Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
蛇の体
廃工場の中心部・第二工場では大小さまざまな組立機械があり、その機械で順々に作業するためのベルトコンベアが工場のいたるところに設置されていた。
夜の闇のせいで視界はかなり悪く、一歩踏み出せばどこかの鉄棒に体をぶつけてしまうような不安定な空間。
そんな不安定な空間に、二つの不可解な人影があった。
「シャアァァァ・・・・・・っ!!」
一人は鋭いナイフを持った蛇のような怪人。
「ふっふぅぅ・・・・・・っ!」
もう一人は左右で色が違う、アシンメトリーの怪人。
二人はその工場内でベルトコンベアや組立機械をはさんで対峙していた。
蛇の怪人、―――桐嶋藤次は自分と対峙している怪人・仮面ライダーWをまるで獲物をみる狩人のような目でじっくり観察する。
「・・・・・・・それがプロジェクト"W"の基本形態、サイクロンジョーカーですか。・・・・・・ふん、想像していたよりも大したことはなさそうだ」
桐嶋はダブルの姿をみて鼻で笑う。
「へっ、本当にそうか試してみな!」
そう言うとダブルは桐嶋のところへと突撃する。
「うおおおお!!」
途中、ベルトコンベアや組立機械などの障害物を飛び越えたり潜ったりしながらも、人間をはるかに超えるスピードで桐嶋へと接近、そして―――、
「うおらぁ!!」
ジョーカーメモリの驚異的な運動能力から繰り出される右ストレート。
ドーパント化した永田を一発でノックアウトしたその攻撃は、
しゅるん。
まるで手ごたえがなかった。
「な!?」
桐嶋の顔を確かに捉えたはずの拳の場所には、すでに桐嶋の姿はなく、ダブルは拳を空に突き出した状態で棒立ちになっていた。
「おや、一体どこを攻撃しているのですか? ―――私はこちらですよ」
ダブルのすぐ後ろから聞こえる声。
「!!」
ダブルはすぐに振り返る。すると、
「ウッシャアアアア!!」
ヒュパッ! ヒュパッ! ヒュパッ!
そこには高速で繰り出されるナイフの連撃があった。
「うおあ!」
咄嗟に身を引いて距離をとるダブル。
「シャハハハーーーー!!」
ヒュパッ! ヒュパッ! ヒュパッ!
それを逃すまいと、桐嶋は追いかけてナイフを四方に振り回す。
「この・・・・・・っ!」
ヒュパッ! ヒュパッ! ヒュパッ!
縦横斜めからまるでダブルの視界を覆うように繰り出される斬戟。
ヒュパッ! ヒュパッ! ヒュパッ!
「この、いい加減に、―――しろっ!」
ヒュッ!
ダブルはその攻撃をなんとか避けきると隙をついて回し蹴りを放った。
「おっと」
するり。
「!?」
ダブルの隙をついて放ったはずの回し蹴りが空を切る。
(バカな! 今度は確実に捉えたと思ったのに!?)
「ショックを受けている場合ではないかと?」
ヒュパッ! ヒュパッ!
