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Wizard//Magica Wish −13−

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………

「あ……あぁ……」


世界が歪む。今、立っていることでさえ奇跡だ。

ほんの数十秒でものすごい情報量を頭に突っ込まれた感じだ。

何が起こったのだろうか?

いや、なにも起きていない。

ただ、信じることができない、状況を理解しようとしない。


「まどか」

「ひぃっ…」

嫌だ…もう何も聞きたくない。
真実なんて知りたくない。

ハルト君がソウルジェム?魔女化?ワルプルギスの夜?

私が…殺される?


冗談じゃない…これ以上 ほむらちゃんの話なんて聞けない。
自分が自分で無くなってしまいそうだ。

…ここにいちゃ駄目だ。
逃げなきゃ…早く家に帰らなくちゃ!!


「っ!!!!」

「ま、まどかっ!?」


私は走った。

何処へ?もちろん自分の家に向かって。
怖い…怖い、怖い、怖い!!

私の周りの何もかもが怖い、すべてが怖い!

「はぁっ!はぁっ!」

公園を抜けて歩道を駆け抜ける。
車道を走る車のライトが眩しい。通りすぎる人が何事かとこちらに振り返る。

全てがどうでもよかった。



「はぁっ!はぁっ!げほごほっはぁっ!はぁっ!」



喉が痛い、お腹も痛い、頭がグラグラする。



「かはぁっ!!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」



誰か…助けて…

いやだ


こんなの嫌だぁ…



「うっ、ひぐっ!はぁっ!はぁっ!うぅっ!!はぁっ!はぁっ!」



そうだ…こうやっていつまでも逃げ続ければ良いんだ。


私の周りがこうやって変わっていくのなら、逃げれば良い。

物事が変化してしまうのなら、逃げれば良い。




永遠なんてないのなら…



逃げれば…





「もう逃げないでっ!!まどかぁっ!!!!」

「っ!!?」



突然、脳裏に声が響き渡った。
気付けば、私は歩道橋の上を走っていた。

すぐ真下は車道、沢山の車が走っている。

私は走るのを止めて後ろを振り返った。


そこには、息を切らして私の後を追っていた、ほむらちゃんが立っていた。



「はぁっはぁっ…もう、逃げないで!…まどか」

「げほっ!はぁっ!はぁっ!…ほむら…ちゃん…?」



酷く息切れをしていた まどか に近づくように ほむら はゆっくりと歩き始めた。
ほむら も まどかと同様、息切れをしながら咳を何度もしていた。

「お願い…お願いだから前を見て!真実を受け止めて!!大丈夫…まどか は、まどかは!」

「ひぐっ…ほむらちゃん」



「まどか は、私が守るわ…っ!」
「ほ、ほむらちゃぁん…」


ほむら は優しく まどか を抱きしめ、慰めるように背中を撫でてあげた。
その瞬間、まどかの瞳から大量の涙が流れ出し、大泣きし始めた。


・・・


「……ぐすっ…ごめんね…ほむらちゃん」

「私こそ、まどかの気持ちを考えずに…謝るのは私よ…ごめんなさい」


まどか と ほむら は手をつなぎながら、とある場所を目指していた。
若干、まどかの瞳には涙がにじみ出ていたが、ほむら が手を繋いでいるためか正気を保っている状態である。
ほむら は罪悪感を感じたのか、ずっと下を向きっぱなしである、そんな彼女の異変に まどか は感づいた。

「あっ…えっとね。確かにさ…最初、いろんなこと聞かされたのはびっくりしたよ、けどね、その…もちろん怖かったけど…逆に、今私がやらなきゃいけないことが、わかったんだ」

「まどか…?」

「…私ね、ハルトくんに約束したこと忘れてた」


「っ!まどか…」


その瞬間、ほむら が まどか とつないでいた手を強く握った。
だが笑顔で まどかは答えた。


「私はね、ハルトくんの希望になるって約束したの。ほむらちゃんも覚えているんでしょ?」

「まどか、あなたはまだそんなこと…」

「でも、約束は約束…だから私は決意した」


まどか も ほむらとつないでいた手を強く握った。




「こんな事、本当は許される訳じゃないってこと、嫌ってほど解っている。けど、あの人がハルトくんを苦しめているっていうなら…私はあの人を…倒すよ」

「まどか…」


「大丈夫だよ、ほむらちゃん。あの人さえ私達の手で倒すことが出来れば、きっとハルトくんの魔女化も阻止できるだろうし…私もきっと死なないよ。ね?」

「………。」


いや、違う。
まどかは、嘘を言っている。

本当はメデューサ…いえ、ミサを倒すことなんてできないくせに。
こんな優しい子が、誰かを倒すなんてこと絶対に言えないくせに。

きっと私の事を精一杯の嘘で気遣っているんだ。

まどか の手がすごく震えている。汗ばんでいる。
今にも逃げ出したいんだろう…自分が死んでしまうことが怖いんだろう。

あぁ…私はなんて愚かなの。
こんな事になるなら、真実なんて教えなければよかった。


「ほむらちゃんはさ…」

「え?」

「私を死の運命から救うために、未来の世界から来たんでしょ?」

「………。」

「もう良いんだよ?なんとなくさ、わかったんだ」

「……っ…」

「ありがと…ほむらちゃん」


私は、まどか の為に何度も何度も時間を繰り返してきた。
どの時間軸でも彼女を救うことができなかった。

その度に私は涙を流し、再び様々な時間軸を渡り歩いていった。

だから…この世界は、まだワルプルギスの夜が生まれていないこの時間軸は、私にとって最大のチャンスなんだ。

いくら奴に挑んでも勝つことができなかった。
例え勝利できても まどか は魔女化してしまった。
私の目の前で…。


だから、今度こそ。
今度こそ、まだワルプルギスの夜に魔女化していないこの時間軸で操真ハルトを倒すチャンスだった。


本当に謝らなくてはいけないのは私。
あなたの考えに背いてしまう。



きっと まどかは、操真ハルトも…ミサも…戦わないで説得させるつもりなんだろう。



そんな事は絶対にありえない。
無理なんだ。


だから…彼女の変わりに私が手を汚す。
まどか の為なら、どんな事でもする。



私は…





どちらも倒す。





「そうね…メデューサさえ倒せば 操真ハルトの魔女化を阻止することができるかもしれないわね」

「うん…頑張ろ?ほむらちゃん」

「えぇ…」


ごめんなさい…ウィザードはもう手遅れよ。
この魔力の波動…操真ハルトの物でもあり、魔女に近い魔力の波動でもある。

まどか は気付いているのだろうか?



でも安心して…まどか。


今度こそ…全てを終わらせるから。





「………。(操真ハルト…今度こそ…私の手で)」



二人は手を繋ぎ郊外にある開発予定地へと向かう。
ハルトとミサが戦っている戦場の地へと…。


作品名:Wizard//Magica Wish −13− 作家名:a-o-w