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鳥籠に咲くは哀色の華

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「あ…貴方は…」
数日後。菅原はあの時の衝撃をもう一度味わうことになった。
初めての客が来ていると言われて行った座敷で待っていたのはあの時の彼だったからだ。
「やっと、会えた」
にっこりと笑顔を向けられて少し戸惑いながらも顔には出さないように務めながら座敷に腰をおろす。
「俺、澤村大地。よろしくな!」
「はい…あ、俺は…」
「菅原太夫」
「…! その、呼び方は…」
菅原が表情を曇らせたのを見ながら澤村は続けた。
「まだ太夫でもないのにそう呼ばれてるんだってな。知り合いに聞いたよ」
「…俺のお客さんで俺のことすごく気に入ってくれた人がいて…『未来の菅原太夫だな』って言いだしたのが始まりで知らないうちにどんどん広がってて…」
表情を曇らせたままそう語る菅原を見ていた澤村はおもむろに何やら呟き始める。
「うーん、菅原…すが…」
菅原が呆気にとられて何も言えずにいると澤村はふいに顔を上げて膝を叩くと嬉しそうにこう言った。
「よし、決めた! お前のことはこれからスガって呼ぶから!」
「…は?」
「菅原だからスガ。ちょっと安直だけど親しみがあっていいだろ?」
「あの、ええと」
話についていけず菅原はおろおろと澤村を見ることしかできない。
澤村はまったく気にする様子もなくさらに続けた。
「俺のことは大地でいいよ。後、敬語とかもナシな! 見たとこ同じくらいの年っぽいし」
次々と決まっていく事柄に菅原はただ呆然とするしかない。
今まで強引に事に及ぼうとした客ならいたが、こんなことは初めてだ。
どうしたらいいのかまったくわからない。
何も反応できない菅原を見て澤村は急に心配そうな顔になる。
「あ、嫌だったらゴメン。でも、俺…」
「…いいよ」
澤村の言葉を遮るように菅原は言った。
「これからも来てくれるんだろ? ならよろしくな、大地」
それを聞くと澤村は安心したようにまたにかっと笑うと「おう」と答えたのだった。


澤村が帰ったあと、部屋に戻りながら先ほどのことを思い返す。
「あだ名で呼ばれるなんて初めてだ…」
自分が菅原太夫と呼ばれることを良く思っていなかったことに気づいたのだろうか。
少し強引だけど、でも自分勝手というわけでもない。
突然色々と話を進められたのでびっくりしたが、思い返してみれば別にこちらが困るようなことは何も言われていない。
澤村には今までの客とは違う何かがあるような気がする。
それが何かはわからないけれど。
そしてそれは不思議と嫌ではなかったのだった。
「次はいつ来てくれるかな…大地」
その夜部屋から見えた月はいつもより少しだけ輝いて見えた気がした。
作品名:鳥籠に咲くは哀色の華 作家名:今井鈴鹿