Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
美女とディナータイムとスプラッター・ムービー 01
「な、」
「に?」
柏木の豹変っぷりに絶句する二人。
何か隠しているのだろうと気づいていた翔太郎でさえ、言葉を失う始末だった。
「ったくよー。つかテメー、自分が組織の一員だってコトあっさりバレたり、ただの人間相手に負けちまったりとか、使えねー度ハンパねーじゃねーかよー、永田ぁ」
ドスっ!
柏木はボールでも蹴るような調子で気絶している永田を蹴る。
「がぺっ!」
永田はどこか間の抜けた悲鳴をあげたが、意識を取り戻すまでには至らなかった。
「こっちは『あのお方』のために必死こいてキャラつくってたってのによぉー。てめえの足りない脳ミソのせいでその努力が無駄になるとか、ちょームカつく話なんですけど? ええ、その辺どーなんだ、オイよぉ!」
ドスっ!
「んがっ!」
またも蹴りを入れるが永田はうめくばかりで起きない。
チッ、と舌打ちをする柏木。
倒れている永田に注がれる柏木の視線はまるで道端の生ゴミでも見るような嫌悪と険悪に塗れた冷酷なものだった。
「柏木、さん?」
真倉は信じられないものでもみるような目で柏木をみる。
柏木は真倉のほうに向き直る。そして、真倉やほかの男たちが見蕩れた魅力的な笑顔で、
「あっあー、刑事さん? 悪いねー、まっそういうことなんだわ。つかいつまでもショックうけてんじゃねーよ、キモいんだよコラ!」
「・・・・・・っ!?」
「一ついいかい、柏木さん?」
絶句している真倉を押しのけて翔太郎が柏木に質問をする。
「あら〜、何かしらヘッポコ探偵さん? 私は今クソッタレな芝居から解放されて少なからず気分がいいわ。簡単な質問なら答えてあげてもよくってよ?」
ニタニタと慇懃な笑顔で柏木は軽口をたたく。
「・・・・・・あんたは、永田の仲間ってことでいいのか?」
「ご名答、良く出来ましたお利巧さん」
どこか人を食った調子で柏木はへらへら笑いながら答える。
翔太郎はそれを気にしたふうでもなく質問を続ける。
「あんたがこの連続完全誘拐犯、サイレント・キーパーの主犯?」
「ぶぶー、ハズレ。あれれ、人の話聞いてなかったのかにゃー? その頭が飾りだってんならとっとと頭吹っ飛ばして死ねやバ〜カ」
「じゃあ、主犯はやはりさっき言っていた『あのお方』ってヤツ、」
(Cook!!!)
「おら、サービスタイムはもう終わり! こっから先は有料だよ!!」
柏木は手に持っていたメモリのスイッチを入れた。
メモリの電子音を合図に会話を区切る柏木。
「大体よぉ、そんなこと聞いても無意味じゃね? だってさ、あんたらはこれから死ぬんだからさぁぁぁ!!」
「柏木さん・・・・・・あなたは本当に、サイレント・キーパーなのか・・・・・・?」
未だに現実を受け止めきれていない真倉は柏木に問う。
「・・・・・・」
「・・・・・・マッキー」
「な、何か、弱みを握られているとか、そう! どうしても逆らえない理由をサイレント・キーパーのヤツに、」
「うるせーぞコラ」
真倉の言葉を、柏木のドスの利いた低い声が遮る。
「何遍も言わすなよ、刑事の兄ちゃん。私はこっちが素だって言ってんだろ。あと、『あのお方』の悪口を言ったらただ殺すだけじゃ済まさねーぞ、テメー」
最後のほうは本当にセリフだけで人に死を予感させるような気合が入っていた。
「私がサイレント・キーパーに入った理由はただ一つ。『あのお方』のお役に立つこと。それだけさ」
そう語る柏木の顔は少し紅潮し目は潤んでいた。
「お前らに近づいたのも、『あのお方』からの勅命。この街でドーパントがらみの犯罪を請け負っている鳴海探偵事務所と風都署の超常犯罪捜査課の人間に近づいてその動向を探るため。永田も知らない、私と『あのお方』だけの秘密の任務。ああ、私だけを信頼して下さったがゆえの特別な命令」
そのうっとりしている柏木の顔は男なら誰でも恋に落としそうなほど美しい表情だった。
もちろん、足元で転がっている永田をぐりぐりと踏んづけていなければ、の話だが。
「だから、」
そして柏木は今度は真剣な顔になり、
「だから『あのお方』を悪く言うヤツは許さない! どんな手使っても確実に潰す!!」
(Cook!!!)
再度、メモリのスイッチを押す。
「私のメモリの名は『クック』。料理の記憶を宿したガイアメモリさ」
そう言って見せびらかすようにメモリを舐めてみせた。
そして白のブラウスのボタンを外し、左胸部上の鎖骨の少し下の辺り。そこにあった奇怪な痣―――生体コネクタにクックメモリを押し当てる。
「今宵は、素敵な晩餐を振舞ってあげる」
(Cook!!!)
押し当てられたメモリは、実体がないように体のなかに吸い込まれる。
「あ、ああああ!!」
そしてみるみるうちに柏木の肉体に変化が起こる。
柏木の体中からソースのようなドロドロの液体を吐き出される。
その液体は時間がたつにつれ粘性を帯び、ついには柏木の体を覆い、捏ねられた粘土ように蠢きそれぞれ『あるもの』を形づくる。
その『あるもの』とは料理だった。
サンドイッチやオニギリ、玉子焼きやステーキ、スパゲッティなど、およそ定番の食卓に並ぶ料理の形をつくり柏木の腕や足など体全体に鎧のように装着されていく。
「ふ、ふっふー・・・・・・っ!」
そして変化が終わったとき。
そこに立っていたのは全身から禍々しい狂気を帯びた怪人だった。
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



