【かいねこ】モノクロ/カラー
「おはよう、お姫様。魔法使いが来たよ」
身じろぎもせず壁に向かういろはに、カイトはにこやかに声を掛け、肩から鞄を降ろした。
「舞踏会の準備をしようね。さあ、これを着て」
鞄の中からきらびやかなドレスを引っ張り出し、いろはの体に当てる。
「うーん。サイズは良さそうだけど、いろはの可愛さが引き出せてないな。こっちはどうだろう?」
次々にドレスを引き出しては、ああでもないこうでもないと一人で大騒ぎした後、やっと一着に決めた。
「さあ、これに着替えて。大丈夫だよ、後ろを向いてるから」
カイトはいろはに背を向けて、十秒数える。「もういいかい?」と言いながら振り向くと、いろははドレスを手にしたまま、ぼんやりと座っていた。
まあ、そうだろうね。
「仕方ないな、着替えを手伝ってあげるよ。大丈夫、脱がすのは得意だよ」
カイトは笑いながら、片手で服のボタンを外す。
「心配しないで。下着までは脱がさないから。いろはにはまだ早いね」
手早く脱がすと、これまた慣れた調子でドレスを着せ、持参した手鏡をいろはに持たせた。
「ほら、良く似合ってる」
カイトはいろはを抱き締め、後ろから一緒に鏡をのぞき込む。いろはの白い首筋を指でなぞりながら、
「でも、首周りが少し寂しいかな。また見繕って持ってくるね」
彼女の髪にキスを落とした。
カイトはいろはのところに毎日通い、宝飾品やらドレスやらで着飾らせる。気が済んだら、今度は部屋が殺風景だと、家具を持ち込み始めた。
控えめに見ても醜悪な姿をした主人より、いろはと過ごす方がずっと楽しい。カイトは、いつしか契約のこと忘れていった。
作品名:【かいねこ】モノクロ/カラー 作家名:シャオ