Wizard//Magica Wish −13−
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−−−この世界は憎悪で満ち溢れている。
「ふふっ!今日はどんな服着てこうかな~?」
窓から差し込む太陽の光。雲一つない快晴。
今日は最高の日曜日。
私はクローゼットからお気に入りのワンピースを取り出して鏡の前に立った。長くなった黒い髪を後ろにかき分けて一回転する。昨日はヘアーサロンに通ってこの長い髪も整えてもらったし、靴もこの前買ってもらった新しいものだ。
バッグを下げて階段を駆け下りる。
リビングにはママとパパがくつろいでいる。ママはテレビの通販番組を目を傾げて視聴し、パパは朝からずっと新聞を読んでいた。ママはただの専業主婦、けどパパは違う。こう見えて私のパパはコンピューター関係の会社の重役なのだ。たまに融通が利かないことがあるけどもう慣れた。
「ママ、パパ。行ってくるね~」
「あんまり遅くなっちゃダメよ?…あら、この掃除機良いわね…メモメモっと…」
「夜は危険だ。いくら友達がいるからとしても門限までには帰ってくるんだぞ」
「わかった、行ってきます!」
靴を履いて玄関を開ける。
さらに眩しい太陽の光が私に降り注がれた。日焼けクリームをもっと塗ったほうが良いかな?バッグから日焼けクリームを取り出そうとしたとき、ふと腕時計に目が止まった。
「あ、やば…遅刻じゃん!」
友達との待ち合わせの時刻まで残り10分。準備するのに時間をかけすぎたみたい。私は一目散に家から最も近い駅まで全速力で走る。あぁ…せっかくシャワー浴びたのに。
息を切らしながら全力疾走で走っているとようやく目の前に待ち合わせ場所である駅が見えてきた。すると見知った人影が2人…あぁ不味い…絶対怒ってるな。
「はぁっはぁっ!ご、ごめぇぇん!!!!」
「あ!やっときたぁ~遅いよ美紗!」
「遅ぇよ馬鹿っ!どんだけ待たせるんだっ!!」
「由真っ!雄吾っ!本っっ当にごめんなさいっ!!!!」
日曜日の昼前だというのに汗を書きながら小学校からの幼馴染である「火野 由真」と「藤田 雄吾」に大きく頭を下げた。…いや、元を辿れば全部私が悪いんだけど。
真由は笑いながら 大丈夫だよっと笑顔で私を慰めてくれるのに対し、雄吾は正反対でどんくさいとかノロマとか…とにかく怒っていた。
「ったく!美紗の家からこの駅までそんなに離れてねぇのに、なんでいっつも遅れてくるんだよ!!どんだけ時間にルーズなんだ!!」
「しょ、しょうがないじゃない!雄吾と違って私は女の子なんだから!!」
「そんなの言い訳にもなんねーよ!大体、美紗はもっと余裕をもって行動するべきだっ!」
「ひっどーい!!それじゃあ私がなんかだらしない女みたいじゃないっ!第一、雄吾は昔っから時間時間うるさいのよ!!」
「まぁまぁ二人共落ち着いて!ほら、そろそろ電車出ちゃうよ~?」
「あ、やべっ!行くぞ美紗、由真!!」
「ほぉら!美紗、行こ?」
「うんっ!」
雄吾が先に走り出し、由真の手に引っ張られて私は駅のホームへと駆け込む。電車は出る寸前だった。本当は駄目な行為だけど駆け込み乗車をした。ギリギリ3人分座れる座席が丁度目の前にあり私達はそこに座った。真ん中に雄吾、右に由真、そして左に私だ。
「都会に行くのも、久しぶりだな」
「うん、この夏で、あと何回行けるかな」
「いっぱい行けるといいね、これからも、ずっと…」
他愛も無い話をする。
高2の夏、来年からは大学受験が控えているからこうやって時間を見つけて都心に遊びに行くことは出来なくなるだろう。
私達は都心を中心に少し離れた地方都市に住んでいる高校2年生の学生だ。そして、私を覗くこの2人は小学校の時からの幼馴染。運が良いのか同じ小学校、中学校、そして高校ともずっと同じクラスだ。
「なぁ由真、なんかガム持ってないか?」
「持ってるわけないでしょ、馬鹿」
「チっ…」
「…今舌打ちした?」
「いや、別に~」
雄吾は昔からこんな感じだ。
襟足をガッツリ伸ばし、前髪はストレートアイロンでM字分け、ワックスを付けてボリュームを出している。いかにも、ちょっとグレた高校生って感じ。我慢が出来なくて何か不条理なことがあればすぐに暴れだす。
でも、本当は違う。
第一印象とは裏腹に実はとても世話好きで口では色々いってもなんやかんやでお人好し、特に時間に対しては一分一秒とも許さない貴重麺だ。
「もう、駄目だよ?雄吾。美紗だって怒ると怖いんだから」
「え、ちょ…由真…」
「由真…お前、遠まわしで俺より酷いこと言ってねぇか?」
由真は雄吾とは別の意味で昔からずっと変わらない。
整った顔立ちの為、小学校時代からクラスの美人ランキングなるもので常にトップを維持する程だ。由真のふわふわで肩までかからないやや茶色の髪がその顔の良さをさらに引き出している。今でも年に4、5回ぐらい告白されているみたいだけど全て断っている。
その理由は簡単。なぜなら、由真は…。
「ちょっと雄吾、肩に糸くず付いてるよ?」
「お、悪い由真。とってくれないか?」
「いいよ。ふふっ!」
由真は、ずっと昔から雄吾の事が好きだった。
作品名:Wizard//Magica Wish −13− 作家名:a-o-w