Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
ナイフから始まる自己紹介
背広の男は怒鳴られたと勘違いしたのか、翔太郎たちの叫び声に、ひぃ、と頭を抑えて縮こまる。
それをみた翔太郎は慌ててフォローする。
「お、おい、大丈夫だって。俺たちは味方だよ」
「み、かた・・・・・・?」
男は頭を抱えた腕の隙間から覗くように翔太郎たちをみる。
「そのとおりです。我々は風都署の者です。貴方達を保護しに来ました」
真倉は警察手帳をみせ、落ち着いた口調で告げる。
「他にも貴方のように誘拐されてここに監禁されている人がいるはずです。みんなが今何処にいるか分かりますか?」
男は真倉の優しい問いかけにおどおどした調子で話し始めた。
「・・・・・・みんな、は、この先の奥の工場。・・・・・・変な、薬で眠らされて・・・・・・ベッドの上に、乗せられている・・・・・・」
「眠らされている? あんたはどうやって起きてここまで逃げることができたんだい?」
翔太郎は疑問を口にする。
「・・・・・・俺も、いつもは目覚めないはず、なんだ。・・・・・・起きようとすると薬で眠らせてしまうから。・・・・・・でも、今日は起きる時間になっても、薬で眠らされなかった。・・・・・・いつも俺たちを見張っている、デブの男と怖い女もいなかったし・・・・・・」
「永田と柏木のことだ」
「ああ」
永田と柏木は誘拐してきた人間の監視も行っていた。
しかし、翔太郎たちが彼らを倒したことによって監視がザルになったのだ。
つまりこの男の話どおりなら、今誘拐された人々にサイレント・キーパーの監視は一切ない、ということになる。
被害者たちを一気に解放するチャンスだ。
「話は大体わかったよ。あんたはこのまま進んでこの工場から出るんだ。俺たちは」
「お、おい! ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
状況を理解した翔太郎は話を進めようとするが、男はそれに慌てて待ったをかける。
「俺一人でここから出て行けっていうのか!? む、無理だよ! お、俺はここがどこかもよく分からないんだ! それに、あの見張りのヤツらとかいるかもしれないし・・・・・・」
「落ち着きなよ。あんたの言っていたデブの男と怖い女はもう逮捕されたんだ。この先には誰もいないって」
「い、いや、・・・・・・で、でも危ないって! 怖いって! 他に仲間とかいたら、絶対ヤバいって!!」
男はしゃがんでまた頭を抱えてブルブルと震え出す。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
翔太郎たちは考える。
この男がサイレント・キーパーたちに捕まってから何をされたかは知らない。
しかし、こんな薄気味悪い廃工場で、薬を使われて無理矢理ベッドの上に寝かされ、何か得体の知れない"計画"とやらの歯車に利用される。
それが数日も続けば、人間の精神に支障が出ても仕方がないことではないだろうか。
「・・・・・・探偵、無理もないよ。この人たちは何日もここに監禁されていたんだ。怯えてしまうのは、・・・・・・仕方が無い」
真倉は男の哀れな怯え方をみて噛み締めるように言った。
「・・・・・・そうだな。・・・・・・おいあんた、それなら俺たちが工場の出口まで付き添ってやるよ。だからこの工場から出よう」
翔太郎は男に手を差し伸べる。
「・・・・・・」
男はどうしたらいいのか分からないと言った風情でその差し出された手をみている。
「ほら、立ってください。とっととこんな薄気味悪いところから出ましょう!」
それを見かねた真倉は明るく言って男に肩を貸す。
「・・・・・・あ、ああ」
男はおずおずと真倉手を取る。
「よし、では一時後退だ。この人を出口まで送り届けたらすぐにまた戻るぞ!」
真倉はその男の手を引くと元気良く宣言する。
「いえ、その必要はありません。だってあなたはここで倒れるのですから」
真倉の宣言の直後に聞こえた平坦な声。
「え?」
「うん?」
ドスッ!
二人がその声の発生源を確認する前に、何かを叩くような鈍い音が工場に響く。
叩かれたのは真倉の後頭部。叩いたのは、
今まさに真倉が手を引いた男の手だった。
「が、はっ・・・・・・っ!?」
攻撃がいい角度で入ってしまったのか、真倉は短く呻くと、
「う、うぁ・・・・・・」
どさり。
そのまま気絶した。
「な、に・・・・・・?」
あまりの唐突な出来事に思考が追いつかない翔太郎。
しゅぱっ!
そんな翔太郎の心情に構うことはなく、鋭い『何か』が翔太郎の目の前を一閃した。
「うおっ!?」
幸い、先ほどの柏木との闘いで手錠のワイヤーを伸ばしっぱなししていたので今の一撃は簡単に避けれた。
しかし、もし手錠のワイヤーを元に戻していたら確実に翔太郎の頚動脈は切られていた、そんな鋭さの一撃。
「こ、のっ!」
咄嗟に攻撃の飛んできたほうに蹴りを繰り出す翔太郎。
「おっと」
その攻撃の主は翔太郎の蹴りを余裕で回避すると大きく後ろに下がり距離をとった。
翔太郎を襲った鋭い攻撃の正体。
それは、男がいつの間にか手のなかでもてあそんでいたナイフだった。
「・・・・・・ふむ。さすがは街の守護者の片割れ左翔太郎。なかなかの判断力ですね」
男の声はどこまでも平坦だった。
「お前・・・・・・一体・・・・・・?」
戦慄と憤怒から翔太郎は、さっきまで怯えて縮こまっていたはずの男の正体を問う。
「・・・・・・」
男ははだけていたスーツを手早く直し、ネクタイをキュッと締め、上着のポケットに入っていたメガネをかける。
さっきのヨレヨレでだらしの無い印象から一転、そこには神経質なほど身なり整った人間が立っていた。
そして男はメガネのフレームをくい、と上げながら翔太郎を睥睨し、
「はじめまして。私の名前は桐嶋藤次と申します。サイレント・キーパーという組織で参謀を務めさせて頂いております」
几帳面すぎるほど事務的な自己紹介をした。
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



