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【かいねこ】モノクロ/カラー

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「今日は、いろはに本を持ってきたよ」

ぼんやりとした視線を向けるいろはに、カイトは魔道書を手渡す。
主人が魔道士だったのなら、いろはには馴染みがあるだろうと思ったのだが、特に目立った反応はない。


まあ、焦ってもいいことはないし。


カイトは自分に言い聞かせ、いろはの手の中で本を開いてやった。

「いろはには、まだ難しかったかな?」

いろははカイトに向けていた視線を、本のページに落とす。躊躇いがちに指を置いて、書かれている文字列をなぞっていった。

「どう、読めるかな?」

いろはは肯定も否定もせず、のろのろとページを指でなぞる。カイトは肩を竦め、いろはの髪を撫でた。

「少し学術的すぎたかな。いろはのご主人様は、君に魔道の知識を与えなかったようだ」
「マスターを知っているの?」

ぽつりと返された問いかけに、カイトは凍り付く。下手なことを言えば、いろはは自分に不信感を抱くだろう。今まで築いた関係が、一瞬で無に帰すかもしれない。
唇を舐めて気を落ち着けると、声に動揺が出ないよう注意しながら、

「うん、俺の主人が、昔会ったことがあるみたいでね。詳しいことは聞いていないんだけど。なんせ、『大昔のこと』だから」

強調して言うと、いろはは納得したのか、それ以上聞いてこなかった。カイトは内心安堵の溜息をつきながら、焦りは禁物だと、再度自分に言い聞かせる。


落ち着け、まだ猶予はある。
少しずつ進展しているんだから、急ぎすぎるな。


「明日は、もうちょっといろは向きの本を持ってくるよ。少しは、君の気晴らしになるだろうからね」





いろはは、一人残された部屋で、魔道書の文字をなぞった。
マスターが生きていた頃、よく「お前にもっと知識があればな」と笑いながら言われたことを思い出す。


私に知識があれば、マスターは酷い目に合わなかったのかな。


「自分の側を離れるな」と、マスターは命令したけれど。あの日、外に見えた人影を追って、マスターは行ってしまった。追いかけた時には、もうどこにも姿が見えず。
見つかった時には


いろはは眩暈を感じて、考えるのを止めた。


カイトは、私にもっと色んな事を知って貰いたいのかな。


どうして彼が自分に会いに来たのか、いろはには分からない。けれど、それを聞いたら、彼はもう会いに来てくれなくなるような気がした。


また明日も、来てくれるかな。


カイトが約束を破ったことはない。しかし、いつかマスターのようにいなくなってしまうかもしれない。そんな日が来なければいいのにと、いろはは祈る思いだった。