Wizard//Magica Wish −12−
だが、一瞬、一瞬だけ杏子の身体に激痛が走った。まるで身体の中に張ってあった一本の糸がぷつりと切れたように。慣れない魔法の多様によるものだ。それと同時に分身達も動きが止まる。
…フェニックスはこの一瞬の隙を見逃さなかった。
「っ!!あなたが本体ね…っ!!!!」
・・・
「この魔力の感じ…杏子ちゃん…?はぁっはぁっ…くっそ…」
ハルトは探索魔法を使いミサを探していた。ようやく探知できたのは現在杏子達が戦い始めた時だった。ハルトは急いでその場へと急行する。次第に周りの景色がみすぼらしくなり、気付けば郊外まで来ていた。ミサの魔力の波動が強まると同時に何故か杏子の魔力を感じるようになった。
二人は戦っているのだろうか?
「燃えている…まさかっ!」
頭を抑えながらハルトは歩くスピードを早めた。次第に早歩きから全速力へとなる。すると遠くで何かが燃えているのがわかった。
「くそっ!まさか杏子ちゃん一人で!!?」
頭痛や眠気なんてどうでも良い。
全速力でその場へと走った。
すると二人が戦っているのがわかった。
それと同時にシルエットも明確になっていく。
だが、その途中で俺は走るのを止めてしまった。
俺の目に映った光景。
目を逸らしたくても受け入れなければならない現実。
そう…俺が見たのは…
「きょ…杏子ちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
「あっ…あぁ……」
「あら…遅かったのね、指輪の魔法使い」
フェニックスの大剣で無残に胸を貫かれていた、杏子ちゃんだった。
「ぐふっ…く…くそぉ…」
「惜しかったわね…あともうちょっと元気なら、私を殺せる筈だったのに!」
杏子ちゃんに大剣が刺さったまま、身体を中にぶら下げ、一気に抜いた。
そして地面に落ちる瞬間、再びフェニックスの大剣が杏子ちゃんの身体を大きく切り刻んだ。
血が辺りに吹き出し、その身体が俺のところまで吹き飛ばされる。
俺は、声も出せず、身体が硬直しその場面を見ることしかできなかった。
「杏子ちゃんっ杏子ちゃん!!!!」
「あっ…ハ…ハル…ト…」
「しゃべるな!あ、あぁ…」
杏子ちゃんの頭を俺の膝に乗せ彼女の身体を見る。胸からは大量の出血、そして切り刻まれたところからも大量の出血。口からは彼女の綺麗な身体を隠すかのように吐血で覆われ、目から生気がなくしつつあった。
「わ…わる…い……やられ…ち…ま…」
「『ドライバーオン』プリーズ!」
「なんでこんなバカなことしたんだっ!!まって、今すぐ…」
ハルトがウィザードライバーを腰に出現させ治癒魔法を使用しようとした。だが…。
「えっ…杏子ちゃん?」
「良い…もう良いんだ…ハルト」
杏子の弱々しい手で拒まれてしまった。
彼女は必死に笑顔を作りながらそのまま話し続けた。
「なぁ…ハルト…覚えているか?」
「な、何言って…」
「最初に…あたし達が出会ったこと…」
作品名:Wizard//Magica Wish −12− 作家名:a-o-w