黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9
イワンとメアリィは教えられるとすんなりできるようになった。一方ロビンとジェラルドはなかなか扱えずにいた。
ロビンとジェラルドは顔を赤くしながら箸に悪戦苦闘していた。その様子をヒナは苦笑しながら見、二人が箸を落とす度に教えた。結局彼らが箸をそれなりに扱えるようになるのに十数分かかった。
「う、うめえ!ハシは難しいけど料理は最高だぜ!」
ジェラルドは絶賛した。
「本当、素材本来の味が活きてて美味しいですよ」
イワンもヒナの料理に満足していた。
「あらそう?喜んでもらえて嬉しいわ」
ヒナは微笑んで言った。
「お代わりはあるから遠慮しないでね」
「え、マジ!?じゃあお代わり!」
早速ジェラルドが代わりを求めた。
「ジェラルド、もうちょっと遠慮ってものをなぁ…」
ロビンは言った。
「あら、本当にいいのよ遠慮しなくて。ロビン、あなたもどう?」
断ってしまうのは逆に失礼な気がした。
「え、ああ、じゃあ…、お願いします…」
ロビンは皿を差し出した。
「はいはい、ちょっと待っててね」
ヒナは笑顔で二人の皿を受け取り、竈の方へ向かっていった。
賑やかな夕食の中で一人リョウカは黙々と食べ物を口へ運んでいた。これから告げねばならない事を思うと、とても料理を味わう事もできず、ほとんど喉を通らなかった。
討滅者の使命を引き受けたのは紛れもない自分自身である。誰から頼まれたわけでも押しつけられたわけでもない。引き受けたからには最後までやり通す義務がある。
この期に及んでまだ姉に事実を告げる事に恐怖を感じていた。一度は吹っ切れたように話す覚悟をした。しかし、実際その場面に出くわすとやはり迷わずにはいられない。
皆の食事が一段落した頃、リョウカは静かに箸を置いた。
「どうしたのリョウカ、もういいの?」
リョウカの皿にはまだ沢山料理が残っていた。
リョウカはまっすぐにヒナの目を見つめた。
「姉様、お話があります…」
ヒナはリョウカの様子から彼女が言わんとする事を悟ったように真剣な眼差しを返した。
「何かしら…」
「討滅の使命の事です…」
ついに言った、ロビン達も緊張感に包まれた。彼らは思わず驚いてしまったが、ヒナは微動だにしない。ただまっすぐにリョウカを見つめ返していた。夕食の時の穏やかな表情とは一転していた。
「………」
ヒナは何も言わない。ロビン達も雰囲気に飲み込まれ、一言も言葉を発さず、部屋は沈黙に包まれた。
「どうしたの、お話があるんじゃないの。そういえば、あなたが帰ったということは使命を果たしたって事よね?そうでしょ」
リョウカは意を決して口を開いた。
「兄様、いえ、村に仇なす反逆者シンは、私が倒しました!」
思わず大声になってしまった。それでもヒナは全て知っているかのように一切驚いた様子を見せない。
「そう…」
ヒナはそっと目を閉じた。
「よくやったわ、リョウカ」
実の弟が亡くなったという事実を突きつけられながらも、悲しむ素振りもない。
「おい、あんたの家族が死んだんだぜ?何でそんな平気でいられんだよ」
ジェラルドは言った。
「覚悟はしていたからよ…」
ヒナは静かに告げた。
弟のシンがオロチの魔の手から村を救うべく村を出て行き、後に彼の行動そのものがオロチ復活の引き金となることが分かり、妹のリョウカがシン討滅の使命を引き受けた。その時既にどちらかはもう死んでいるものだと思うようにしていた。
灯台を灯す事で、オロチの復活を助長したのはシンではなく、黒幕は他にいた。そんな事はヒナには知る由もなかった。
弟達がいなくなって間もない頃はヒナも悲しみに包まれた。大切な彼らの内どちらかが必ず死ぬことになる、そう思うだけでいたたまれない気持ちになった。
しかし、時が経つにつれて、ヒナにある考えが浮かんだ。弟妹の死に対する覚悟ができたというよりは一種の開き直りであった。
二人とも進む道はどうであれ、どちらも村を救うために突き進んでいるのである。ならば悲しみに暮れる必要はない、ただどちらかが目的を果たし、帰ってくるのを待つのみ、と、そして。
「リョウカ、あなたが帰ってきた。シンを倒してね…」
ヒナは全てを告げた。
「あなたも使命だからシンは討たなければならなかった。掟を破ったのはあの子の方だし、あなたが気に病む必要はないわ」
けれど、ヒナは続ける。
「あの子が果たせなかった事、シンの分まであなたは戦わなければならないのよ、リョウカ」
気に病むなと言われても、それはリョウカにとって到底無理な話であった。しかし、ヒナの言うことは良く分かった。もとより、シンの最終的な目的であったオロチの討伐は必ず果たすつもりであった。
「姉様、兄様の探し求めていたあまくもの剣は、見つけました…」
ヒナは少し驚きを見せた。
「それって、あの伝説の?」
「はい、ロビンの背中の剣がそうです」
ヒナはロビンに目を向けた。ロビンが剣を抜こうとするとヒナは視線を逸らした。
「私達は明日、オロチの討滅に向かいます。あまくもの剣があれば、きっとオロチを倒せます」
リョウカは言った。
「シンが探してた剣、本当にあるなんてね…」
ヒナは呟いた。
「行きなさい、あなた達ならきっとオロチに勝てるわ。オロチを倒してシンの仇を取るのよ、リョウカ!」
ヒナはまっすぐリョウカを見つめた。
「はい、必ずオロチを倒します!」
リョウカも力強く応えるのだった。
夕食が終わり、ヒナは後片付けをしていた。沢の所で食器を洗っている。
「お手伝いしましょうか?」
イワンとメアリィが沢までやって来た。
「いいわよ、みんなでゆっくりしておいで」
ヒナは微笑んでやんわりと断った。
「これくらいの事はお手伝いしないと申し訳ないです」
「それにボク達、ロビン達の話について行けなくなっていた所なので」
明日オロチとどう戦うか、その作戦を立てていた。最初はまともな案が出されていたが、次第にジェラルドが無茶な事を言い始めた。それにリョウカが反発し、ロビンがなだめるといった状態となった。
だんだん話はオロチの事とは逸れてジェラルドの普段の行いの話になってしまい、呆れ果てたイワン達はこうしてヒナの手伝いに来たのだった。
「そう…、じゃあお願いしようかしら?」
「はい、お任せください」
清らかな沢の水でイワン達も食器を洗い始めた。
「ねえ、二人に訊きたいんだけど…」
ヒナは訊ねた。
「どうしました?」
「リョウカの事なんだけど、あの子みんなに迷惑かけるような事なかったかしら?」
リョウカはあの通りきつい性格である。負けず嫌いで、自分の力には自信があるようで、少し人を見下すような物言いをする事がある。
こういった態度が仲間を傷つけるような事がなかったか心配になったのだった。
「そんな事はありませんでしたわ」
「そうですよ、戦いの時はロビンとジェラルドと一緒に先頭に立ってくれて、とても頼もしいですよ」
イワン、メアリィは答えた。
「そう、よかったわ。あの子あんな性格だから小さい頃は友達もできなかったものだから…」
妹が上手くやって行けている様子を聞いてヒナは安心した。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9 作家名:綾田宗