【かいねこ】モノクロ/カラー
「カイト、どうしたの?」
朝、カイトが顔を出すと、いろはが心配げに聞いてくる。
「え?」
「いつもと違うから」
「そう? いつもより格好いい?」
カイトはおどけて見せるが、いろはは眉を寄せて、
「ここに座って欲しい」
と、自分の前を手で示した。
「何だろう。お手柔らかにお願いします」
カイトが向かい合って座ると、いろははカイトの手を取り、呪文を唱える。カイトが驚きに目を見張る中、ふわりとした光がいろはの手からこぼれ、柔らかな温もりがカイトを包んだ。光が消えると、いろははカイトの顔を見上げ、
「少しは、気分が良くなった?」
「びっくりしたよ。いつ覚えたの?」
「カイトがくれた本に書いてあった。マスターがしてたように真似してみたの」
「凄いね。浄化の術が使えるなんて」
「少しは楽になった?」
いろはの問いかけに、カイトは笑顔を作る。
「来た時とは、全然気分が違うよ。ありがとう、いろは」
はにかんだいろはの笑顔を見ながら、カイトは、今浮かんだ考えを誰にも知られてはいけないと、瞬時に押し込めた。
「そうだ、魔道の知識があるなら、これも何とか出来るんじゃないかな?」
出来るだけ朗らかな口調で、カイトはいろはの袖をまくると、腕に埋め込まれた赤い石を示す。
「これは魔石と言って、強い魔力を持ってる。今のこれは、何て言うか、蛇口をひねりっぱなしの状態なんだ。魔力がずっと漏れてる。だから、それを」
「蛇口をひねって、止める?」
「そう。出来る?」
「分からない。でも、試してみる」
「うん。それが出来たら、色々応用できるから」
焦りを押し殺し、カイトはいろはの挑戦を見守った。最初は首をひねっていたいろはだが、徐々に魔石は色褪せてくる。
「色が変わっていく」
「大丈夫、魔力が押さえられている証拠だよ。さあ、もう少し」
日がすっかり落ちて、塔の周囲が闇に包まれた頃、いろははようやく魔石の魔力を押さえることに成功した。石は、最初の燃えるような色からくすんだ赤へと代わる。
「やった! 凄いね、いろは! こんなすぐ出来るとは思わなかった!」
カイトがいろはを抱き締めると、いろははくすぐったそうに笑った。
「カイトが喜んでくれて、私も嬉しい」
「うん、新しいことが出来るようなるのは、嬉しいことだね。さあ、今度は石を元の状態に戻して。危ないからね」
「危ない?」
「うん。この石は、俺がいない間、いろはを守ってくれるから」
カイトの言葉を疑いもせず、いろはは魔石に意識を向ける。カイトは、このわずかな空白に主人が気づかないでくれればいいがと、祈る思いだった。
作品名:【かいねこ】モノクロ/カラー 作家名:シャオ