黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9
「今村に着いたばかりだ。それよりエミシ、訊きたいんだが、オロチは、魔龍オロチはどうなったんだ!?」
リョウカは迫った。
「お、落ち着けリョウカ、ちゃんと話す…」
リョウカを宥め、エミシはゆっくりと語りだした。
「大体想像はついているかもしれんが、オロチは村に襲ってきた」
リョウカは絶句した。エミシは続ける。
「オロチは今から二週間ほど前の祭の夜に突然現れた。その時はスサが一人で戦ったんだが、オロチにはかなわなかった…」
その後、上手くオロチをたぶらかし、クシナダが生贄になると言い出さなかったらどうなっていたことか、エミシは全てを伝えた。
「そんな、クシナダが…クシナダは今どうして?」
「逃げられないよう、蔵に閉じ込められてる…」
「何だと!?」
リョウカは驚き、そして憤ってエミシに掴み掛からん勢いで迫った。
「お前達みすみすクシナダを生贄にするつもりか、助けようという気は無いのか!?」
「お、落ち着けよリョウカ」
ロビンは止めようとした。リョウカはエミシに掴み掛かっていた。
「ま、待てリョウカ誤解だ。これはクシナダ自身の意思なんだ!」
「嘘を付くな、言うに事欠いたか!?」
「本当だ、話を聞いてくれ」
リョウカはロビンに引き離され、エミシは解放された。
襟を正すとエミシは理由を話した。
エミシの言うとおりクシナダは自ら囚われの身となることを望んだ。その理由というのが村の皆から、特にも恋人であるスサから隔絶される事で未練の残らないようにする為であった。
「誰もクシナダを閉じ込めるはずがないだろう。クシナダはもう何日も閉じこもっている、食事もとらずにな。このままでは生贄となる前に死んでしまうかもしれない…」
リョウカは歯噛みをし、拳を強く握り締めるとばっと振り返り駆け出そうとした。
「リョウカ!」
「リョウカ、どこへ行くんだ!?」
ロビン達やエミシが引き止めた。
「決まっているオロチの所へ行くんだ!」
リョウカは振り向いた。
「止せ、いくらお前でも無謀だ」
エミシは言った。
「私は村を救う為に戻ってきたんだ、これは当然の行動だ!」
それに、リョウカは続けた。
「私達には伝説の『あまくもの剣』がある」
エミシは驚いた。
「それは本当か!?」
「ああ、そこのロビンがあまくもの剣、いや、真の名は『ガイアの剣』を持っている」
エミシはロビンに目を向けた。視線に気が付くとロビンはガイアの剣を背中から抜いた。
その刃の輝きはエミシを確信させるのに十分であった。
「その並々ならぬ輝き、まさか本当にあまくもの剣…」
「これで分かったろう、では私達はフジ山へ行く」
リョウカは急ぎフジ山へ行こうとした。
「待て、せめて行くならばウズメ様の所へ行ってからにするんだ」
リョウカは歩みを止めた。
「ウズメ様…」
「そうだ、ウズメ様はお前が旅に出てから大層心配されていた。無事に戻ったその姿見せてやってくれ。リョウカのお姉さんも心配していたぞ」
村の長や姉の事を聞き、リョウカは出発をためらった。確かに自らの使命を果たしたことをウズメらに伝えねばならない、姉にもシンの最期を告げなければならなかった。
「分かった…」
リョウカはため息を付いた。
「お前の言うとおりにしよう」
行こう、と告げるとリョウカは歩き出した。ロビン達も後に続く。
「そこの、ロビンと言ったか?」
エミシは呼び止めた。
「はい、何でしょうか?」
「君がどうしてあまくもの剣を持っているのかは知らないが、その剣こそがオロチを倒すただ一つの鍵となる。どうかオロチを倒してくれ」
ロビンは力強く頷いた。そして先に行った仲間達を追いかけた。
※※※
イズモ村の中で一際大きな屋敷が北の高台に建っていた。これこそが村の長、ウズメの住む屋敷であった。
「ここがウズメ様の屋敷だ」
リョウカは仲間達に告げた。
「へえ、結構でかいなあ」
ジェラルドは感嘆の声を洩らした。
「ウズメ様は聡明なお方だ。ジェラルド、くれぐれも粗相のないようにな」
リョウカは注意した。へいへい、とジェラルドは答える。
「さあ、中に入ろう」
リョウカが先に屋敷へ入り、ロビン達はその後に続いた。
「失礼します」
リョウカは入り口で深々と頭を下げ、そして屋敷へ上がった。
ロビン達もそれぞれ挨拶して上がった。
「ウズメ様、いらっしゃいますか?」
奥の方の扉が開き、一人の女性が姿を現した。
艶めく黒髪で額に飾りを着け、紫の着物を身に着けている。ロビン達には見たことのない人物であるが、この女性こそがウズメなのだろうと想像が付いた。
「お客様ですか?申し訳ありません、私は今誰とも会いたくはないのです。どうかお引き取りを…」
突然の来客に帰ってもらおうと応対したウズメはリョウカを見て顔色が変わった。
「あなた、まさか…!?」
「お久しぶりです、ウズメ様」
「リョウカ!?」
ウズメはただただ驚くばかりだった。
その後ウズメはリョウカ達を屋敷の奥へ案内し、お茶を用意した。それからここ数日の間村に起こった事を全て話し出した。
祭の夜にオロチが現れ、スサが一人で戦った。しかし、圧倒的な力の差に満身創痍で大敗してしまった。
オロチの復活を誰よりも先に見越していたウズメは大量の酒を用意していた。それも普通よりもかなり強い酒である。この場はオロチを酔わせ、どうにかやり過ごすというつもりだった。
普通の人ならば三杯も飲めばすっかり酔いつぶれるほどに強い酒であったが、オロチは用意した酒樽全てを空にしてようやく少し酔いを見せるという状態だった。
その後すっかり気分をよくしたオロチはこの酒を毎日フジ山へ持ってくる事、そしてクシナダを生贄とする事を要求してきたのだった。
「そんな事があったんですか…」
リョウカは言った。地の灯台が灯る事によって恐れていた事が起こってしまったのだと、思い知らされていた。
「スサでさえ全くオロチには歯が立ちませんでした。それほどまでにオロチの力は強大なのです」
ウズメは視線を卓へ落とした。
「なあ、さっきから何回か話にでてるけどスサってのはどんなやつなんだ?」
ジェラルドは訊ねた。
「こら、ジェラルド、言葉には気を付けろと言ったろう」
リョウカは注意した。
「いいですよリョウカ、ジェラルドと言いましたね。スサとは私の弟の事です」
リョウカをなだめ、ウズメは紹介した。
スサの名を聞き、リョウカはふと思い出した。
「そういえば、村に来てからスサの姿を一度も見てはいませんが、彼は一体どこへ?」
ウズメは訪ねられ、再び視線を落とした。
「スサは、昨日フジ山へ行ってしまいました」
スサは一度オロチと戦い、なすすべなく敗れてしまっている。その戦いで負った傷はかなり深いものでつい最近までずっと怪我の治療をしていたのだった。
しかし、まだ怪我の完治していない体でスサは突然オロチの所へ行くと言い出した。当然ウズメはそんな事は許さなかった。
どんなにスサを止めようとも彼は聞き入れず、ついに彼はフジ山へオロチ討伐へ向かってしまった。生贄となった大切な恋人であるクシナダを何としても救いたかったのだ。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9 作家名:綾田宗