Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
メモリで結ぶ自己紹介
「街の守護者・仮面ライダーの片割れ・左翔太郎。あなたのことはミュージアムにいた頃よりかねがね聞き及んでおりました」
桐嶋藤次と名乗るその男はさっきの落ち着きの無い弱々しい口調からは想像できないほど平坦な声で淡々としゃべる。
「ミュージアム、だと・・・・・・?」
翔太郎は警戒しながらも桐嶋のある単語に反応する。
「はい。私はミュージアムでガイアメモリの研究をしていた科学者の一人です」
「ってことは、永田や柏木にメモリを渡したのは、」
「はい、私でございます」
「!!」
人の心と体を狂わす、悪魔のアイテム、ガイアメモリ。
それをこの男は、平然とした調子でほかの人間に手渡したと言ってのけた。
「てめぇ・・・・・・、自分のやったことが分かってんのか!」
桐嶋の発言に翔太郎は激怒する。
「ガイアメモリは適合者が持つことによってその真価を発揮します。彼らはそう言った意味ではなかなか興味深いサンプルでした。・・・・・・まぁ人間的には全くの無価値でしたが」
翔太郎の怒号を聞いても、なおも淡々とした口調で語る桐嶋。
自分の仕事の出来栄えを上司に報告するような無感動さ。
「て、めぇ・・・・・・っ!」
それが翔太郎に何とも言えない恐怖と怒りを沸き立たせる。
「まぁ、自己紹介はこのくらいにしましょう。―――時間がないのは、お互い様では?」
(Viper!!!)
桐嶋は手に持っているメモリのスイッチを入れる。
「私のヴァイパーメモリは今まであなた方が闘ってきた永田や柏木と比べて少々辛口の仕様になっておりますので、どうかお覚悟を」
(Viper!!!)
そして有無を言わさずメモリを自分の右の首筋にある生体コネクタへ差し込む。
「か、かぁぁぁ・・・・・・っ!」
桐嶋の体が変化していく。
禍々しい、不吉な怪人。
「―――ぁぁぁあああああ!!」
パシュゥゥ。
ものの数秒で、桐嶋は怪人としての姿を完全にする。
全身に肌理の細かい鱗。
それらは所々に色の違いがあり同心円状の模様をつくっており、それが生理的な嫌悪感と危機感を煽る。
怪人の手に握られている鋭いナイフは、刃物というよりも生物の牙を連想させるような有機的な形状。
「シャアァァ・・・・・・ッ!」
その姿は、四肢を持ちながらも無足類無足目である蛇を想起させた。
「へ、怪しいロボットに怪しい料理ときて、今度は怪しい蛇か。サイレント・キーパーってのはお化け屋敷でも始めるつもりなのかい!」
「ふ、あなたのその薄っぺらい軽口に取り合うつもりはありません。あなたも変わったらいかがですか? ―――街の守護者とやらに」
「・・・・・・・へぇ。アンタは俺を素直に変身させてくれるのかい?」
「永田と柏木があなたを変身させないように闘っていたのは、変身されてしまうと勝ち目がなくなってしまうからです。私にはその心配がありませんので」
「そうかよ」
翔太郎はベルトを取り出す。
大きな赤いバックルのついたベルト。
翔太郎を別のものへと変化させるアイテム、ダブルドライバー。
「じゃ遠慮なくやらせてもらうぜ! ―――相棒、準備はいいか?」
翔太郎は腰にベルトを巻いたことによりとある人間と感覚を共有することが出来る。
今、この廃工場にいない、左翔太郎の相棒。それは―――、
"やぁ翔太郎。待ちくたびれたよ"
落ち着いた声。
翔太郎の頭に直接聞こえた声は、彼の無二の相棒・フィリップの声だった。
"こちらは問題ない。十分に休んだからね。体調はほぼ回復した"
その声は先ほどの体調不良でか細くなってしまった印象はなく、静かだが頼りがいのある安定した響きがあった。
「よし」
翔太郎はその言葉で気合を入れなおす。
「それじゃこっからは真打登場だぜ。またせたな、サイレント・キーパーさんよ?」
(Cyclone!!!)
"先ほどの借りは、しっかり返させてもらうよ?"
フィリップの手に持つガイアメモリ。
そのメモリの銘は、緑の疾風・サイクロン。
(Joker!!!)
「あぁ。俺たちらしく、―――ハードボイルドにな?」
翔太郎の手に持つガイアメモリ。
そのメモリの銘は、黒の切札・ジョーカー。
「「変身!!」」
ガチャ。ブゥン。
フィリップのベルトに挿されたサイクロンメモリが翔太郎のベルトの右側に転送される。
ガチャ。
そして翔太郎はベルトの左側にジョーカーメモリを挿す。
ガチャリ。
ベルトのバックルが真ん中から開かれる。
(Cyclone!!!)
ビュウウウ!!!
(Joker!!!)
バチバチバチィ!!!
凄まじい緑の風と荒々しい黒の力の中心。
パシュウウウ・・・・・・。
そこに立っていたのは、
「ようやく現れましたね、―――仮面ライダー!」
桐嶋は狂喜して『彼ら』の名前を宣言した。
ダブルはその超人的な力で自分と真倉を拘束していた手錠を、パチン、と壊して外す。
「・・・・・・・う〜ん・・・・・・・」
「・・・・・・」
そしてダブルは間抜けな声をあげて未だに気絶している真倉のほうを向き、
「じゃあな、相棒。カッコよかったぜ」
「僕のかわりにこのハーフボイルドを見守ってくれてありがとう、あとはまかせたまえ」
簡単なバトンタッチをした。
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



