二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Fate/fiction in library

INDEX|4ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

 うろたえながらも、細々と言った言葉を音にしてから後悔した。しかし、少女は機嫌を損ねるような素振りはなく、むしろ面白がっているような表情で首を横に振る。
「さっき、わたしの目的をちゃあんと言ったと思ったんだけど……。あなた、ほんとに寝ぼけてるわけじゃないのね」
 少女は弦技を顔からなにかを探るように見つめた。全身を舐めるような不躾な視線にも、蛇に睨まれた蛙の弦技は為すがままだった。
 観察し終わったのか、顎に手を添えて、ため息をついた。
 会話が途切れる。ここは少しでも時間を稼ぎたい。ならば、先程の態度に少し苛立ちを覚えたというふうな口振りで言った。
「なにを言ってるんだ、さっきから。テロリストに馴れ馴れしくされる覚えなんてないし、追われるようなことをした覚えこそ無い」
 ……少し強気過ぎたかもしれない。
 このような行為に走る人物は、大抵自分より下の人間を探す。下の人間が服従し、いいなりになる様にカタルシスを感じるクズ野郎だ。いいなりにならないものやその毛色を見せたものは、見せしめや見せつけのために必要以上の行動に出る。
 しかし、それも彼女には見られず、腰に手を当て、深いため息をつく。そして、右手をふらふら振りながら、気怠そうに、
「いいの。覚えがなくても、構わないわ。記憶が無いなら、きっと本当に記憶はないのよ」
 弦技は後悔を取り消し、ナイスプレーと心のうちで自分を称える。まだ途切れぬ、続きの言葉を耳にするまでは。
 少女は、言葉に笑みを挟み、より強い視線と共に、聞き慣れた――しかし、それはいくつか聞いた時とは全く別の言葉に聞こえるほどに、言葉に重みがあった。
「――それでも、殺すけどね」
 全身が泡立つ。それは、確かに今までとは違う感情の色が、その視線から感じられたからだ。刺さるように、視線は精神を貫く。獲物に狙いをつけた肉食獣のような――暗い感情を理性で留めた“殺気”というものだ。
 彼女は構えた。それは、その手は指でっぽうでも撃つかのように、人差し指をこちらに向け、親指を垂直に立てている。
 思わず口を半開きにして硬直し、唖然とした弦技だったが、やがて、そのまっすぐ伸ばした人差し指の先から、火球がふわりと浮かび上がった。それが次第に膨らんで、強い光を放ち、酸素を吸い込み、熱を持って炎は盛り出す。炎は閃光となって、放たれた。
 光は頬を掠め、焦がし、過ぎ去った後に、鈍い破砕音が聞こえ、白の塗装に飾られた金属が、少女と弦技の間に落ちる。細かな破片が後頭部に振りかけられたのを感じる。
 振り返りたくなかった。背をなにかが照らすのがわかった。
 めらめら。
 ばちばち。
 走っている最中に見た、崖側を塞ぐガードレールの先には樹木がいくつか植林されているのを思い出す。
 少女の顔は真剣だった。
「次は、当てるから」
 と、一言だけ告げた。
「――……」
 もしかすれば、彼女は人を殺めるような人間ではないのかもしれない。
 さきほどの殺気は素人のものではないのはわかる。しかし、そこまで遠くはないこの距離で、外してしまうということは、銃撃のような先程の攻撃もあまり慣れていないと思われた。だのに、弦技の思考はそこまで及ばなかった。
 くちをぱくぱくと開閉させ、乾いた口内環境を確認した。それは、言葉にならない言葉が発せられた副産物で、気がつけば、腰を抜かし、無様に少女を見上げていた。
 逃げ出そうと体重を支える腕は地面を掴むが、完全に抜けてしまった腰は弦技の身体をしっかりと地面に固定していた。
 テロリストは、少年の哀れな様にもうろたえなかった。しっかりを的を据え、片目を閉じ、呼吸を整えている。

 ……呼べ。助けを。

 弦技は、ふと声を聞いたようだった。

 ……放て。力を。

「なにか、遺言とか、ある?」
 テロリストが震えた声で一つ尋ねた。だが、弦技の思考は微かに聞こえる遠い声に集中している。

 ……紡げ。言葉を。

「なにも……ないのね」
 そう言って、少女は息を潜めた。指先の火球は風に吹かれながら、その大きさを増してゆく。
 弦技は回想していた。今日一日の出来事を、一つずつ、一つずつ。
 この声が――この囁きが示す言葉は――?

 ……思い出せ。その名を。

 つばを飲む音が聞こえた。
 それほどの静寂と、それほどの緊張が命の灯火を消すこの瞬間にはあった。
 今度は、呼吸をする音も止まった。それによって、一時の間、静寂は完璧なものとなる。

 ……願え、救いを。

 思い出せない。それが、なんなのか。だが、心当たりはある。それは――早朝。気がつけばボクの目覚まし時計を止めていた、槍を携えた奇妙な女武者の――その名前は、
 歯を食いしばる。その拳よりも大きく肥大した火炎の弾丸が被弾したならば、確実に命はないというのに、その痛みを堪え、受ける覚悟を平和ボケした脳みそは反射的に行った。
「――」
 音もなく、見えぬ引き金が絞られる。応じて火球がさらに肥大する。肥大する火球は空気中の水分を奪い、チリチリと音を鳴らし、この距離でも目玉は熱を感じて、眼球の水分は失われる。その実感を――生きている実感をする。この実感を最後に、自分は死ぬと悟った。
 それでも、脳に響く幻聴は止まなかった。最後になると思ったその言葉はひとつの記憶を呼び起こす引き金になった。それは、
 
 叫べ!! 聖杯に授けられし、我の仮の名を!!

 その言葉は無意識だった。死という緊張でつっかえていた記憶の枷は、死を受け入れラその瞬間取れた。それは思わずこぼれたような独り言。
 だが、そんな微かな呟きに、叫べと告げていたそれは――弦技の剣であり、盾であり、鎧である――それは、応じたのだ。

 金属が弾丸を弾くような、甲高い音が頭上に響いた。
 死を覚悟した少年の視線は空を向いていた。記憶を探れば、その時の空は白く曇っていたはずだった。
 だが、今、そこには自分の顔を覗きこむ女の姿があった。
 それは、出来るならば忘れ去ってしまいたい女の姿だった。

    ◯

 その女の姿はあまりに奇怪であり、近未来的和装ファッションとでも評するべきなのか。
 具体的に言うと。
 黒いパンストに、白いスクール水着を模したものを着ている。袖は上腕を覆う程度の半袖だ。胸元は非常に強調されており、青のプロテクターと黒のリボンで飾られている。上腕にプロテクター、腕にも篭手を装備し、下駄を模したヒールの靴と脛当て、腰には袴の正面と後ろを切り開いたように取り付けられた覆いがあり、角のような銀と青の簪でポニーテール調に束ねている。武者のような槍騎士。これで、宛ら幽霊の如く消えたり現れたりするのだ。姿も相まって、まるで落ち武者だ。
 その顔は笑みだ。確か、今日以来ではあるが、最後に弦技は、不要だ。どっかに行け痴女。と罵っていたはずだ。その宣言が覆されたことが余程彼女の心を満たしているのだろうか。
 上がった口角は、言葉を紡ぐ動きを見せたが、言葉になる前に、それは断たれた。
 空気を含んだ大布をはたき落とし、切り断つような音を生み、槍騎士が払ったのは、少女のはなったそれとは比較にならないほどの火炎弾だった。
「あなたが、ランサーですね」
作品名:Fate/fiction in library 作家名:ROM勢