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「ヘタリア」【プロイセンの一日】

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「じゃあ・・・・・休みたくなったら休んでくれ・・・・」
ルートヴィッヒは自室に戻って体を横たえた。兄がこのままなら、付き添いをする体力を温存しておかないといけない。今夜はハンガリーに任せておこうと思った。兄とハンガリーは、敵同士だったり恋人同士だったり・・・二人の間には二人にしかわからない愛憎があるのだろう。とにかく、長期戦を覚悟しておかないとな、とルートヴィッヒは瞼を閉じて休むことにした。

エリザベータはずっとギルベルトの寝顔を見ていた。
どうしてこの男はいつも自分を苦しめるのだろう?
敵である時は最高に憎たらしく、恋人としてはあっさりと冷たく、友人としては最高だ。
そのどの関係もエリザベータの望む形にはならなかった。
彼といると心の平安が失われる・・・・・感情は高まり、いつも不安定になる。
それが嫌で一度は彼と離れたのに・・・・・。
結局こんな事がおきると心配で来てしまう。
でもそんな心配をギルベルトは笑い飛ばす。
いったいこいつは私を何だと思っているのだろう?
恋人?敵?古い友人?単なるうるさい隣人?
どれも、自分達に関係にあてはまるし、あてはまらない気もする。

「うーん」
うなりながら、ギルベルトが目をぱちりと開けた。
「・・・・ギル!大丈夫なの?」
声が震えた。
「・・・・・・・・・・・・・」
ギルベルトはじっとエリザベータを見つめるだけで何も答えない。
ジワリと涙が流れてきた。
目覚めたのに、どうしてこいつは何も言わないのだろう?
「ねえ・・・ギル・・気分は?倒れたって聞いたから・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「だから・・・!心配させて・・・・。いっつもいっつも・・・!」
ぼろぼろと涙を流しているエリザベータを見てギルベルトは不思議そうに言った。
「なあ・・・お前誰だ?なんかあの男女のハンガリーの野郎に超そっくりだけど・・・」
「何を言ってるのよ!!」
パコーンと降ってきたフライパンをよける暇もなくギルベルトは沈んだ。
その音と気配にルートヴィッヒがやってきた。
「すまん、ハンガリー。兄さんは「国」に戻ってちょっと記憶が混乱してるんだ。自分がまだ「ドイツ騎士団」だと思ってるんだ」
「ど、どうしてそんな昔の・・・」
「他の国と比べてプロイセンは亡国だった時間が長いからか、今までに何度も名前変っているからか・・・とにかく兄さんが起きたら・・・・」
ちらりとハンガリーにぶったたかれてまた意識を失ったらしい兄を見た。
「そ、そ、そうね・・・・ルートちゃん・・・・私・・ついてるわ」
「ああ・・・お願いする。簡易ベッドを持ってくるからハンガリーも横になってくれ」

ルートヴィッヒの用意したワンタッチで膨らんだベッドの上でギルベルトを見つめながら、エリザベータは彼のそばから離れられなかった。
頭の中には過去の記憶が呼び覚まされる。ぐるぐると何度でも。
ギルベルトは眼を覚まさない。
「ひどいわ・・・・どうしてなの・・・?いつも私を怒らせるか、心配させるかばっかりで・・・。そんなに私を苦しめたいの?」
涙があふれて止まらなくなった。
「・・・・好きだから一緒にいても・・・貴方は私に冷たいだけだし・・・。どうして私が貴方から離れたのかわかってるの?つらいからよ!一緒にいても!いつ消えるかわからないからって、勝手に・・・自分勝手に思い込んで!!私をおいていったら承知しないって言ってるのに!」
ぴくりとギルベルトの手が動いた。
エリザベータはその手をぎゅっと握りしめる。
「ねえ・・・・起きて・・・・。私の名前を呼んで!!私のそばにいたいと思わないのなら、私はどこかに行っちゃうわよ!」

握った手が握り返された。
はっとなってエリザベータはギルベルトの顔を見た。
目を開けたギルベルトは無表情でエリザベータを見つめている。
(この表情・・・・!これがいつも私を傷つけるのに・・・!!)
「・・・・ギル・・・・気分はどう?なにかいる?」
「・・・・・・泣くな・・・」
「え?」
「女に泣かれるのは苦手だ」
「・・・・・・・」
「エリザ・・・・ずっとついててくれたのか・・・・」
「・・・・・・・・・・ちょっと待って・・・ねえ、貴方今「エリザ」って呼んだわよね?」
「ああ・・・・?えっ?!そ、そのフライパンはなんだよ!!し、しまえよ!」
「私をエリザって呼ぶって事は・・・・・記憶の混乱とかは?!」
「えええ・・・・その・・・・あの・・・・」
「い、いつから気がついて・・・・元に戻ってたのよ!?」
「えーっと・・・・どうしてなの・・・あたりから・・・」
「じゃ、じゃあほ、ほとんど最初からじゃない!!ひどい!」
「ごめん!悪かった!でも最初気づいた時、なんでお前が泣いてんのかさっぱりわからなかったんだ!だから・・・」
「ひどい・・・・心配したのに・・・・くらえ!!」

やっぱりフライパンは降ってきた。



**************************

意識が戻ったギルベルトはかすかな頭痛を感じながらも、目の前で彼を覗き込んでいるルトヴィッヒに叫んだ。

「ヴェ、ヴェスト!!さあ俺様、国に戻ったぞ!これからはニートじゃねえぞ!!お前に面倒かけるだけのお兄様じゃもうねえぞ!!」
「何を言ってるんだ?兄さん、しっかりしてくれ。別に兄さんがニートでも俺はまったく困ってないし、面倒でもないぞ」
「うええ?あれ?」
「さあ、眼が覚めたのなら顔を洗ってきてくれ」
「あれ?へんだな、家ん中、昔風だぞ?立体ビジョンテレビがねえ!ああ!階段がある?」
「まったく・・・まだ寝ぼけてるのか?兄さん。夢をみるならもう一回ちゃんと寝室へ行って寝てきたらどうだ?」
「ヴェ、ヴェスト!!今は西暦何年だ?!今、いったいいつなんだ?!」
「?何を・・・って今年は2013年で1月×日だが・・・・」
「も、もどっちまってる?!昔に?!2013年って21世紀かよ!!」
「あー、もう今すぐに顔を洗って目をさませ!」
「お、俺、国に戻ったんだぜ!!2222年によ!!俺はあと209年後に「国」に戻るぜ!ヴェスト!!」
「はいはい。だから夢なら寝室へ行ってベッドの上で見てくれ。兄さんが何もしなくても俺一人で大丈夫なように育ててくれたからな。国の心配なんぞしなくてもいいぞ」
「そうじゃねえ!!ヴェスト〜!!俺、本当に国に・・・・ってありゃあ夢だったのか?」
「いい夢だったな、兄さん。さあ、起きるのかもう一回眠るのか・・・はっきりしろ!」
ギルベルトは首をかしげながらも顔を洗いにいった。
その姿を見ながらルートヴィッヒは思った。

まあ、いいか。そうだな。兄さんがそう信じてこの先も元気でいてくれるのならそれでいい。たとえ夢の中と現実との区別がつかなくなったって・・・ぼけるのは困るが・・・・。
209年後か。もし本当にそんな未来が来るのなら・・・・。
俺は大歓迎だ!
さて、と。
それまでに俺は今現実の問題を片づけるか。
なんせ200年以上もあるそうなんだ。
ゆっくりとその日を待つとするか。
たとえそんな日が来なかったとしても・・・・。
きっと兄さんは元気で俺のそばにいてくれると信じてる。