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Fate/fiction in library

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 そう尋ねた声の主は、右手をこちらに翳しながら、睨む女剣士だった。ポニーテールというよりは、束ねるような長髪、左右非対称なその格好は、左太ももの付け根まで露出しながら、右足のくるぶしまで隠れた長短両立したジーンズ、みぞおちまで上げた白シャツは、その位置で結び目を作り、衝撃的なダメージジーンズにとらわれそうになるが、異様なのはその和声の格好のベルトは長刀のホルダーでもあるウエスタンベルト。さらに、靴は脛を覆うウエスタンブーツ。アメリカンと武士謎の組み合わせである。
 言うなれば、ウエスタンルックサムライガールとでも言うのだろうか。もし、彼女が女性として非常に魅力的なスタイルを有してなければ、変な格好をした女剣士である。
 ランサーは眉根を寄せ、長槍を持ち手の手首で一回りさせ、矛先を西洋被れの侍に向け、やや強い口調で確かに、と言い、しかし、と続けて、言った。
「いくら拙者が登場してすぐに名乗らなかったからって、いきなり拙者の仮の名を言い当てるのはどうかと思うでござるよ!!」
 思わず、唖然とする。
 それは向こうのテロリストの女の子も同じで、呆れ半分唖然半分といった表情であった。
 西洋風侍は腰の長刀に右手を添え、抜き身の姿勢だ。まったく気にしていないのか。
 しかし、ランサーは気にもとめず、真剣に怒っている。
 弦技はランサーに寄り縋りながら、一度怒りを収めようとするが、掴んだ腕を振りほどかれ、尻餅をついた。女武者は弦技に謝罪もせず、長槍をバトンのように振り回し、長槍の石突をコンクリートの道路に打ち付けて、高い音を響かせつつ言った。
「カッコよく名乗りをせねば拙者の気持ちが晴れぬから、言わせてもらう」
 どうしても言いたいらしい。もう好きにさせてやれ。と弦技は思う。
 ランサーは弦技の心を読み取ったのか、武者らしく、御免と断りを入れ、高らかに叫んだ。
「――拙者、聖杯により束ねられし七つの英魂が一つ。聖杯により授けられし仮の名は、最速の仇名を冠し槍技の武者・ランサー。今、この冬木の地にて見参した――で御座るよ」
 やや長かった口上を聞く観客であるテロリストの少女は既に意識を別に移していたようで、まったく耳に入っていない様子だ。目が血走ってきょろきょろと辺りを見回している。  
 もう一人の観客である西洋風侍は先程から一分も眉を動かしていない。彼女こそは酷く胸焼けのする女武者口上をほんとに聞いていたのか、否、間違いなく聞いていなかった。
 しかし、一切聞いてもらえなかったというのに、槍騎士の横顔はこの上なく喜悦に満ち足りていた。
 弦技は一体なにが起こっていて、なにが始まるのか理解していなかったが、内心に不安の隙間風が吹き抜けた。

     ◯

 槍と太刀は拮抗していた。
 口上を終えた槍騎士はまさに武人であった。隙のない流れるような連続攻撃。
 突き、薙ぎ、石突きを利用し、絶えぬ手数は手練れでこそわかるが、槍を弾く勢いすらも利用している。そして、その一挙一動ごとに速さを増していく。
 弾かれることも想定に入れた攻撃ということは、相手の思考を読むということなのか。もし異なるのなら、それはおそらく、膨大な情報量になるだろう。だが、処理スピードはその膨大な情報量に反して戦闘に活用できるほどのものである。
 戦闘を補助するデバイスでもあるのか、それとも戦闘においてのみ発揮される天性の勘なのか。
 対して剣士は常に太刀を鞘に収めていた。時折抜刀しては、鞘に収める。居合の剣士であった。
 その攻撃は一瞬の閃きの如く。
 また、剣士は虚空から斬撃を放つ。近寄れば身動きを封じ、一撃必殺の抜刀術で仕留める。
 狡猾な戦術でありながら、その剣士の身体的スペックも高かった。速さにおいては加速し続けるランサーに未だ劣らない。
 戦闘は拮抗し、山を抜け、住宅街を通り、やがてひとつの場所にたどり着く。
 穂群原学園。弦技の在籍する、校庭の広い学校だ。
 その時弦技は、まるでここで争えと言わんばかりの広さだと。まるでここが戦うための場所だったかのようなことを心のうちで思っていた。
 でも、今繰り広げられているモノを見れば、それを否定する者は居ないと思う。

