黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 10
ヒナとリョウカは同時に同じ技を繰り出した。跳び上がる時に刀を鞘から抜き放ち、空中で身を翻し前に回転しつつオロチを斬りつけた。二度同じ場所を斬ることで深い傷を与える事ができた。
「うおおりゃ!」
ジェラルドの渾身の一撃も加わる。オロチにかなりのダメージを与える事ができた。
気の錯乱を使った動きで翻弄し、斬りつける、翻弄され動けなくなったオロチにジェラルドが渾身の一撃を加える、といった攻めは幾度となく続いた。
それでもオロチは倒れない。回復が追いつかなくなり始めてはいるが、それでも確実に傷は塞がっている。
「ちきしょう、なんてしぶとい奴だ…」
ジェラルドは息が上がり始めていた。
「危ない、ジェラルド!」
リョウカは叫んだ。ジェラルドにオロチの吐き出した炎が迫っていた。疲労で確認が遅れてしまったのだ。
「しまった!」
炎はかわしきれない所まで迫っている。ジェラルドは手を前にやった。
『レジスト!』
炎があたったはずなのに少しも熱さを感じず、不思議になってジェラルドは手をどかした。
ジェラルドの目の前で炎が光壁に阻まれていた。
『アクアフォール!』
メアリィは空中に雨雲を作り、雨を降らせる事によって炎を消した。
「お前ら!」
イワンとメアリィは笑みを見せた。
「ボク達も」
「戦いますわ!」
新たな助っ人にヒナは微笑んだ。
「リョウカ、あなたのお友達はみんな頼もしいわね」
「勿論です、姉様!」
リョウカは素直に褒めの言葉を受け取った。かつての彼女では考えられない事だった。
本当に変わったわね、ヒナは思うのだった。
「ロビン!」
ヒナは大声で訊ねる。
「力はもう十分かしら!?」
ロビンも大声で答える。
「いつでも!」
全ては揃った。ついにこの血戦も終わりを告げようとしていた。
「行くわよみんな、全力でぶつかるわよ!」
リョウカ達は応えた。
「くらいやがれ…」
ジェラルドは胸の前で手を合わせ、エナジーを貯め込んだ。エナジーは真っ赤な球体となり、徐々に大きくなっていく。最大になった時、それを放った。
『ヒートバーナー!』
大きな炎が一直線にオロチに向かっていく。
リョウカは構え、刀にエナジーを込める。エナジーの蓄積と共に刀が赤い輝きを放つ。
「炎龍刃!」
刀を抜き放つと、その軌跡から龍の姿をした炎がオロチへと襲いかかった。
『シャインプラズマ!』
『アイスホーン!』
イワンによる輝く落雷が、メアリィによる氷の槍が降りかかった。
「ぐおおおお!」
四人のエナジーを同時に受け、オロチはなすすべなくその身を砕いていく。
ヒナは刀から眩い閃光を放った。それとほぼ同時に閃光と共にオロチの周りを駆け巡った。その動きは最早目では捉えられない、光のみが星を描くようにオロチの周囲を回っているように見える。
オロチの周囲を五度駆け抜けた後、オロチの後ろにヒナの姿が現れた。
「瞬星刃…!」
刀を納めると更なる閃光がオロチを突き上げた。
「今よロビン!」
ヒナは叫んだ。
ガイアの剣は輝きを放っていた。強力なタイタニックを放つべく貯められた力は最大に達していた。
「はあああ!」
ロビンはガイアの剣を振り上げた。
「タイタニック!」
空間より巨大な剣が出現し、オロチを脳天から突き刺した。
剣は大地のエネルギーを撒き散らし、オロチを貫いていく。そして引き起こされる爆発の中でオロチは叫び声を上げた。
「グワアアアア!」
前足、後ろ足をそれぞれ一本ずつ砕き失い、背中の羽は膜がボロボロになり、全身から血を噴き出している。
それにもかかわらずオロチは一向に死ぬ気配がない。
「おかしい、奴め、あれほどまでの傷を受けながらどうして死なない?」
リョウカは言った。最早傷は致命傷の域を超えており、普通ならばとっくに死んでいるはずである。その場にいる全員が思うことだった。
「オロチは絶対に死ぬことはないわ。何があっても、絶対にね…」
するとヒナは叫んだ。
「スサ、今よ!」
いつの間にやら自分の持つ力全てを貯めていたスサが、その力を解放した。
スサの体が光を放っている。まるでスサの心臓の鼓動を表すかのように光は規則的に脈動している。
「これは、まさか!?」
リョウカはこの呪術に覚えがあった。昔に話で聞いただけで実際に目にするのは初めてであったが。
「そう、これが太古の昔にミコトがオロチとの戦いの末にオロチを封じた力よ」
「ではこれを使えばスサが…!」
ミコトがこれを使った時、これがもとでその命を失っている。それをスサが使おうとしている、スサの命も危険であった。
「大丈夫、ミコトはこれを使って死んだように語り継がれているけど、本当は戦いの傷がもとで死んだの。スサはきっと大丈夫…」
しかしこの力は命を削っている事に他ならない。十分に命は危険であった。
「大丈夫よ、きっと上手くいくわ。ミコトが自分の子孫を守ってくれる…」
光の脈動が最高に早く、強くなった時、スサは大声で詠唱した。
『昇華・封滅!』
瞬間、周囲が眩い光に包まれるとオロチの体が石へと変化していく。
まるで水が氷へと変わっていくかのようにオロチの表面は固まり、石に包まれていく。数千年という長い年月眠りについていた石像の姿となっていく。
そして遂にオロチは全身を石に包まれ、再びその姿を石像とした。これからも死ぬことのないオロチはこの姿のまま悠久の時を過ごす事となるであろう。
「オロチ、恐ろしい敵だったわね…」
言うとヒナはロビン達を見た。
「あなた達のおかげでオロチは再び封印されたわ。本当にありがとう、これでイズモ村に平和が戻る…」
次にスサを向いた。
「スサ、あなたもお疲れ様」
するとスサは目を閉ざし、そのまま後ろへ倒れ込んだ。
「スサ!?」
リョウカはすぐさまスサを抱き起こした。
「スサ、おいスサ!しっかり…」
オロチ封滅の呪法はやはり命を削るものであった。あれほどの力を使えば命に関わるのも当然であるように思われた。
「スサ、スサぁ!」
「…うっせえな」
スサは迷惑そうに目を開けた。
「オレは死んじゃいねえよ。ミコトとは違うぜ…」
愛した女を一人残し死んでいったミコトとは違う、スサは言うのだった。
「良かった、てっきり生命力を全て使い果たしたのかと…」
「…まあ、とは言ってもさすがに疲れたな…。オレはここでしばらく休んでる、お前達は村に戻って姉貴にオロチは倒したって言っといてくれ…もちろん…倒し…たのは…」
言い切らない内にスサは再び目を閉じ、そのまま寝息を立てて深い眠りについてしまった。
「よっぽど疲れたみたいね…」
リョウカがスサを地面にそっと横たえると、ヒナが言った。
「スサはあたしに任せてあなた達は先に村に帰りなさい。ウズメもきっと心配しているわ」
「しかし…」
「大丈夫、オロチはこの通りよ。もう心配いらないわ」
それでもリョウカはなかなか帰る気にならなかった。
「まあまあ、姉ちゃんもこう言ってんだから素直に帰ろうぜ?」
ジェラルドも疲れを見せていた。
「リョウカ、君も一度倒れてるんだからここは戻った方がいいよ」
ロビンは言った。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 10 作家名:綾田宗