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D.C. ~ダ・カーポ~【同人誌サンプル】

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        ◇  ◇  ◇

「……う、……んっ……」
 光の眩しさにゆっくりと瞼を開けば、焦点の合わない像に白い天井が映り込んだ。少し遅れてツンとした消毒薬の臭いが、香穂子の鼻腔を刺激する。
 換気のためだろう。三分の一ほど開けられた窓から吹き込んだ風が、ベージュのカーテンをくすぐっていた。
「ここは……」
 敷き布団の硬い感触が背中を包んでいる。香穂子は自分がベッドに寝かされていることを理解した。
 清潔感のある水色の衝立で区切られたベッドスペースには、見覚えがある――普通科棟の保健室だ。
 健康が自慢の香穂子にとっては、まず無縁の場所であるが、体育の授業中に怪我をした友人の付き添いで訪れたことが、何度かあった。
「よかった……気がついたのね」
 ベッドの傍らに置いたパイプ椅子に腰掛け、心配そうに香穂子を見つめているのは、夢の中で喋っていた音楽科の女子生徒だ。
 確か金澤は、彼女のことを美夜と呼んでいた気がする。
「あ……わたし……」
「――日野香穂子ちゃん……だっけ? 覚えてるかしら? 森の広場で私たちと話していたら、突然、気を失ってしまったのよ。具合はどう? 何処か痛いところはない?」
 美夜は戸惑う香穂子に柔らかな笑みを返し、現状を簡潔に説明した。第一印象通りの聡明な女性である。
「ご心配をおかけしてしまってすみません。もう平気です」
 香穂子は上掛けを押し上げると、己の体温で温まった布団に肘をついて上体を起こした。
 保健室ではあるが、養護教諭の姿は見当たらない。この部屋にいるのは、自分と美夜だけのようだ。
「いいのよ、無理しないで休んでて……まだ顔色が悪いわ」
 香穂子の顔色が悪いのだとすれば、精神的なものだろう。これ以上寝ていたところで、改善するとも思えなかった。
「本当に大丈夫です」
 そう言って香穂子は、スカートの裾を気にしながらベッドの淵に腰掛ける。壁掛け時計の盤面に目を向けると、時刻は十六時半を少し廻ったところだった。
 裏手のグラウンドで練習をしている、サッカー部らしき男子生徒たちの声が、窓の外から流れ込んでくる。
 視覚、聴覚、嗅覚、触覚……そのすべてを香穂子は、はっきりと感じ取っている――やはりこれは「夢」ではないのだ。
 彼女を取り巻く世界が変化したのではなく、彼女だけが、違う世界に迷い込んでいる……そんな感覚があった。
(そうだ、奇跡……)
 あのとき、リリは「奇跡」を起こすと言った。
 香穂子の時間を「少しだけ」戻すと言った。
(まさか、時間を戻した――?)
 いくらファータの魔法とはいえ、そんな途方もないことが、実現可能なのだろうか。今、香穂子がいるこの場所は、時間を遙かに遡った、過去の世界なのだろうか。