黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8
「そうかい、そんじゃこれからどこに行ったらいいか分からねえだろ?」
「まあな」
「一応、こっから南の所にマドラって町があるんだけどよ、今あそこ行くのは危ねえんだよなぁ…」
マドラに向かう途中にあるデカン高原は干ばつによって崩れやすくなっているという。落盤が多発しており、その上凶暴な魔物が多くいる。越えるならば相当な準備が必要となるであろう。
男は何か思い出した。
「おおそうだ、兄ちゃんカンドラ寺に行ってみたらどうだい?」
「カンドラ寺?」
「そうさ、あそこじゃ修行を積むと奥義が手にはいるって話だぜ。修行して強くなれるんだ、兄ちゃんにとっても悪い話じゃねえだろ?」
ガルシアは思った。
これから先旅を続けていく中で魔物との戦いは避けては通れないであろう。しかもシンがいなくなった以上もうこれまでのように守ってもらうという事はできない。自分や仲間の身を守る為にも力をつけなければならない。カンドラ寺に行けば多少なりとも力を得ることができるかもしれない。
「そうだな…」
ガルシアは決断した。
「行ってみるか、カンドラ寺に」
「お、そうかい。なら場所を教えとくぜ。カンドラ寺はここから西の山あいにある、そんなに遠くないから行けば分かると思うぜ」
「ありがとう、世話になった」
ガルシアは礼を言うと露店を後にした。
※※※
ガルシアは宿に戻り、仲間に露店で聞いた話を聞かせ、仲間全員でカンドラ寺を目指していた。
露店の男はすぐに着くような事を言っていたが、意外と道は険しく、山あいどころか山奥に寺は位置しているらしかった。
もうそこそこ歩いているというのにそれらしき寺は見えてこない。
「兄さん、本当にカンドラ寺なんてあるの?」
険しい道のりに息を切らしながらジャスミンは訊ねた。
「多分あるはずだ、あの男が嘘を言っていなければ」
ガルシアは答えた。
「ねえ、もしかして道を間違えたんじゃない?」
今度はシバが訊ねた。
「いや、そんなはずは…」
そんなはずはない、何故ならば確かに道は険しいながらも拓けている。見た目は獣道に近いが、これは人が歩くからこそできた道である。これを辿って来たのだから途中で道を間違えるなどということはないはずである。
「ひい、ひい、ガルシア、ちょっと休まんか?」
更にしばらく歩いてからスクレータが言った。やはりこの道は老体には堪えるようだった。
「仕方ない、この辺で少し…」
ガルシアが言いかけた途端にシバは高台を指差し言った。
「ねえガルシア、あれがカンドラ寺じゃない?」
ガルシアもシバの指差す方向を見た。ここよりも更に高い所に岩山に接した建造物が見えた。
それはあまり見かけない建物である。デリィで教えられた位置も考えてそれがカンドラ寺だというのは想像に難くなかった。
「きっとあれがカンドラ寺に違いない。よし、一気に登ろう」
「なんじゃと、まだ登ると言うんか?」
「後少しじゃない、頑張りましょう!」
ジャスミンはスクレータを励ました。スクレータはただただうなだれるだけだった。
更に坂を登ること十数分、ガルシア達はようやくカンドラ寺に辿り着いた。
寺と名を冠しているが、旅の途中、アンガラ大陸で見たそれとはまるで外見が違っていた。
フーチン寺やラマ寺は木造で荘厳な雰囲気を醸し出していたが、このカンドラ寺は石造りの簡素な造りであった。しかし、外見は違えど信仰の対象は仏ということに変わりはないようであった。変わりないどころか、他の寺では仏像を置いている程度なのに、このカンドラ寺では壁に仏の彫刻がなされている。信仰心はこちらの方が強いというのが窺えた。
ガルシア達は中に入れてもらおうと門へ向かった。門は固く閉ざされており、門前には幼い坊主が立ちふさがっていた。
「カンドラ寺へようこそお出でくださいました。ですが今は修行中でございます。また時間を改めていらして頂けますか」
坊主は言った。
「俺達もここへは修行に来たのだが」
ガルシアは目的を説明した。
「修行に、ですか。分かりました、僧達の修行が終わった後ピポイ様にお取り次ぎいたしましょう。それまで待っていてもらえますか?」
「すまないが、その修行はいつまで続くんだ?」
ガルシアは訊ねた。すると幼き坊主は胸を張って、
「悟りを開くまでです!」
と答えた。
「…いや、だからいつ終わるのかを…」
「冗談ですよ、悟りは一朝一夕で開けるものではありません。今日の修行は夕方まで続きます」
現在時刻は正午を過ぎた辺りである。夕方というとこれから五、六時間後の事である。
「夕方までだって!?」
「そんなに待てんぞい…」
「ねえ、どうしても入れてもらえないかしら?」
シバは頼んだ。
「駄目です。お通しすることはできません!」
「そんな事言わずにお願い、ね」
今度はジャスミンがしゃがんで坊主と同じ視点になり、頼み込んだ。
「何と言われようとも駄目なものは駄目です!」
坊主は全く揺るがない。
「何よ、ケチねえ。そんなんじゃ女の子に好かれないわよ」
「私は仏様に仕える身です。女性に好かれる必要などありません!」
「なんですって!?」
ジャスミンは立ち上がって坊主といがみ合いを始めた。
「まあまあジャスミン…」
ガルシアは二人の間に割って入った。
「子供相手にそんなにムキになる事はないだろう?」
ガルシアは宥めた。そして坊主に向き直り、詫びた。
「すまなかった、また後で出直すことにしよう」
ガルシア達は一先ず門前から離れた。その間に坊主はジャスミンに向けて舌を出して挑発していた。ジャスミンも負けじとやり返すのだった。
「ガルシア、どうするんじゃ。本当に夕暮れまで待つと言うんか?」
「そうよガルシア、私嫌よ。何時間も待つなんて」
「大丈夫、俺にいい考えがある」
ガルシアは寺を囲む壁の裏手に回って壁を丹念に調べ始めた。壁の上を見たり、触ってみたり、下も調べてみた。
壁の上を見るもよじ登って越えるには高すぎた。何より中にいる僧達に気付かれて厄介な事になりかねない。
ならば壁そのものにどこか外れそうな所はないか探した。これは特に見つからない。
「兄さん、一体何をしているの?」
ガルシアは答えず、地面に這いつくばり、壁の下を丹念に調べていた。そして、ついにガルシアの探し求めるものが見つかった。
「あった、ここだ」
ガルシアは草の隙間から覗く壁の穴を見つけた。穴の前に生える草を払いのけると、人一人がやっと通れそうな穴が現れた。
「なるほど、ガルシアはこれを探しとったんじゃな」
「これほど古い寺だ。探せばどこかに穴でも空いているのではと思ってな」
「でも服が汚れそうね」
シバは言った。
「仕方ないわよ、ずっと待つよりいいでしょ」
ガルシアは這って穴から壁の内側を覗いた。広場の真ん中の辺りで三人の僧が座禅を組んで瞑想している。中に入っても気付かれそうもなかった。
「よし、入ろう」
ガルシア達は這って穴を潜った。
※※※
カンドラ寺修行の穴、その名が示す通り並の精神力では潜り抜けられない厳しい洞穴であった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8 作家名:綾田宗