今度はダブルの隙をついて桐嶋が切り込む。
「おおっと!?」
しかしそれを紙一重で避けるダブル。桐嶋と距離をとる。
「チッ」
桐嶋は忌々しそうに舌打ちをする。
「翔太郎、しばらくみないうちに随分とディフェンスが巧くなったじゃないか?」
「ああ、風都署仕込みさ!」
「? どういう意味だい、それは??」
「あ、いや、・・・・・・何でもねぇ」
うっかりさっきの永田戦を思い出し後悔の念に襲われる翔太郎。
戦闘中にもかかわらず余裕なそのダブルの様子を桐嶋は冷ややかな目でみる。
「・・・・・・ふん。逃げ足と軽口だけは一人前ということですか」
「そういうてめーはナイフをぶん回すだけの単調な攻撃しかねーのな。へ、眠くなるぜ!」
「そんなに刃物を振り回したいなら、お料理教室にでも通ってみたらどうだい?」
「ああ、リンゴの皮剥きくらいは上達するかもな!」
「減らず口をっ!」
今度は桐嶋がダブルへと突っ込む。
(さっきの攻撃がなんで当たらなかったのか理由はよく分からねぇが・・・・・・)
ダブルは俊敏な動きで走ってくる桐嶋を見据え、
「今度は、逃がさねぇ!」
後ろへ跳ぶ。
そしてダブルの着地したところは工場の角。袋小路。
「ハッハー! 逃がさないと言って置きながら自ら身動きのとれないところへバックステップですか!? 貴方の行動は理解に苦しみますぇ!」
桐嶋はさらに加速してそのままの勢いでダブルを一突きにせんとナイフを突き出す。
「死ぃぃねぇぇぇ!!」
高速の突進より繰り出される桐嶋のナイフ。
逃げ場のないダブルはその場に立ち尽くし、
「僕らの行動が理解で出来ない? それは単に君の理解力不足さ」
落ちついた声で応えた。
「!?」
「はぁ!」
ひゅん!
桐嶋の疑問も解決しないうちにダブルは行動した。
上。
ダブルはその人並み外れた跳躍力で桐嶋の頭上を跳び越える。
カン。
「な!?」
自分のナイフが空しい音をたてて壁を衝いてもまだ状況が理解出来ない桐嶋。
「さて、―――形勢は逆転したかな?」
一瞬のうちに桐嶋は袋小路に追い詰められ、ダブルは追い詰める側へと交替した。
「おっと、俺たちみたいに上へ逃げても無駄だぜ? サイクロンジョーカーのスピードならてめーが跳んだ瞬間に撃ち落とすくらいわけないからな!」
「・・・・・・」
沈黙する桐嶋。
桐嶋は想像できていなかった。
ダブルの運動能力を。
桐嶋は理解していなかった。
左翔太郎とフィリップという男が、こと怪人戦においては百戦錬磨だということを。
「さぁて。あと煮るなり焼くなりご自由に、ってか? 覚悟してもらうぜ、参謀の桐嶋さんよ?」
「ついでに残りの仲間のことについても教えてもらおうか。君たちの組織には実に興味がある」
指をパキパキ鳴らしながら身動きの取れない桐嶋へとにじり寄っていくダブル。
「・・・・・・」
それに桐嶋は黙って俯いていた。
「よーし、観念したみてーだな? 普通の人間ならここで勘弁してやるところだが」
「僕達は君達を侮るつもりはない、念のためメモリは破壊させてもらおう」
「・・・・・・」
相変わらず沈黙の桐嶋。
「うおおおお!!」
ダブルは桐嶋に向かって渾身のパンチを放つ。
しゅるん。
しかし、それにはまたも手ごたえがなかった。
視界が不明瞭で桐嶋がどこへ逃げたかは分からない。
「!? 上か!」
しかし逃げられる場所は自然限られてくる。
ダブルは桐嶋を撃ち落とさんと上へ顔を上げる。だが、
「残念、不正解です」
しかし桐嶋の声が聞こえたのは真逆の『下』だった。
桐嶋は人体の骨格では絶対に不可能な動きでダブルの股下をすり抜けた。
「な!?」
「に!?」
しゅるん。しゅるり。しゃらん。
驚愕するダブルをよそに、桐嶋はベルトコンベアや機械類が複雑に設置されている工場内を手足をろくに使わず腹這いで避けながら動きまわる。
そしてある程度ダブルとの距離を置くと、
「シャアァァァ・・・・・・っ!!」
桐嶋はベルトコンベアのレールに『巻き付いて』みせた。
「・・・・・・・こいつは、一体・・・・・・・?」
桐嶋の移動の一部始終をみていたはずのダブルだが、それをみてもなお思考が追いつかない。
そんなダブルの様子を、桐嶋は得意げな顔で見下す。
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



