐらりとギルベルトの体がまた揺れると彼は意識を失った。
「兄さん!!」
「プロイセン!!」
ギルベルトはすぐに寝室に運ばれ、来客には彼が酔ったといってパーティを続けてもらっていた。しかし部屋のすぐそばにいた数人の「国」はギルベルトの異変に気付いた。
「・・・「ドイツ騎士団」と言っていたな。プロイセンは。国名変更時に「国体」に起きる記憶の混乱だろう。」
「そうだな、シュバーベン。俺にも身に覚えがある。数世紀ぶりに国に戻って2日目の事だったが・・・・。俺は神聖ローマ帝国時代の名前を名乗ったそうだ。プロイセンの症状も同じだろう・・・・こいつは特に「亡国」だった時間が我らよりも長いからな」
「そうなのか・・・兄さんのこの症状は・・・・」
「心配するな、ドイツ。きっとすぐに元に戻る。そろそろ夜も更ける。我々は残るが、他の客には帰ってもらおう」
「・・・・・・・」
ブランデンブルクと兄国家達二人がギルベルトの部屋に残り、ルートヴィッヒは他の客にお開きの挨拶をしにいった。
招待客がにこやかに帰っていった。ふと、オーストリアが怪訝な顔をしてルートヴィッヒを見た。
「プロイセンは本当に酔っていたのですか?」
「え?ああ、まあそうだ。心配しないでくれ」
「ふうん、貴方がそんなことを言うという事は・・・・」
「ギルベルト・・・・どうかしたの?!」
エリザベータが瞬時に真っ青になった。
「いや・・・ちょっとひっくりかえっているだけで・・・大丈夫だ。ハンガリー」
「そう?・・・・でも・・・」
「さあ、夜も遅い。明後日はまた別の「国」の祝賀会があるだろう?帰って休んでくれ」
「ええ、そうしましょう、ハンガリー」
「はい・・・オーストリアさん」
なんとか全員客が帰った後、ルートヴィッヒは残ったシュバーベンとブランデンブルク、それにポンメルンにイタリア・フェリシアーノにコーヒーを入れると兄の様子を見に行った。ギルベルトは眠ったままだ。
「・・・お前は休みなさい。我々がギルベルトを看ていよう」
「いや、俺も・・・」
「ルートヴィッヒ。お前は明日仕事だろう?任せなさい。我らは「国」と言ってもまだヒマだ。明日お前が仕事中はギルベルトの様子はビジフォンで伝える」
「・・・ではお願いします」
翌朝、ギルベルトはまだ自分が「ドイツ騎士団」だと思っていた。自分の体が年を取っているのに驚いていたが・・・・。
「さて・・・そのうち治るだろうが、こやつの場合、長くかかりそうだな」
「亡国だった時間が長かったのに比例するのだろうか?こういう混乱は」
「ああ多分・・・・俺の場合は1日で治ったからな」
「私はなかったな」
「うーん」
次の日もギルベルトは騎士団の意識のままで、23世紀の便利な生活グッズの使い方がわからずルートヴィッヒや兄弟達を困らせた。
「だから風呂はこのカプセルの中に入っていれば、すべて洗ってくれるんだ!兄さんは立っているだけでいいんだ!」
「気色悪りいんだよ!泡とか水とか勝手に俺をこづきまわしやがって!!こんなの溺れるぞ!」
「そんな仕様にはなっとらん!」
「風呂くらい、自分で入れる!!機械に洗ってもらうなんておかしいぞ!」
便利なものも、考えものである。
そして記憶の混乱が起きて3日後、またギルベルトは倒れた。
今度はなんの前触れもなくリビングでふっと意識を失った。
ビジフォンで兄弟からの知らせを聞いたルートヴィッヒはすぐに帰る事にしたが、その立体映像をエリザベータが見ていたのだった。
「ギルが?!ねえ、ドイツちゃん!!ギルはどうしたの!?」
「ああ、国に戻ってから体調が悪くて・・・・でも大丈夫だと兄達は言っている・・・」
「すぐに行くわ!!帰るわよ!!ルートちゃん!」
「おい、ハンガリー・・・それは俺の車・・・・」
うむを言わせずエリザベータはルートヴィッヒの車の運転席に乗り込んで家に戻った。
ギルベルトは寝室で眠っていた。
「ハンガリー・・・・今、お茶を入れてくるから・・・・」
ギルベルトの白い寝顔を見つめて震えているエリザベータに言葉はなかった。
その夜、ギルベルトに付き添っていたブランデンブルク等はエリザベータにギルベルトを頼んで休息を取りに帰っていった。
「ハンガリー・・・・寝室を用意したから少し休んだらどうだ?」
「・・・・ここでいいわ・・・・」
エリザベータはギルベルトの顔を食い入るように見つめながら、じっと彼のそばに座っている。
作品名:「ヘタリア」【プロイセンの一日】 作家名:まこ