 着いてから、息をつかぬ間に交わった剣槍の瞬間を目視できたのは、当事者である二人だけだった。

   ◯

 空を覆っていた薄い白雲は、既に一片も残っていなかった。
 
     ◯
 
 剣槍の交わりを、眺めるものが居た。
 その瞬間こそ目視できはしなかったようだが、その視線は戦う二人の戦士の動きを追っているかのように忙しない。
 その双眸の持ち主は、まだ幼い少年だった。青色の長袖に、オーバーオール。目深の帽子には長い睫毛、瞳は夕暮れの海に浮かぶ黒真珠のように、煌めく赤の虹彩の内に黒の瞳孔が収められている。
 場所は、学園から程遠い町外れの廃ビルが集う場所だ。少年が座っていたのは、壁が繰り抜かれ、崖のようになった廃ビルの数階だ。
 そこでなら、ようやく豆粒のような穂群原学園が見える程度だから、おそらく少年も人間ではないのか、それとも全く別のものをみていたのかもしれない。
 さらに、少年の近くでは喧騒があった。金属が打ち合う甲高い音や岩を抉る音、柱を砕き、爆裂する音。それが、たった今止んだ。
 しばらくの静寂に、二つほど置いて、それが戦いの終わりを意味するものだと知った少年は、その重い腰を上げた。身なりのいい風な服装でありながら、使い古されたスニーカーが少年特有の無邪気さが表されているようであった。
 喧騒は少年の真後ろで響いていた。一つ部屋を隔てていたため、少年は巻き込まれなかった。
 少年はその部屋同士の唯一の繋がりである扉を開いた。そこには、血だまりがあった。
 もちろん、血はそれだけではないのだが、壁にはどんなシミがあり、天井から滴る水滴の数だとか、その量がどれほどかなどは描写が長くなるので省略するが、せめて、量だけ説明するのなら、約ヒト三人分だと少年は思った。
 血だまりに浮かぶ影は青年であった。黒の学ラン、短い髪、平均的な背丈、よく言えば可愛らしい。悪く言えば童顔な青年は服装に違わず、まさに現役学生のような雰囲気がある。血だまりに沈んでいる現状の印象を排せばの話だが。
 少年はその血だまりの青年を認めると、満身創痍といった青年に対してわざとらしく笑みを浮かべ、声を高ずらせて言った。
「おいおい。みっともないなあ、それでも英雄か? どろどろと汚く汚れて、これじゃあ勝ったのか負けたのかわからないじゃないか」
 青年は答えない。代わりに口角を上げてみせた。それを見、少年は続けた。
「まあ、ボクは燃費がいいからね。多少宝具というか、必殺技みたいなのを多用してもぜんぜんいいとは言ったけど、まったく辛くないわけじゃあないんだよ。そこのところわかってる?」
 やや置いて、青年は僅かに首を縦に動かした。それを認めてから、少年も口角を上げた。少年に似つかわしくないねっとりとした笑みから、鋭く尖った八重歯が煌めいた。
「でも、しょうがないか。君、弱いし。そのくせ勝手に街を歩きまわって三人のサーヴァントに喧嘩売ってくるんだもん。バカとかそういう次元じゃないよねえ」
作品名:Fate/fiction in library 作家名:ROM勢