Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
「亜樹子ちゃんからだったのか。あ、もしかして課長の容態のことか?」
何も知らない真倉は思いつきで話の内容を推理する。
「いや、ちょっと別の話、さ」
翔太郎は真倉の言葉を適当に流す。
「・・・・・・」
さっきまで真倉に懇願していた柏木はうつむいたまま黙っている。
「柏木さん」
そんな柏木に翔太郎は声をかける。
「・・・・・・」
その言葉にも柏木は黙り込む。
「柏木さん。・・・・・・やっぱあんたは凄いなぁ!」
翔太郎は柏木の肩をポンっと叩き賞賛の声をあげる。
「・・・・・・・え?」
その翔太郎の態度に柏木はきょとんとした表情をみせる。
「だって、亜樹子がびっくりしていたぜ? 『俺たちが敵のアジトに向かっている』って聞いてから凄い勢いでとんでったんだろ。そんな話を聞かされてすぐに行動に移せるなんて、よっぽどの度胸がなきゃできない。あいつ、あんたのことを絶賛していたぜ?」
「え、あ、いえ、あの、ト、トモちゃんのことが心配でいてもたってもいられなくて、はい・・・・・・」
柏木は照れくさそうに髪をいじる。
その仕草はとても可愛らしくて、真倉はうっとりとした表情で柏木を眺めていた。
翔太郎は、うんうん、と頷くとなおも賞賛の言葉を贈る。
「いやいや、実際すげーよ。俺も随分修羅場をくぐって来ているけれど、あんたほどの実行力のある依頼人はみたことがねぇ」
「そ、そんな。え、えへへ」
柏木はくすぐったそうに身をよじる
その仕草はやっぱりとても可愛らしくて、真倉はやっぱりうっとりとした表情で柏木を眺めている。
「でもよ、柏木さん。一つ聞きてぇんだが」
「は、はい! 何ですか?」
少し照れ交じりの可愛らしい笑顔で翔太郎の質問に答えようとする柏木。
そんな柏木に翔太郎は何でもない調子で、
「どうして、俺たちがここにいるって分かったんだい?」
柏木を詰問した。
「・・・・・・・え?」
先ほど同様、柏木はきょとんとした表情をみせる。
しかし今度の表情には困惑の色が濃く表れていた。
そんな彼女に構うことなく、いつの間にか明るい表情を冷たく凍らせていた翔太郎が言葉を続ける。
「亜樹子はさ、知らないはずなんだよ。俺たちがこの廃工場に行ったってことはさ」
「え、でも、亜樹子ちゃんは翔太郎さん達は、『敵のアジト』に向かったって・・・・・・」
「・・・・・・だからさ、あいつは知らないんだよ。―――この廃工場が敵のアジトだってことはさ」
「・・・・・・っ!?」
「俺もマッキーもあの時は急いでいたからな。亜樹子には『これから敵のアジトかもしれない場所へ向かってみる』程度のことしか告げていなかったのさ」
「・・・・・・」
翔太郎の言葉に黙り込む柏木。
「お、おいおい、探偵。お前、一体何を・・・・・・」
さすがに場の空気の異常さに気づいた真倉は状況説明を求めるよう翔太郎に問いかける。
「プロである俺や警察機構にまで完璧に隠し通していた完全無欠の誘拐犯の隠れ家を、柏木さん、―――あんたはどうやって自力で見つけたんだい?」
翔太郎の目は既に警戒色が染まっていた。
「・・・・・・」
柏木はただ、黙りながらうつむいていた。
「た、探偵・・・・・・? か、柏木さん・・・・・・?」
真倉は動揺して翔太郎と柏木を交互にみる。
しかし、
「や、やめろよ! 探偵っ!!」
すぐに意を決したように柏木の前へ立つ。まるで彼女を守るように。
「・・・・・・マッキー、何のつもりだ?」
真倉の予想外の行動に翔太郎の声には若干の焦りが混じっていた。
「か、柏木さんが犯人なわけないじゃないか! 彼女はサイレント・キーパーに連れ攫われた被害者を探してくれと警察に捜索願をだしたんだぞ!?」
「・・・・・・俺たちの目を欺く行動と考えればそれはつじつまが合うだろう!」
「し、しかし、こんなに必死に柿崎さんのこと案じていた彼女が、誘拐犯だなんて・・・・・・!」
真倉は信じられない、というように首を振る。
「マッキー・・・・・・」
警察官というものは、捜査の際には先ず全ての人間を疑ってかかるところから始める。
それが己の知り合いで、どんなにその人間のことをよく理解していたとしても、捜査時にはそれらの感情のフィルターを取っ払って物事を整理しなくてはならない。
「・・・・・・俺は、この柏木さんが嘘をついているなんて思いたくないんだ・・・・・・!」
そう搾り出すようにか細く語る、この真倉俊という男は、警察官としては最低の部類に属すると言えた。
公平に物事を判断する立場としては糾弾されて然るべき行動。
冷静かつ沈着にこの街の平和と秩序を守る者としてはあるまじき判断。
「・・・・・・」
しかし、翔太郎は彼を責めることができなかった。
気持ちの上では、翔太郎も同じだったからだ。
たった数日の付き合いで、まだ内面もよく分からないが、柏木の必死な姿勢に心を打たれたのは確かだったからだ。
それが全て嘘だったなんて、翔太郎にもとても信じられなかった。
「・・・・・・なぁ、柏木さん。本当のことを教えてくれ。あんたは一体―――、」
「全員動くなっ!!」
うつむいている柏木の肩に翔太郎が手を置こうとしたとき。
工場の入り口付近から、切迫した怒号がとんだ。
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



