Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
廃工場、戦闘の幕間
サイレント・キーパーのアジトに使われている廃工場の敷地はかなり広い。
ただ広いだけではなく、工場も第一工場、第二工場、事務所、第三工場といった具合に大きな作業場や事務所が軒を連ねていた。
ちなみに翔太郎と真倉が闘ったのは第一工場。
スクラップ工場で使われるリフティングマグネットや、土木作業に使用される小型のパワーショベルがあるあたり、おそらくこの工場は単なる鉄工所ではなく多業務を取り扱っているマルチな会社だったことが窺える。
仕事の業務はその職種が異なれば異なるほど、その維持管理が大変になってくる。
管理職者がかなり優秀でなければその経営形態についていけず、会社の運営はすぐに傾くだろう。
今となっては知る者はいないが、この工場が廃業してしまったのもそこら辺に理由があるのではないだろうか。
「おい、おいジンさん! 起きろって!」
「刃野刑事! 起きてください!」
柏木との激闘を演じ終えた翔太郎と真倉。
気絶している柏木と永田を縄で縛り工場の隅に立てかける。
「おい、起きろってば!」
「刃野刑事!」
その激闘の間、ずっと気を失って何もしていない刃野を二人は起こそうとする。
「う、う〜ん・・・・・・」
短く唸る刃野。
「も、もう食べれないって〜・・・・・・」
「おいコラ! 昭和のコントかっ!」
「どんな夢みてんですか!」
「う、う〜ん・・・・・・うお、しょ、翔太郎・・・・・・? と、・・・・・・だ、誰・・・・・・?」
「相棒の顔を忘れている!?」
今回俺大活躍なのにー!と忘れられた刃野の相棒・真倉俊は絶叫する。
「・・・・・・ふ、冗談さ」
そんな真倉に優しく微笑む刃野。
「・・・・・・なんでこのタイミングで冗談を?」
その微笑に納得いかない真倉。
「すまなかったな、―――ジョン・マクレーン」
「きっちり忘れてんじゃん! あと『マク』しか合ってないじゃん! そして日本人だっつーの!!」
「そんなことり、ジンさん」
真倉のハイテンションなツッコミを見事にスルーする翔太郎。
「そんなことって言った!? 今、俺の名前のことそんなことって言ったっ!!」
未だぎゃあぎゃあ騒ぐ真倉をよそに翔太郎は話を進める。
翔太郎は焦っていた。
「ジンさん、俺たちはこのままアジトの奥に進む。連中の話じゃまだ仲間がいるはずなんだ」
その翔太郎の思い切った発言に刃野は怪訝な表情を浮かべる。
「・・・・・・おいおい、相手は多分みんなドーパントなんだろ? お前らだけで大丈夫なのかよ」
「時間がねえ。ヤツら、俺たちが永田と柏木を倒したことは知っているはずなんだ。だから連中が『計画』ってやつを実行に移すのも時間の問題かもしれねえんだ」
「・・・・・・ふむ」
翔太郎の真剣な声に刃野は思案顔になる。
「ジンさん、とりあえずそこに縛ってある永田と柏木をつれて一回風都署まで戻ってくれないか? んで出来れば応援を呼んできてほしい」
「・・・・・・ふむ」
翔太郎の提案を吟味するように考え込む刃野。
「・・・・・・」
"警察の応援を呼んできてくれ"
それは翔太郎の方便だった。
もちろん本音では助けが欲しい。
先の二戦、翔太郎は勝利をしたといってもあちこちボロボロだし、これから何戦しなくてならないか見当もつかない。
これからも相手がドーパントとなれば苦戦するのは目に見えている。
仲間は多いほうがいいに決まっている。
しかし一般の警察の助っ人が通用するのは、対人間の、それこそ警察が取り締まれる普通の事件での話。
対怪人戦であるドーパント事件で生身の人間を投入すれば、そこにかけた人間の数だけ葬儀が必要となる。
この二戦で人間・真倉俊は確かに役に立ったが、基本的にはドーパントの戦いにただの人間を参戦させるわけにはいかない。
翔太郎の頭のなかでは、刃野に永田と柏木を引き取ってもらったら、速やかに真倉を気絶させダブルに変身し、警察が戦いに介入してこないうちに決着をつけようと考えていた。
「ジンさんたちが戻ってくるまで、この場はなんとか食い止める。・・・・・・も、もしかしたら仮面ライダーが来てくれるかもしれねえ」
「あれ? でもさっき永田が仮面ライダーはぶっ飛ばしたって」
「あ、あれは、アクセルのほうだけだよ。ダブルはなんとか逃げ延びたらしいんだ」
「ふ〜ん、案外臆病なんだな、仮面ライダーWって」
べしっ。
「痛い! 探偵何故いきなり叩く!?」
「あ、いや、え〜っと、で、でかい蚊が頭にとまっていたんだ。すまんすまん」
「? なんだってんだ・・・・・・??」
「あ、あはは・・・・・・」
「・・・・・・」
二人のやり取りをみながら何やら考えていた刃野はようやく口を開く。
「・・・・・・よし、分かった。翔太郎、ここはお前と真倉に任せるわ。お前の言うことも一理ある。もはや一刻の猶予もないかもしれねぇ」
うんしょ、と立ちあがり永田たちのほうへと歩く。
「まぁ今のお前らなら本当に大丈夫かもしれねぇな。こいつら倒したの、ガチでお前らがやったみたいだし、なんかしばらく見ねーうちに息ぴったりだしよ」
「「はぁ!? どこが息ぴったりっすか!!」」
刃野の言葉にほぼ同時に反応する翔太郎と真倉。
「・・・・・・まぁいいや。とにかく俺が応援連れてくるまでここは頼むぜ、ヒーロー?」
「・・・・・・」
「・・・・・・っ!」
"ヒーロー"という言葉で捜査のバトンを渡されて黙り込む二人。
その沈黙は決してプレッシャーを感じているわけではなく、少し気恥ずかしさ混じりだがその言葉の意味を噛み締めている最中だった。
そして、
「―――ああ、任しておきな、ジンさん!」
「尽力しますっ!!」
二人はそれぞれの回答でそのバトンを受け取った。
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



