黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9
アカフブはガンボマ像の舌を登り、内部へと入っていった。
※※※
黒水晶がガンボマ像の内部へ飛び込んできた。
「僕の黒水晶!」
ピカードは取ろうとした。しかし、手からすり抜けてしまった。そのまま黒水晶は床を転がり、壁の隙間へ転がり込んでしまった。
「僕の黒水晶が!?」
壁の近くにいたシンがその隙間へ手を入れた。穴は意外に深く、黒水晶は見つからなかった。
「くそ、意外と深くて手が届かない…」
「ああ、もう終わりだ。僕は一生レムリアには帰れないんだ…!」
ピカードは一気に涙声になった。
「ほう、これがガンボマ様の内部か…」
そこへ全ての元凶たるアカフブが入ってきた。入るとすぐにガルシア達に気が付いた。
「誰だお前達は、盗賊か!?このキボンボに、しかもガンボマ様の中にまで入り込むとは不届き千万なやつらめ…」
「ちょっと、せっかく私達が儀式の手伝いをしてあげたってのに、そんな言いぐさはないんじゃない?」
シバは食ってかかった。
「儀式の手伝いだと?オレはそんなもの頼んだ覚えはないぞ」
「ちょっと一緒に来てちょうだい」
話しても無駄であろうと、シバとジャスミンはアカフブの手を掴み、ここより上の像の頭の部分へ連れた。上へ行くと、自分達が何をしていたのか説明するとすぐに下に戻ってきた。
「そんな事をしていたのか、それはご苦労だったな。で、お前達はそのためだけにここへ来たのか?」
「そんなわけないでしょ、あなたが盗んだ黒水晶を取り戻しに来たのよ」
説明しても感謝の言葉一つ送らないアカフブが内心腹立たしかったが、シバは淡々と言った。
「黒水晶か、儀式が終われば返すつもりだった。欲しければ持っていけばいい」
「それが壁の隙間に入っちゃったのよ」
シンはまだ壁の隙間を手探りしている。側には今すぐにも泣き出しそうなピカードが立ち尽くしていた。
徐にシンは穴の中を覗いてみた。よく見ると奥には明かりらしきものが見えた。
「おい、この先道がずっと広がってるぜ!」
驚いてピカードも覗いてみた。
「本当だ、光が見える…」
「すまんが、ちょっとどいてもらおうか」
アカフブが壁の前に立つと、シンとピカードは横によけた。
アカフブは壁を見た。壁にはガンボマの絵が描かれている。そのガンボマが胡座をかいて座った姿の絵の手に、微妙な窪みがあった。
「そうか、この先が真の儀式の部屋か…」
アカフブは黒い玉を取り出した。それは儀式の部屋を開く鍵だと言い伝えられてきたものだった。それをガンボマの絵の窪みにはめ込んだ。
ぴっ、と壁に切れ目が走ると扉が開くように壁が左右に割れた。案の定その先には通路があった。
「お前達に黒水晶を返してやれるやもしれんな」
アカフブは一言言い、奥へと進んでいった。
「アカフブ、どうやら本当に返す意志があるようだな」
「僕達も追いかけましょう!」
ピカードを先頭にガルシア達も儀式の部屋へ向かった。長い通路を進み、黒魔術の力で動くリフトに乗り、さらに奥へと続く通路を行った。
一番奥には実物をまるっきり縮小したようなガンボマ像があり、側にはアカフブが立っていた。
像の手の上にピカードの黒水晶がある。傷はなく、割れているところもなかった。
「ふん、お前達も来たか。それにしても儀式の部屋へ来たのだが、私はここで一体何をすれば…」
「今度こそ僕の黒水晶!」
ピカードが像の上の黒水晶へ手を伸ばしたその瞬間だった。
像から波動が発せられ、辺りを紫の霧が漂う不思議な空間にした。同時に黒水晶が浮かび上がってしまった。
「どうして!?」
ピカードは再び手にすることができなかった。
瞬間、この空間にいるもの全員の心に声が響いた。
――よくぞ来た。黒魔術を得んとする者よ――
「その声は、我が偉大なる神、ガンボマ、あなた様か!?」
――いかにも、私こそがガンボマだ――
声はガルシア達にもはっきり聞こえている。
「我が神、ガンボマよ。我はあなた様の導きに従い、儀式の間へやって来た。どうか我に黒魔術の力を!」
――我は汝を実力あるものとして認め、黒魔術を与えよう――
ガンボマ像の目が光った。するとアカフブの頭に羽根が現れ、同時に純白のガウンが身を包み込んだ。
「やった、やったぞ。遂にオレは黒魔術を手に入れたのだ!」
アカフブは狂わんばかりに笑い声を上げ、部屋を駆け出ていった。
――そして、もう一つ、これこそが黒魔術の全て…、とまだ渡すものがあったのにアカフブはどこかへ行ってしまった――
ガンボマが最後に渡そうとしていたものは表紙が全て黒い、本のようなものだった。
――未熟者め、やはり黒魔術はまだ渡さない事としよう――
ふと、おい、という言葉がガルシアに投げかけられた。ガルシアは反応しない、再び言葉がかけられ、自分の事かと周りを見回した。
――キョロキョロしてるお前の事だ!――
ガルシアははっとなった。
「俺に、何かあるのか?」
――見ての通り、アカフブは未熟だ。だが、お前からなかなかの力を感じる、この魔導書『ネクロノミコン』はお前にやるとしよう――
ガルシアの手元に例の黒い本が落ちてきた。
ガンボマによると、この本を使うことで、黒魔術の力を発揮できるのだという。精神力を本によって魔法に変換する、そのため、相応の精神力を持つ者にしか本を使いこなすことはできない。
「俺が貰ってもいいのか?」
――黒魔術を奪われるのはあ奴が未熟だからだ。とは言ってもこれではやはりアカフブが可哀想だ――
そこで、とガンボマはある条件を出した。
まず一つは、黒魔術をガルシアが受け取った事をアカフブに内緒にすることだった。
黒魔術を奪われたと知ればきっとアカフブは落ち込むことであろう、そうなればきっと彼は村を治めなくなってしまうことだろう、それは大いに困ることである。
もう一つとして、黒魔術はガルシアも受け取ることができるとアカフブに伝え、どちらが先に得られるか競争という嘘を言うことだった。
単純ながらもなかなかに闘争心の強いアカフブである。黒魔術を奪われまいと、ガンボマに認められるべく更なる努力を重ねることであろう、そうすることでアカフブ自身も成長し、キボンボもより良い村になっていくことであろう。
――以上の約束を守ってくれるか?――
「ああ、別に構わない」
――ならばネクロノミコンはお前の物だ。有効に使うがよい。では私は眠ろう、アカフブが成長し、再びここへ来るその時まで…――
周囲を包んでいた霧が消え、宙に浮いていた黒水晶もガンボマ像の手に戻った。
ピカードはすぐさまそれを手に取った。
「やった、やっと取り戻したぞ、僕の黒水晶!」
ピカードは黒水晶を大切そうにしまい込んだ。
「なあ、ガルシア。その本どんな事が書いてあるんだ?」
シンは訊ねた。ガルシアは一通り本のページをめくってみた。
魔導書、ネクロノミコンはほとんど白紙のページであった。何一つとして書き付けられていない。
「おかしい、何も書いていないぞ」
「おいおい、あのガンボマとかいう神様に騙されたんじゃねえか?」
シンは笑った。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9 作家名:綾田宗